
ブースの前を、来場者の方が少し歩をゆるめて通り過ぎていく。声をかけたいのに、何と言えばいいか分からない。思い切って「よろしければご覧ください」と声をかけると、会釈だけされて行ってしまう。そんな場面が、会期中に何十回も続いていませんか。
「展示会のブースでは、来場者の方に何を話しかければいいのでしょうか」
話しかける言葉より先に、話の向きを決めておくことです。製品の説明から入ると、来場者の方は「売り込まれる」と感じて離れていかれます。最初の一言は、来場者の方ご自身の現場について聞く言葉にします。来場者の方が自分の話を始めた瞬間から、ブースは説明を聞かされる場所ではなく、相談できる場所に変わります。
以下、声かけで迷う理由から始めて、話の順番、ブースの作り方、会期の前に決めておくことまでを書きます。
1. 声かけで迷うのは、話し方の問題ではありません
ブースに立つ方が声をかけられないのは、口下手だからではありません。迷う場面には、たいてい次のような事情があります。
- 声をかけた瞬間に、相手の表情が固くなる。立ち止まってくださったのに、こちらが一歩近づくと、すっと離れていかれる。
- 何を聞けばいいのか決まっていない。「何かお探しですか」と聞いても、「いえ、見ているだけです」で会話が終わってしまう。
- 説明を始めると止まらない。製品の良さを伝えたくて話すほど、相手の目が資料のほうへ逃げていく。
- 立つ人によって話がばらばら。営業の方、技術の方、応援に来た方で話す中身が違い、誰がどんな話をしたかも残っていない。
- 会期が終わると、何が良かったのか分からない。名刺は集まったけれど、どの声かけが話につながったのか、振り返る手がかりが無い。
5つとも根は同じです。ブースで「何を話すか」は考えていても、「来場者の方に何を話していただくか」が決まっていない。だから、こちらから話すしかなくなり、話すほど離れられてしまいます。
2. 説明から入ると、来場者の方はその日の何社目かの売り込みとして聞きます
来場者の方は、1日にたくさんのブースを回られます。製造業の情報収集層を対象にしたアペルザの来場者調査(延べ413件・2023年)では、1回の来場で訪れるブースは平均17社でした。17社の前で、似たような説明を聞くことになります。
その中で、最初の一言が製品の説明だと、来場者の方は無意識に「その日の何社目かの売り込み」として聞き流します。展示会では「3秒で印象に残らなければ素通りされる」とよく言われますが、言いかえれば、最初の一言で「この会社は自分の話を聞いてくれそうだ」と思っていただけるかどうかです。
同じ調査では、持ち帰った資料の94.9%が保管されないという結果も出ています。説明を尽くして資料を渡しても、会期のあとまで残るものは多くありません。残るのは、来場者の方がご自身で話した記憶のほうです。
3. 声をかける順番は、来場者の方の現場から始めます
弊社が伴走する出展では、ブースに立つ方全員が、次の順番を共有してから会期に入ります。
- 最初の一言は、現場の様子を聞く。「普段はどんな現場をご担当ですか」「いま、こういうことでお困りの場面はありませんか」。製品の名前はまだ出しません。
- 相手の言葉を、そのまま繰り返して確かめる。「夜間の作業で見えにくい、ということですね」。自分の話を聞いてもらえたと感じた方は、続きを話してくださいます。
- 悩みに近い場面を1つだけ見せる。ここで初めて製品やサービスを出します。全部を説明せず、いま聞いた悩みに関係する1つだけにします。
- その方の言葉を記録に残す。どんな立場で、何に困っていて、どこに反応されたか。会期のあとでは聞き直せないので、その場で残します。
- 次に何をするかを、相手と一緒に決める。資料を送るのか、現地を見に行くのか、社内の方に紹介していただくのか。会話を「お礼」で閉じず、次の一歩で閉じます。
この順番があると、立つ人が変わっても話の向きがそろい、会期のあとで「誰がどんな話をしたか」も振り返れるようになります。
4. 声をかけなくても、来場者の方が話し始めるブースにします
とはいえ、通路を歩く方を呼び止めるのは、立つ方にとっても来場者の方にとっても負担です。そこで、声かけの前に、来場者の方が自分から足を止め、自分の話を始めたくなる入口をブースに作ります。
株式会社美華道さまは、床面に貼るサイン「スマートシグナル」の特殊施工をされている会社です。2026年5月の第2回鉄道技術展・大阪では、自社のマスコット「シグナ・ミカ」のマンガをブースの入口にしました。マンガには、来場者の方の現場で起きていそうな場面が描かれています。読んだ方が「うちの現場でも、これがある」とご自身の話を始め、ブースの方はそれを聞いてアンケートへとつなぐ。説明を聞かされる場ではなく、来場者の方ご自身が話す場にしました。
3日間のアンケートは459件、前向きな反応は164件、会期中にその場でいただいた見積は19件でした。もちろん、どの会社でも同じ数字が出るとは申し上げません。ただ、こちらから話しかける回数を増やすより、来場者の方が話し始める入口を作るほうが、立つ方の負担も小さく、残る記録も多くなります。
5. 会期の前に、ブースに立つ方全員で決めておく5つ
- 最初の一言を1つに決める。来場者の方の現場を聞く言葉にします。全員が同じ言葉から始めると、反応の違いも比べられます。
- 聞きたい悩みを3つに絞る。御社が解ける悩みのうち、来場者の方が多く抱えていそうなものを3つ。それ以外の話は無理に広げません。
- 見せる場面を悩みごとに1つずつ用意する。悩みを聞いたあとに、すぐ見せられるものを決めておきます。
- 記録の取り方をそろえる。立場・悩み・反応の3つを、誰が立っても同じ形で残せるようにします。
- 会期後に、誰がどの順で追いかけるかを決める。反応の強い方から順に、会期が終わった翌日には動ける形にします。追いかけ方は展示会のあとのフォローは何から始めるかに書きました。
素通りされる理由そのものについては、展示会で素通りされるのはなぜかもあわせてご覧ください。
6. 1回の出展で終わらせず、毎年続くプロジェクトとして回します
弊社は、展示会のマンガを1枚作ってお渡しする会社ではありません。会期の前に当日会う約束を作り、会期中に来場者の方ご自身が話す場を作り、会期のあとに記録した順で追いかける。そして、その記録を翌年の出展へ持ち越す。前・中・後を、御社の営業の方と一緒に毎年回し続けるプロジェクトの運用者です。
声かけの言葉も、1年目に決めたものが正解とは限りません。どの一言で話が始まり、どの悩みが多かったかを記録しておけば、2年目はもっと確かな一言から始められます。美華道さまとも、関西物流展から鉄道技術展へと出展をまたいでご一緒し、次の出展に向けた準備を続けています。
よくあるご質問
Q1. 「何かお探しですか」と声をかけるのは良くないのでしょうか。
悪い言葉ではありませんが、「見ているだけです」と答えやすい聞き方です。来場者の方の現場の様子を聞く言葉に変えると、答える側も話しやすくなり、会話が続きやすくなります。
Q2. 説明の得意な技術の方が立つと、つい長く話してしまいます。
説明そのものは大切です。ただ、相手の悩みを聞く前に話し始めると、聞きたいことと違う話になりがちです。「悩みを1つ聞いてから、それに関係する場面を1つだけ見せる」という順番を、会期の前に共有しておくと防げます。
Q3. 小さな小間で、ブースの中に入っていただく余裕がありません。
小間が小さくても、通路から見える位置に「来場者の方の現場の場面」を置くことはできます。足を止めた方が自分から話し始める入口があれば、ブースの中に招き入れなくても会話は始められます。
Q4. 記録を取ろうとすると、来場者の方が警戒されませんか。
いきなり用紙を差し出すと、そう感じられることがあります。話を聞いたあとに「今のお話、社内で共有してもよろしいですか」とひと言添えるか、アンケートをブースでの体験の続きに組み込むと、自然に答えていただけます。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
前回の展示会で、ブースに立った方が来場者の方にかけた最初の一言は、何でしたか。そして、その一言のあとに、来場者の方はご自身の現場の話をしてくださいましたか。
その答えが、次の出展で変えるべき、いちばん小さくて確かな所です。
会期の前・中・後を設計し、来場者の方が自分から話し始めるブースを、翌年の出展まで一緒に運用しています。展示会マンガプロジェクトを見る
御社の次の出展でどんな一言から始めるか、一度お話をうかがうこともできます。30分の面談を予約する
ブースでの最初の一言は、製品の説明ではなく、来場者の方の現場を聞く言葉にします。
