
「3日間立ちました。人通りはあるのに、うちのブースの前だけ、みなさん歩く速度が変わりません。呼び込みもしました。それでも足が止まりません。何が悪いのでしょうか」
通路から見て、御社が何屋なのかが読めていません。呼び込みは、足を止める手段ではなく、止まった人に声をかける手段です。読めるようにするのが先で、声をかけるのはそのあとです。
先に、人に話したくなる数字をひとつ置きます。数百社が並ぶ会場で、来場者が実際に立ち寄るのは平均17社です。残りの数百社は、見られなかったのではありません。見られたうえで、通過されています。
開場から30分、通路の側に立ってご自分のブースを見てください。歩いてくる人が、御社の前で目線を上げるか、上げないか。それだけを数えてください。上げないまま通り過ぎた人の数が、その日の答えです。
以下、通路から何が見えているかを分けたうえで、公表されている調査と、弊社が出展側に立って記録してきたことを並べます。
1. 素通りは、興味がないから起きているのではありません
足が止まらない理由を「うちの商材に興味がないから」と結論づけると、打つ手がなくなります。実際に起きているのは、別のことです。
製造業向けの情報サイトを運営するアペルザが来場者に行った調査(有効回答413名)では、来場者が1回の展示会で訪問するブースは平均17社でした。数百社が並ぶ会場で、1人が立ち寄るのは17社です。残りは見ていないのではなく、見たうえで通過しています。
通過するかどうかを決めているのは、歩きながらの一瞬です。展示会の現場では「3秒以内に何の会社か分からなければ通り過ぎられる」とよく言われます。秒数そのものは業界の定説であって、弊社が計測した数字ではありません。ただ、来場者が17社しか回らないという実測と重ねると、向きとしては合っています。選ばれているのではなく、絞られています。
だからブースの前で起きているのは、判断ではなく仕分けです。仕分けの段階では、御社の技術力も、価格も、担当者の人柄も、まだ材料になっていません。
2. 通路から読めるようにするために、直すのは3か所です
費用をかけずに、次の出展までに直せる3か所を挙げます。
- 社名の看板を、仕事の看板に替える。「株式会社◯◯」ではなく「◯◯を◯◯する会社です」と書く。来場者は社名を探していません。自分の困りごとに合う言葉を探しています
- いちばん見せたいものを、目の高さに上げる。机の上に平置きした製品は、通路からは見えていません。立っている人の視線は、床から150センチ前後を水平に走っています
- ブースの手前1メートルを空ける。入口に机とスタッフが並んでいると、通路からは壁に見えます。空いている場所には人が入り、詰まっている場所は避けられます
3か所に共通しているのは、どれも中身を変えていないことです。同じ製品、同じ人、同じ小間で、通路からの見え方だけを変えています。
誰がブースに立つかも同じ話です。展示会のブースには誰が立てばよいかを先に決めておくと、この3か所は当日に崩れません。
3. 足を止めた人が、そのあと消えていきます
ここからが本題です。素通りを減らす手当てをすると、立ち寄ってくださる方は増えます。ところが、その先で同じ数だけ落ちます。
同じアペルザの調査では、来場者が持ち帰った資料のうち94.9パーセントは保管されていませんでした。名刺についても、Sansanが行った調査(有効回答1,272名)で、受け取った名刺の57.7パーセントが管理されていないという結果が出ています。展示会の現場で「集めた名刺の9割は捨てているのも同然だ」と言われるのは、この感覚を指しています。
一方で、同じ調査には別の数字もあります。展示会でブースを訪問したあと、56.6パーセントの来場者が検討を開始しています。つまり、その場で話した相手は動いています。動いていないのは、紙だけを受け取った相手です。
この2つを並べると、何が残って何が消えるのかがはっきりします。残るのは、その場で交わした会話です。消えるのは、会話のないまま渡された紙と、会話のないまま交換された名刺です。
4. 素通りを止めても、リスト集めがゴールになっていれば同じです
弊社が展示会の現場でいちばん多く見てきたのは、リスト集めがゴールになっている状態です。
名刺を何枚集めたかで当日を評価し、集めたリストを会期後にテレアポやメールで追いかければ商談になる、という段取りが組まれています。この段取りは、その場で盛り上がった相手に対してだけ機能します。データだけを取られた相手にとって、会期後の連絡は、心当たりのない会社からの営業です。
ですから、素通りを止める手当てには続きが要ります。足を止めていただいたあと、その3分間で相手に何が起きたか。困りごとを1つ言葉にできたか。うちの話を誰かにしたくなったか。会期後の連絡が読まれるかどうかは、名刺の枚数ではなく、ここで決まっています。
会期後に連絡しても返事が来ないという状態は、会期後に原因があるように見えて、当日の3分間に原因があります。展示会のフォローに返事が来ないという話も、たどると同じ場所に着きます。
5. 出展側に11回立って、通路から見えたこと
弊社は、フランスで開催されるジャパンエキスポ等へ累計11回出展しています。支援する側としてではなく、自分たちで小間を借り、自分たちで立ってきました。
最初の数回は、通路から素通りされました。日本から持ち込んだ作品を並べ、社名のパネルを掲げ、日本語と英語で説明を用意していました。それでも足は止まりませんでした。原因は、並べたものが「何であるか」は示していても、「通りがかった人に何が起きるか」を示していなかったことでした。
変えたのは、絵を描いている手元が通路から見えるようにしたことです。完成品ではなく、描いている途中を見えるところに出しました。すると、立ち止まった人が背後にたまり、その人だかりがまた次の人を止めるようになりました。
正直に申し上げると、この1件だけで方法の優劣は決まりません。海外の来場者と国内のBtoB展示会では、来場の動機も滞在時間も違います。それでも1つ確かなことがあります。並べたものは同じで、見せ方を変えただけで足が止まりました。足りなかったのは商材ではなく、通路からの読みやすさでした。
弊社が展示会でマンガという形をとっているのも、絵が目立つからではありません。通路からでも、コマの並びだけで何の話か分かるからです。読ませるのではなく、歩きながら見える形にしています。
よくあるご質問
Q1. 小間が小さく、角地でもありません。それでも変わりますか。
変わります。角地や大きな小間が有利なのは事実ですが、来場者が1回で回るのは平均17社です。大きな小間から順に埋まるわけではありません。通路の1方向からでも読めるように整えれば、小間の大きさは決定的な条件ではなくなります。
Q2. 呼び込みのスタッフを増やせば、足は止まりますか。
止まる数は増えますが、止まったあとが変わりません。声をかけられて足を止めた方は、断る前提で止まっています。読めるようにして自分から止まった方とは、その後の3分間の中身が違います。増やす順番としては、読みやすさが先です。
Q3. 派手な装飾をすれば目立ちますか。
目立つことと、読めることは別です。装飾で目を引いても、何屋か分からなければ、視線が向いた直後に通過されます。装飾に予算を使う前に、社名の看板を仕事の看板に替えてください。費用はほとんどかかりません。
Q4. 名刺を集めること自体が、無駄ということですか。
無駄ではありません。ただ、名刺は会話が起きた証拠であって、成果そのものではありません。当日の目標を枚数だけで置くと、会話を切り上げて次の名刺へ動く行動が正しくなってしまいます。枚数と、その場で困りごとを言葉にできた件数を、別々に数えることをお勧めします。
Q5. 出展を続けるべきか、やめるべきか迷っています。
やめる前に、当日の3分間の設計だけを変えて1回出てみてください。展示会は、こちらから会いに行かなくても、課題を持った方が自分の足で歩いてきてくださる場です。この条件を代わりに満たせる手段は、そう多くありません。判断するのは、そのあとで遅くありません。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
いま御社のブースの看板に書かれている言葉は、社名でしょうか。それとも、通りがかった人の困りごとの言葉でしょうか。
その看板の写真を1枚、ご相談のときにお持ちください。通路の側から、一緒に見ます。
展示会での実際の取り組みをご覧いただけます。展示会マンガの事例を見る
来場者は選んでいるのではなく、絞っています。絞られる側にいるかどうかは、通路から決まります。
では、足が止まったあとは?
通路で、実際に何が起きたか


