
「今度の展示会で配るアンケート用紙を作っています。会社名、部署、役職、それから興味のある製品にチェック。だいたいこの形でよいでしょうか。去年もこれで200枚ほど集めたのですが、そのあと何に使えたかと聞かれると、正直お答えできません」
聞く項目を増やす前に、書く人を変えてください。来場者に書いていただくのは連絡先と1問だけでよく、あとで効く中身は、対応した社員がその方を見送った直後に自分で1行足すものです。
先に、判断の助けになる数字をひとつ置きます。来場者が持ち帰った資料の94.9パーセントは保管されません。用紙に何を書いていただいても、その紙は相手の手元に残りません。残るのは、こちら側が書いたほうだけです。
以下、なぜ属性を集めても後で使えないのかを公表されている調査で確かめたうえで、弊社が立ち会った現場で実際に残している項目を、そのまま並べます。
1. 去年のアンケートが使えなかったのは、属性しか残っていないからです
会社名、部署、役職、興味のある製品。この4つは、名刺と同じことしか教えてくれません。つまり「誰が来たか」です。ところが会期のあとに必要になるのは「その方と何が起きたか」のほうで、そこが1行も残っていません。
産業向け展示会の来場者調査(アペルザ・有効回答413名)では、来場者が訪問するブースは平均17社でした。17社を回った方の頭の中で、御社の小間だけが特別な位置を占めていることは、まずありません。名刺についても、法人向けの調査(Sansan・有効回答1,272名)で57.7パーセントが管理されていないという結果が出ています。
ここで起きているのは、双方向の忘却です。相手は御社を思い出せず、御社も相手の何に手ごたえがあったのかを思い出せない。用紙のチェック欄は、この2つ目を防ぐためにあるはずでした。
2. 会期中に何が起きたかだけが、あとの返事を決めています
集めたリストは、あとから電話や案内で温めていけばよい。そう考えられがちです。ところが実際には、そうなりません。データだけ取られて、その場では何も起こらなかった相手に、後日こちらから連絡をしても、返事は返ってきません。会期中に盛り上がらなかった相手は、会期のあとも盛り上がらないからです。
先ほどのアペルザの調査には続きがあります。ブースを訪問したあとに検討を始めたと答えた方が56.6パーセントいました。つまり、通路で足が止まってからの数分間が、あとで検討が始まるかどうかを決めています。あとから追いかけて作れるものではありません。
だとすれば、アンケートの役目も変わります。集めるための用紙ではなく、その数分間に何が起きたかを消えないうちに留める道具になります。会期後に送ったメールの返事が来ないという悩みは、ほとんどがここに原因があります。
3. 対応した人が、見送った直後に残す4つ
来場者が去られたあと、次の方が来られるまでのあいだに、対応した本人が書きます。所要は20秒ほどです。
- どこで足が止まったか。パネルの何行目か、置いてある実物か、動いている映像か。立ち止まらせた物を名詞で書く
- 相手が自分から言われたひと言。「うちもこれで困っている」「これ、何度で使えますか」。要約せず、口から出た言葉のまま書く
- その方の現場の具体。工程名、扱っている材料、処理している数量。相手が話された固有名詞だけを書く
- その場で決められる立場かどうか。決められる、稟議が要る、情報収集の段階。この3つのどれかに丸を付ける
4つとも、来場者に書いていただけるものではありません。2番は本人に「印象に残った点をご記入ください」と書いていただくと、たいてい空欄か「参考になった」になります。口から出た言葉は、聞いた側しか持っていません。
4. 来場者に書いていただくのは、連絡先と1問だけです
用紙そのものは、これ以上ないほど短くします。会社名とお名前とメールアドレス。そして選択肢のない問いを1つだけ置きます。
弊社がお勧めしているのは「いま、いちばん手間がかかっている作業はどれですか」です。製品への興味を尋ねると、来場者はこちらの商品の名前から選びます。自社の作業を尋ねると、来場者は自分の現場から答えます。後日の連絡で使えるのは、後者だけです。
書いていただく欄が減るほど、記入率は上がります。そして空いた時間は、そのまま会話に回ります。記入をお願いしている数十秒は、本来いちばん手ごたえの出る時間です。
5. 誰がいつ書くかを、出展前に決めておきます
この方式が崩れるのは、いつも同じところです。忙しくなると、後でまとめて書こうとして、その日の夜には思い出せなくなります。
ですから、出展の前に3つを決めておきます。1つ目は、対応した本人が書くこと。代表の方がまとめて書き起こすと、名詞と言い回しが平らになります。2つ目は、その方を見送ってから次の方までのあいだに書くこと。3つ目は、書く場所を小さくすること。名刺1枚が入る封筒の表でも、卓上のカード束でも構いません。用紙が大きいと、文章にしようとして書けなくなります。
会期の終わりに、この記録を集めて並べると、翌年の出展の中身がそのまま出てきます。足が止まった物が分かり、刺さった言葉が分かり、どの層が決裁を持っていたかが分かります。展示会の成果を何で報告するかという問いにも、枚数以外の答えを出せるようになります。
6. 会期3日間で459件が集まった現場の記録
弊社が伴走した株式会社美華道さまの記録を、そのままお伝えします。
第2回鉄道技術展・大阪2026(2026年5月27日から29日・インテックス大阪)への出展です。商材は床面サインの特殊施工「スマートシグナル」で、鉄道や物流の現場に線や表示を貼り込む技術です。
会期3日間でアンケートが459件集まりました。前回出展された関西物流展の約12.8倍です。うち前向きなご回答が164件で35.7パーセント。会期中の見積が19件。お話しした相手の75.5パーセントが、JRや上場企業などの大企業層でした。
枚数が増えたことよりも、弊社が大事だと考えているのは19件のほうです。会期中に見積の話まで進んだということは、その場で話が具体になったということです。持ち帰って検討します、で終わっていれば、この数字は出ません。
正直に申し上げると、この1件で方式の優劣は決まりません。展示会の規模も来場者層も前回とは違います。それでも1つ確かなことがあります。同じ会社が、同じ商材で、その場で何を残すかを変えた前と後の記録だということです。
よくあるご質問
Q1. 忙しいブースで、本当に20秒を確保できますか。
確保できるかどうかではなく、確保できる人数で出展するという話になります。同時に3組の対応をして誰も記録できないより、2組ずつ丁寧にお相手して全件残るほうが、翌月に残る商談は多くなります。人数が足りないときは、記録だけを担う方を1名置いてください。対応した人が終わった直後に口頭で伝え、その方が書きます。
Q2. タブレットで入力させたほうが、集計は楽ではありませんか。
集計は楽になります。ただし、選択肢を作った時点で、選択肢の中にある答えしか集まりません。いちばん価値があるのは、こちらが用意していなかった言葉のほうです。紙で書いて、あとから入力される形をお勧めしています。
Q3. 個人情報の取り扱いが心配です。
用紙に書いていただくのは連絡先と1問だけですので、扱う情報はむしろ減ります。利用目的の記載と保管期間は、出展前に社内で決めておいてください。対応した社員が書く4項目は、相手の属性ではなく、こちらの観察の記録です。
Q4. 集まった記録は、いつまでに使えばよいですか。
会期の翌営業日から動いてください。文面には、記録した1番と2番をそのまま入れます。「パネルの前で、うちもこれで困っているとおっしゃった件です」と書ける相手にだけ連絡します。全員に同じ文面を送るのであれば、この記録は要りません。
Q5. アンケートを取らない出展はありえますか。
あります。小間が小さく、人数も限られるときは、名刺と口頭の記録だけで十分に回ります。大事なのは用紙の有無ではなく、その場で何が起きたかが翌日も読める形で残っているかどうかです。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
去年の展示会で集まった用紙の束を、いま開いたとして、そこから「この方は手ごたえがあった」と選び出せる方は何人いらっしゃるでしょうか。
その束を1つ、ご相談のときにお持ちください。どの欄があれば選べたのかを、一緒に見ます。
展示会での実際の取り組みをご覧いただけます。展示会マンガの事例を見る
用紙に残すのは、誰が来たかではありません。その数分間に何が起きたかです。
残っていないと、こうなります
459件が集まった出展の記録


