
「うちはサービス業なので、展示会に出ても並べるものがありません」。出展をご検討中の会社さまから、いちばん多くいただくお言葉です。
結論から申し上げます。ブースに置くのは商品ではありません。置くのは、御社と関わったあとにお客さまの現場がどう変わるのか、その場面です。現物がなくても、場面なら展示できます。
この記事では、展示する現物を持たない会社が、小間の中に何を並べれば会話が始まるのかを、来場者が歩く順番に沿って書きます。装飾を発注する前にご覧ください。
1. 現物がないから困るのではありません
実物を持っている会社が有利かというと、そうでもありません。大きな機械を据えても、通路の人は歩き続けます。製品の実物が伝えるのは「何を売っているか」までで、来場者が知りたいのはその先だからです。
来場者が確かめに来ているのは、自分の現場がどうなるか、です。いま抱えている段取りの詰まりや、人手の足りなさが、この会社と関わるとどう変わるのか。現物はその答えを自分では語りません。
ですから、現物がない会社の課題は「代わりに何を置くか」ではありません。現物がある会社もない会社も、置くべきものは同じです。変わる場面を置く、これだけです。
2. 来場者は、1日で何十もの小間の前を歩いています
出展する側は1つの小間に全力を注ぎます。ところが来場する側は、朝から夕方まで会場を歩き続けています。
製造業向けの情報サイトを運営するアペルザが来場者413名に行った調査では、1回の来場で訪問するブースは平均17社でした。同じ調査で、持ち帰った資料の94.9%は保管されないという結果が出ています。一方で、訪問後に56.6%が具体的な検討を始めたとも答えています。
名刺のほうも同じです。Sansanが1,272名に行った調査では、受け取った名刺の57.7%が管理されないまま残っていました。
展示会の現場では「3秒で印象に残らないと素通りされる」「集めた名刺の9割は捨てているのも同然」とよく言われます。上の調査は、その言われ方が現場感覚として的外れではないことを示しています。ただし秒数や9割という数字そのものが測定されたわけではありませんので、この記事では定説として扱います。
この歩き方をする相手に、仕様表や会社概要を読んでいただくのは無理があります。置くものは、読むものではなく、見て分かるものである必要があります。
3. リストを集めることがゴールになると、置くものが決まりません
ここが、弊社が小間の中に立ち続けて見てきたところです。
展示会が、いつのまにか「リストを集めること」がゴールになっています。名刺を何枚、アンケートを何件、と数が課されます。すると、置くものを決める会議の議題も「どうすれば足を止められるか」ではなく「どうすればアンケートに答えていただけるか」に変わります。
そのあとテレアポやメールで追いかければ商談になる、という前提で設計されている出展を、よくお見かけします。しかしデータだけを取られて、その場では何も交わされていない相手に、後から電話をかけても会話は始まりません。
会期後に返事が来るのは、会期中にその場が盛り上がった相手だけです。何を置くかは、その盛り上がりを作れるかどうかで選びます。
4. 小間に置くのは、この3つです
現物の有無にかかわらず、置くものは3つに絞れます。
- 変わる前の場面。お客さまが困っていたときの現場を、そのまま見えるようにします。ここで「これはうちのことだ」と思っていただけなければ、その先は読まれません。
- 変わったあとの場面。何がどう楽になったのかを、担当者の目線で見えるようにします。数字だけの成果表にしないでください。
- その間に何が起きたのか。前と後をつなぐ経過です。ここが抜けていると、うまくいった自慢話に見えます。
この3つは、写真でも、図でも、マンガでも成立します。共通しているのは、来場者が立ったまま5秒で追えることです。読むのに5分かかるものは、17社を回っている人の手元では開かれません。配っても反応がない販促物が生まれる理由も、この順番の不在にあります。
5. 業種ごとに、置けるものを並べます
現物がない業種でも、置けるものは必ずあります。
- サービス業やコンサルティング。関わる前の会議の様子と、半年後の会議の様子を並べます。会議の景色は、どの会社にも共通する場面です。
- ソフトウェアやシステム。画面のスクリーンショットではなく、その画面を使っている人の1日を置きます。導入前の手作業と、導入後の手元を比べます。
- 物流や運送。荷物の写真ではなく、荷主の担当者が何時に何を確認しているかを置きます。現場の時刻が入ると、他社との違いが出ます。
- 人材や採用の支援。求人票を置かず、応募がゼロだった時期と、人が来るようになった時期の社内の様子を置きます。
- 部品や素材のように、単体では用途が見えないもの。完成品のどこに入っているかを1枚で示し、そこが変わると何が変わるのかを添えます。
いずれも、置いているのは商品ではなく、お客さまの側の場面です。だから現物がなくても成立します。
6. 置いてはいけないものもあります
逆に、小間に置くと通路の足が速くなるものがあります。
会社概要のパネル、事業内容の箇条書き、技術用語を並べた説明板、受賞歴、代表者の写真、細かい仕様表。どれも社内の会議では評判が良く、当日はいちばん見られません。共通しているのは、読ませることを前提にしている点です。
もう1つ、意外に足を止めないのが、大きくきれいなキャッチフレーズだけの壁面です。抽象的な言葉は、通路を歩く人には自分あてに見えません。壁面に載せるなら、相手の困りごとを名指しした1行にしてください。
7. 私たちの現場から
弊社は、フランスのJAPAN EXPO等へ累計11回出展してまいりました。言葉が通じない会場ですので、説明は最初から使えません。
そこで置いたのは、読まずに追える物語でした。通路から絵だけを見て、足が止まり、止まってから質問が来る。質問が来てから、はじめて言葉が要ります。この順番は日本の展示会でも同じでした。
倍率や増加率でご説明できるような話ではありません。ただ、11回続けて分かったのは、置くものを商品から場面に変えた小間だけが、会期後に返事の来る相手を残したということです。
8. 今週できる3つのこと
出展が決まっている方は、今週のうちに確かめられることがあります。
- 直近で最も喜ばれたお客さまを1社選び、関わる前に何に困っていたかを、担当者の言葉のまま書き出します。ここが小間の入口になります。
- そのお客さまの現場が、いま何時に何をしているかを聞きます。前と後を並べられる材料は、たいてい社内ではなくお客さまの側にあります。
- いま用意している展示物を机に並べ、5秒で意味が分かるものだけを残します。残らなかったものは、当日も読まれません。
この3つは費用がかかりません。ここで詰まった箇所が、そのまま小間で足りていないものです。準備を3か月前から逆算すると、この作業に十分な時間が取れます。
よくあるご質問
Q1. 実物を持っていない会社は、展示会に向いていないのでしょうか。
そのようなことはありません。来場者が見に来ているのは、自分の現場が変わるかどうかです。実物はその答えを語りませんので、実物のある会社も同じ準備をしています。持っていないほうが、かえって場面から設計しやすい面もあります。
Q2. お客さまの事例を出す許可が取れないときは、どうすればよいですか。
社名と数字を伏せ、場面だけをお使いください。業種と規模と、困っていた状況が分かれば、来場者は自分に当てはめて読みます。許可が取れた事例は、会期後にお送りする資料に回すという分け方もできます。
Q3. 動画を流すのは効果がありますか。
音の出る動画は、隣の小間との関係で使いにくい会場があります。また、通路の人は最初から見てくださいません。流すのであれば、どこから見ても意味が取れる短い繰り返しにし、止まった方への説明は人が担当してください。
Q4. パネルは何枚くらい用意すればよいですか。
枚数より、通路から読める距離にあるかどうかです。3メートル離れて意味が取れる大きさで、前と後と経過の3枚があれば足ります。増やすほど、どれも見られなくなります。
Q5. 置くものが決まったあと、誰が説明すればよいですか。
置くものが決まっていれば、話し上手な人でなくても立てます。詳しくはブースに立つ人が当日なにを持っていればよいかにまとめてあります。名刺の枚数を目標にしない理由は展示会の成果を何で測るかをご覧ください。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
御社の小間に置く予定のものを机に並べたとき、そのうち何枚が「お客さまの側の場面」を写しているでしょうか。
1枚もなければ、足りないのは装飾ではありません。そのとき残った紙をすべてお持ちください。そこから、通路で足が止まる3枚を組み立てます。
変わる前から変わったあとまでを、1つの物語として小間の中に置いています。展示会マンガプロジェクトを見る
置くのは商品ではなく、お客さまが変わる場面。現物のあるなしは、ここでは関係ありません。
参考実績
参考ブログ
シェアいただけたら嬉しいです🌹


