
「出展の報告書を書かないといけない。でも、書けるのは名刺の枚数しかない」
結論から申し上げます。報告に載せるべきなのは、集めた枚数ではありません。会期中にどれだけ会話が生まれ、会期後にどれだけ返信が戻ったかです。枚数は最後に添える数字で十分です。順番を入れ替えるだけで、翌年の予算の話が変わります。
枚数で報告するかぎり、比べられるのは前年の枚数だけになります。増えれば良し、減れば不振。出展そのものの是非が、集めた紙の量で決まってしまいます。
1. 枚数で報告するほど、翌年の予算が削られる
名刺の枚数は、報告書にいちばん載せやすい数字です。数えられて、前年と比べられて、誰にでも分かる。だからこそ、この数字だけが独り歩きします。
ところが枚数は、集めた量を示すだけで、相手が動いたかどうかを何も語りません。Sansanの調査(n=1,272)では、交換した名刺の57.7%が管理されていないという結果が出ています。「集めた名刺の9割は捨てているのも同然」ともよく言われます。枚数が増えても、その先が動いていなければ、翌年に残るのは費用の記録だけです。
私たちが現場で見てきたかぎり、展示会は、リスト集めがゴールになってしまいがちです。集めた後はテレアポやメールでなんとかなる、という前提が置かれています。けれども、データだけを取られた相手は動きません。その場で話が盛り上がっていなければ、後から届く連絡は他社のものと区別がつかないからです。
2. 何を測るかが、当日の動きを決めてしまう
報告様式は、単なる書類ではありません。当日ブースに立つ人の行動を決めます。
枚数で評価される出展では、説明員は名刺を受け取ることを優先します。相手が何に困って足を止めたのかを聞く前に、製品の説明が始まります。「3秒以内に印象に残らないと素通りされる」と言われますが、急いで説明したくなる本当の理由は、その3秒ではなく、社内に出す数字のほうにあります。
測る対象を変えれば、当日の順番が変わります。会話の数で報告すると決めた瞬間から、説明員は相手の言葉を先に聞くようになります。出展準備を3か月前から逆算する手順も、この一点が決まっていないと組み立てられません。
3. 会期中に測れる、3つの数
特別な道具は要りません。名刺と、ペンだけで足ります。
- 会話が3分以上続いた人数。時計を見る必要はありません。腰を落ち着けて話した相手の名刺に、印を1つ付けるだけです。
- 相手の困りごとを一言でメモできた名刺の枚数。書けなかった名刺は、こちらが話しすぎた印です。
- 会期中にもう一度ブースへ戻ってきた人の数。再訪は、その場の熱がいちばん正直に出る数字です。
この3つは、会期の3日間が終わった夜に数えられます。翌週まで待つ必要がありません。
4. 会期後に測る、2つの数
後追いは、送った数ではなく、返ってきた数で見ます。
- 後追いの連絡に返信が戻った数。送信数を成果として報告すると、また量の話に戻ります。
- 会期から30日以内に打ち合わせになった数。ここが、出展費用の話とつながる唯一の数字です。
アペルザの展示会調査(n=413)では、ブースを訪問した後に56.6%が検討を開始しています。相手はすでに動き始めています。問題は、動いている期間に、こちらが思い出される状態にあるかどうかです。会期中に商談が生まれるブースの共通点も、結局はここに集まります。
5. 報告書に書く順番
数字は、並べる順番で意味が変わります。上から順に、こう置き直してください。
- 会期から30日以内の商談数。
- 後追いに返信が戻った数。
- 会話が3分以上続いた人数と、再訪した人の数。
- 交換した名刺の総数。ここで初めて枚数を出します。
- 来年に向けて変えること、1つだけ。
枚数を最後に置くと、報告を受ける側の質問が変わります。「今年は何枚だったのか」ではなく、「なぜ会話が続いたのか」を聞かれるようになります。出展費用を回収できる会社とできない会社の違いも、この質問が出るかどうかで分かれます。
6. 数を良くしようとすると、当日の設計が変わる
会話の数を増やそうとすると、配布物の役割が変わります。
同じアペルザの調査(n=413)では、来場者は1日に平均17社のブースを訪問し、持ち帰られた資料の94.9%は保管されないという結果が出ています。配ることを目的にした設計は、この時点で成り立ちません。
弊社はここでマンガを使いますが、入口に大きく貼るのではなく、足を止めた方が手に取る位置に一箇所だけ置きます。売り込むためではありません。読んでいる数十秒のあいだに、こちらから声をかけなくても相手のほうから話し始めるからです。会話の数を測ると決めた会社にとって、この数十秒が数字になります。
床面サインの美華道さまは、鉄道技術展・大阪2026で、製品説明を増やすのではなく逆の選択をされました。自分たちが何者かを来場者が数秒で受け取れる形にし、ブース全体を組み替えられたのです。結果、ブースアンケートの回収は459件、前回出展の約12.8倍でした。
私たち自身も、フランス・JAPAN EXPO等に11回出展してきました。出展者として通路に立つと、来場者が何秒で通り過ぎるかが体で分かります。測る数字を変えることは、その通路での立ち方を変えることと同じです。
よくあるご質問
Q1. 会話の数を数える余裕が、当日ありません。
数えるのではなく、印を付けるだけにしてください。名刺の右上に点を1つ、困りごとを聞けたら一言。会期後に数えるのは事務の仕事です。当日は、記号を決めておくところまでで構いません。
Q2. 上司が名刺の枚数しか見てくれません。
枚数は消さずに、報告書の4番目に置いてください。上に3つの数字が並んでいれば、質問は自然にそちらへ向かいます。最初の年は、枚数と並べて出すだけで十分です。
Q3. 出展の目的が認知の場合も、同じ測り方でよいですか。
はい。認知が目的でも、思い出されなければ認知は残りません。会話が続いた人数と再訪の数は、認知が残ったかどうかにいちばん近い数字です。
Q4. 会期後30日で商談がゼロだった場合、どう報告しますか。
ゼロと書いてください。そのうえで、会話が続いた人数を並べます。会話は生まれていたのに商談にならなかったのか、会話そのものが生まれていなかったのか。この2つは打ち手がまったく違います。ゼロを隠すと、翌年も同じ設計になります。
Q5. 小間が小さく、説明員も2名しかいません。
むしろ測りやすくなります。2名で回せる会話の数には上限があるため、何人と深く話せたかが成果そのものになります。枚数を追うほど不利になり、会話を追うほど有利になる規模です。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
前回の出展報告書で、いちばん上の行に書いてあった数字は何でしたか。
それが名刺の枚数だったなら、変えるのは来年の小間の位置ではありません。前回の報告書を1部お持ちください。どの数字を上に動かせば、当日の動きが変わるかを、一緒に読み替えます。
前・中・後をひとつながりで設計する進め方をまとめています。展示会マンガプロジェクトを見る
枚数ではなく、覚えて帰った人の数で測る。
参考実績
参考ブログ
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