
会期の2日目の午後、ブースで話が弾んだ方がいた。現場の困りごとを詳しく聞かせてくださり、「これは社に持ち帰って検討します」と、資料を鞄に入れて帰っていかれた。手応えはあった。ところが2週間たっても連絡が無い。こちらからお電話すると、「上に話したのですが、まだ検討中で」と言われる。その後、話は止まったまま、次の展示会の季節が来る。あの方は、会社に戻って何と話されたのだろう。そう思い返したことは、ありませんか。
「展示会の商談は、どこで決まるのでしょうか」
多くの場合、ブースの中ではなく、来場者の方が会社に戻ったあとの社内の会議で決まります。ブースで話した方が決裁者でないかぎり、その方は上司や隣の部署に、御社の話をもう一度ご自分の言葉でしなければなりません。そこで話がうまく伝われば商談になり、伝わらなければ「検討中」のまま止まります。だから出展側が会期の前に考えておくことは、ブースで何を話すかと同じくらい、来場者の方が会社に戻ってから何を話せるか、です。
以下、商談が社内の会議で止まる3つの理由、持ち帰った方が社内で話せる物を渡す順番、弊社が会期の前・中・後でそれを回す流れ、翌年の出展へ話を持ち越すこと、明日からできる3つ、の順に書きます。
1. ブースで話した方は、たいてい決める方ではありません
展示会のブースに足を運ばれるのは、現場の課題を一番よく知っている方です。設備の担当者、物流の現場責任者、総務や営業企画の方。困りごとをいちばん具体的に話せる方々ですが、その場で発注を決められる方は多くありません。
その方は会社に戻ると、上司への報告、部内の会議、稟議の書類と、何段階かで御社の話をし直します。出展側が会えたのは、この流れの入り口に立つ1人だけです。商談の本番は、出展側がその場にいない会議で進みます。
製造業の来場者調査(延べ413件・2023年)では、来場者は1回の展示会で平均17社のブースを訪ねていました。持ち帰った資料の94.9%は保管されない、という結果も出ています。一方で、訪問のあとに検討を始めた方は56.6%いました。検討は始まっているのに、資料は残っていない。社内の会議で御社の話をするとき、その方の手元には、記憶と名刺くらいしか残っていないことが多いのです。
2. 社内の会議で話が止まる、3つの理由
持ち帰られた話が「検討中」で止まるのには、だいたい次の3つの理由があります。
- 説明しきれない ブースで聞いた話は、聞いた本人には腑に落ちています。けれど、上司に2分で説明しようとすると、製品の仕様や価格の話になり、なぜ自社に要るのかが抜け落ちます。
- 17社の中に埋もれる 同じ日に十数社の話を聞いています。社内の会議では、そのうちの1社として、ほかの会社と並べて話されます。違いを一言で言えない会社は、会議の中で消えていきます。
- 急ぐ理由が無い 現場の困りごとは、毎日の仕事の中では「いつものこと」です。会議の場に、その困りごとの切実さが届かなければ、「来期の検討でいいのでは」と先送りされます。
3つとも、出展側の製品の良し悪しとは別のところで起きています。ブースでどれだけ盛り上がっても、その熱が会議室まで運ばれなければ、話は止まります。会期中に熱を作ることの大切さは、展示会の商談化率は、なぜ上がらないのかに書きました。この記事では、その熱を、会議室まで持ち帰っていただく話を書きます。
3. 持ち帰った方が、社内で話せる物を渡します
社内の会議で話が進むかどうかは、持ち帰った方が、御社の話を「自分の会社の場面」として話せるかで決まります。製品の説明ではなく、場面です。渡す物は、次の順番で考えます。
- 相手の会社で起きている場面を1つ決める ブースで聞いた困りごとを、「繁忙期の前の1週間、現場で何が起きているか」のような、1つの場面にします。仕様や価格は、その場面のあとに来ます。
- その場面を、2分で人に話せる形にする 上司にも、隣の部署にも、同じ話ができる短さにします。文字だけの資料より、場面が絵で追える物語のほうが、聞いた人がもう一度話しやすくなります。物語は、人から人へ渡せるからです。
- 会議の場で開ける物にする 鞄の底に入る資料ではなく、会議の机の上で「これを見てください」と開ける物にします。読まれないパンフレットとの違いは、展示会のパンフレット、なぜ読まれないのかに書きました。
この3つが揃うと、会議の場で、持ち帰った方が「うちの現場の、あの場面のことです」と言えます。聞いた上司が「それは、うちでも起きている」と頷けば、話は次へ進みます。
4. 弊社が会期の前・中・後で回す流れ
弊社が担っているのは、この「持ち帰っていただく場面」を、会期の前・中・後で回すことです。
前。御社の社員の方と一緒に、来場者の方の会社で起きている場面を選びます。選ぶのは弊社ではなく、お客さまの現場を知っている社員の方です。その場面を物語にして、ブースのパネルにも、お渡しする冊子にも、最初にかける一言にも、同じ場面を載せます。来場者の方がブースで見た場面と、会社に持ち帰る場面が同じになります。
中。会期中は毎晩、ブースに立った方の日報と用紙を読み、どの場面で話が始まったかを見ます。倉庫と運送の誠幸運輸倉庫さまは、2026年10月のものづくりワールド大阪に出展されました。手に取って試せないサービスです。会期中は毎晩、日報と用紙を読み、翌朝に誠幸運輸倉庫さまの皆さまと見直しました。ブースに置いた物語に重なる回答41件のうち前向きな反応は22件で、重ならない回答30件からは前向きな反応がありませんでした(会期当時の集計、実績ページ)。場面が相手の会社と重なった方ほど、話の続きが生まれた、ということです。
後。会期のあとは、話が始まった方に、その場面の続きからご連絡します。社内の会議に向けて、もう1つ材料が要るかどうかをうかがいます。進むかどうかは、相手に選んでいただきます。希望の無い方を追いかけることはしません。会期のあとの連絡の順番は、展示会のあとのフォローは、何から始めればいいかに書きました。
5. 翌年の出展へ、話を持ち越します
社内の会議は、1回で決まるとは限りません。予算の時期や、担当者の異動で、話が来期に回ることもあります。それを失注と数えずに、翌年の出展へ持ち越します。
床面に貼るサインの特殊施工をされている株式会社美華道さまとは、関西物流展から2026年5月の第2回鉄道技術展・大阪へと、出展をまたいでご一緒しています。鉄道技術展では、会期中の来場者アンケートが459件で前回の出展の約12.8倍、会期中の見積が19件でした。前の展示会で始まった話を、次の展示会へ持ち越した結果です。去年ブースで話した方がもう一度来られたとき、「去年の続きですね」から会話が始まります。そのころには、相手の社内でも、御社の名前が一度は会議に出ています。
弊社はこの流れを、1年以上、できれば何年も続くプロジェクトとしてご一緒しています。社員の方が場面を選び、来場者の方が「うちのことだ」と言い、会社に戻って隣の方に話す。関わる人が自分で動く形です。弊社はこれを、マンガと体験価値の組み合わせと呼んでいます。出展の物を作って納めて終わりの制作ではなく、プロジェクト運用者として、来年、再来年の出展へ一緒に歩きます。来年も同じ展示会に出るかどうかの決め方は、来年も同じ展示会に出るべきかに書きました。
6. 明日からできる3つ
- 前回の展示会で「持ち帰って検討します」と言われた方を3人思い出し、その方が会社に戻って、上司に何と話されたかを想像して書いてみてください。2分で話せる中身になっているかが見えます。
- ブースでお渡しする資料を1部取り出し、その資料を初めて見る上司の立場で読んでみてください。御社の製品ではなく、自社の場面が書いてあるかを確かめます。
- 次の展示会の準備会議で、「来場者の方が会社に戻って、最初に何と話すか」を1行で決めてください。パネルの文言と、お渡しする物は、その1行から決めます。
よくあるご質問
Q1. ブースに決裁者の方が来られれば、その場で商談になりませんか。
なることもあります。ただ、決裁者の方ご本人も、会社に戻って現場の方や経理の方と話をされます。誰がブースに来られても、会社に戻ってから話す場面が要る点は変わりません。決裁者の方には、現場の方に話しやすい場面を、現場の方には、上司に話しやすい場面を渡すつもりで考えます。
Q2. 社内の会議のことは、出展側には見えません。何を手がかりにすればよいですか。
手がかりは、会期のあとにご連絡したときの、相手の言葉です。「上に話したのですが」のあとに続く言葉に、会議で何が引っかかったかが出ます。その言葉を記録しておくと、次の展示会で渡す場面を直せます。会期中の言葉の残し方は、展示会のヒアリングシートに書きました。
Q3. 製品の仕様書や価格表は、渡さないほうがよいのですか。
渡してかまいません。仕様書と価格表は、会議で話が進んだあとに必ず要ります。順番の問題です。先に場面で「うちにも要る」と思っていただき、そのあとで仕様と価格を見ていただくほうが、会議で話が止まりにくくなります。
Q4. 物語にすると、軽い会社だと思われませんか。
場面は、相手の会社の現場で本当に起きていることから選びます。作り話ではありません。軽く見えるかどうかは、描く場面が相手にとって切実かどうかで決まります。社員の方が選んだ現場の場面であれば、聞いた方は軽さではなく「よく分かっている会社だ」という印象を持たれることが多いです。
Q5. 1回の出展で、社内の会議まで届いたかは分かりますか。
会期のあと1か月のうちに、相手から「社内でこういう質問が出たのですが」とご連絡があれば、会議まで届いています。届かなかった話も、翌年の出展で続きから始められるように、話した場面と相手の言葉を残しておきます。1回で終わらせず、次の出展で続きを話す運用にしています。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
前回の展示会で話が弾んだ方は、会社に戻ってから、御社の話を2分で上司に話せたと思われますか。
話せたと思えるなら、その場面を次の出展でも続けてください。思えないなら、ブースで話す中身より先に、持ち帰っていただく場面を決めるところから始めてみてください。
社員の方と一緒に、来場者の方が会社に持ち帰る場面を選び、その場面をパネルにもお渡しする物にも最初の一言にも載せ、会期の前・中・後を回して来年の出展へつないでいくところまで運用しています。展示会マンガプロジェクトを見る
前回の出展でお渡しした資料と、会期のあとに話が続いた件数をお持ちいただければ、御社の場合に持ち帰っていただく場面を、その場で一緒に考えます。30分の面談を予約する
参考ブログ
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展示会の商談は、ブースの中ではなく、来場者の方が会社に戻ったあとの会議で決まります。持ち帰った方が、御社の話を自分の会社の場面として2分で話せるように、ブースで話す中身と同じ場面を渡してください。


