
会期の初日、用意したお菓子の小袋は昼過ぎに底をついた。ボールペンも紙袋も、2日目の午前でなくなった。名刺の束は、去年の2倍近くになった。「今年はよく止まってもらえた」とブースの皆さんで喜び、会期のあとに営業の方が電話をかけると、返ってくるのは「ああ、お菓子をいただいた所ですね。それで、何の会社でしたっけ」。名刺は増えたのに、話が続かない。そして来年の準備会議では「ノベルティは効果があったのか」という議題になる。そんな年を、何度か繰り返しておられませんか。
「展示会のノベルティは、効果がありますか」
あります。通路を歩く方の足を止める効果は、確かにあります。お菓子やボールペンを配ること自体は、正しい手です。ただ、ノベルティの効果は、足が止まった瞬間に終わります。止まった足の先に会話が用意されていなければ、残るのは名刺の束と配った数だけで、会期のあとに動けなくなります。ですから問いは「配るべきか、やめるべきか」ではなく、「止まった足の先に、何を置いておくか」です。
以下、ノベルティが効く理由、止まった足が名刺1枚で動き出してしまう理由、差がつくのは物ではなく受け取った方が「何の話か」を言えるかどうかであること、弊社がノベルティに物語を足す順番、配る数と残る会話の関係、翌年へのつなぎ方、明日からできる3つ、の順に書きます。
1. ノベルティを否定しません。足を止める手として、確かに効きます
展示会の主催者が集めてくださるのは、会場までの人です。通路を歩く何千人もの方のうち、御社のブースの前で足を止める方が何人いるかは、主催者の仕事の外にあり、各社に任されています。通路を歩く方には、知らない会社の前で立ち止まる理由が、まだありません。
お菓子の小袋やボールペンは、その「立ち止まってもよい口実」になります。受け取る側にとっては、知らない会社の前で足を止める言い訳です。渡す側にとっては、最初の一言を言う前に手を伸ばせる道具です。だから、通路から見て素通りされがちな小さなブースほど、ノベルティは効きます。ここを「物で釣るのはよくない」と否定すると、現場の実感に合いません。足は、実際に止まります。
弊社が申し上げたいのは、やめることではなく、止まった足のその先です。
2. 止まった足は、名刺1枚で動き出します
ノベルティで止まった足の前で、起きることは決まっています。「どうぞ」と小袋を渡し、「名刺をいただけますか」と差し出し、相手も名刺を出し、「ありがとうございます」で、足はまた動き出します。この間、15秒ほどです。会話は、ありません。
この15秒が積み重なると、会期の終わりに名刺の束ができます。名刺の束は、達成感を生みます。製造業を主とする企業の営業・販促の担当者を対象にした調査では、展示会で重視する指標として名刺獲得数を挙げた担当者が71.9%でした。名刺の数が目標になっているのは、御社だけではありません。
ところが、受け取った側はこうなっています。名刺を受け取る機会が多い買い手のうち、受け取った名刺をすぐに使える状態で管理できていない方が約6割、という調査があります。配った資料についても、来場者が持ち帰った資料の94.9%は保管されない、という調査があります。お菓子は食べれば無くなり、ボールペンは引き出しの中で御社の名前を失います。現場ではよく「集めた名刺の9割は捨てているのも同然」と言われますが、捨てているのは、こちら側だけではありません。
※ 名刺獲得数71.9%はマーケライズ調べ(2026年・複数回答)。約6割はSansan調べ(2025年)。94.9%はアペルザ調べ(回答413名)。
弊社が出展側に立ってきて見えたのは、こういう機序です。展示会では、リストを集めることがゴールになってしまっています。集めたあとは電話やメールで追いかければ何とかなる、と思われているのですが、ブースの前で盛り上がっていなかった相手は、電話をしても盛り上がりません。データだけ取られても、現場で会話が無ければ、商談には結びつきません。ノベルティは足を止めますが、盛り上がりは作りません。盛り上がりを作るのは、止まったあとの会話です。
3. 差がつくのは物ではなく、受け取った方が「何の話か」を言えるかどうかです
会期のあとに電話をかけたとき、2種類の答えが返ってきます。「お菓子をいただいた所ですね」と、「納期の前にいつも慌てている、という話をした所ですね」です。前者は、御社の名前を思い出していません。後者は、御社と交わした会話を思い出しています。違いは、渡した物の良し悪しではありません。止まった足の先に、会話があったかどうかです。
ノベルティは、渡す口実です。口実のあとに何を話すかを決めていなければ、口実だけが残ります。物を選ぶ前に渡す相手を決める考え方は、展示会で配るものは何にすればいいかに書きました。この記事では、その先を書きます。
弊社が勧めているのは、ノベルティそのものに物語を載せることです。小袋の表に、来場者の方の現場で起きている困りごとの場面を、4コマのマンガで描いておきます。製品の説明ではありません。納期の前に慌てている人、同じ説明を毎回繰り返している人、集めた名刺を前に困っている人。受け取った方は、その場面を見て「うちのことだ」と言います。その一言が、会話の始まりです。
そして、この小袋は会期のあとにも働きます。受け取った方が会社に戻り、机の上に置いたとき、隣の席の方が「それ、何」と聞きます。「展示会でもらった。うちの現場の話が描いてある」。お菓子は食べて終わりますが、場面は、受け取った方の口を通して、ブースに来なかった方にも届きます。
4. 弊社がノベルティに物語を足す順番。会期の前・中・後です
物語を載せた小袋は、ノベルティの発注で終わる話ではありません。弊社が担っているのは、会期の前・中・後を設計して回すことです。順番に書きます。
前。御社の社員の方と一緒に、来場者の方の現場で起きている困りごとの場面を選びます。選ぶのは弊社ではなく、お客さまの現場を知っている社員の方です。その場面を、物語にします。この物語が、小袋の表にも、ブースのパネルにも、ブースで最初にかける一言にも、同じ言葉で載ります。ブースで何を話しかければいいかに書いたとおり、最初の一言は製品の説明ではなく、来場者の方の現場の話です。小袋の場面が、その一言を言いやすくします。
中。会期中は、小袋を受け取った方がどの場面で足を止め、何と言ったかを、毎晩読みます。倉庫と運送の誠幸運輸倉庫さまは、2026年10月のものづくりワールド大阪に出展されました。製造業の展示会で、手に取って試せないサービスです。会期中は毎晩、ブースに立った方の日報と用紙を読み、翌朝に誠幸運輸倉庫さまの皆さまと見直しました。ブースに置いた物語に重なる回答41件のうち前向きな反応は22件で、重ならない回答30件からは前向きな反応がありませんでした(会期当時の集計、実績ページ)。物語に触れた方と触れなかった方で、会期のあとに続くかどうかが分かれる、ということです。
後。会期のあとに電話をするときは、小袋の場面から話します。「納期の前に慌てている話をされていましたね」と切り出せる相手には、その続きから話せます。進むかどうかは、相手に選んでいただきます。希望の無い方を追いかけることはしません。続くのは、物語の続きをお送りする便りと、交流の場へのお誘いです。小袋の4コマには、続きがあります。
床面に貼るサインの特殊施工をされている株式会社美華道さまとは、関西物流展から2026年5月の第2回鉄道技術展・大阪へと、出展をまたいでご一緒しています。鉄道技術展では、会期中の来場者アンケートが459件で前回の出展の約12.8倍、会期中の見積が19件でした。こちらも、ブースの前で盛り上がった会話を、会期のあとまで持ち越す形にした結果です。
5. 配る数を減らしても、残る会話は増えます
物語を載せた小袋は、通路を歩く方の全員に配るものではありません。配る相手は、ブースの前で足を止め、場面を見て「うちのことだ」と言ってくださった方です。全員に配ると、小袋はお菓子に戻ります。1人に1つ、場面の話をしながら渡すと、小袋は会話の記録になります。
数が減ることを心配される方が多いのですが、減るのは名刺の数で、残る会話の数は増えます。会期のあとに営業の方が電話をかける相手が、名刺の束ではなく、話した内容を覚えている数十人に絞られます。電話をかける側も、かけられる側も、話が続きます。
配る数が減ると、ブースの準備も変わります。小袋を300個用意する代わりに、場面を1つ決めるために社員の方と話す時間が増えます。その時間に、社員の方は、お客さまの現場の困りごとを自分の言葉で言えるようになります。ブースに立つ方が変わると、通路から見えるブースも変わります。足を止める理由を置く考え方は、展示会の集客は何をすればいいかに書きました。
6. 翌年へ。今年の小袋の場面が、来年の最初の一言になります
ここまでを、ノベルティを1種類作る話として読まれたのであれば、半分です。弊社がご一緒しているのは、1回の出展ではなく、出展をまたいで続くプロジェクトです。
今年の会期中に、小袋の場面を見て足が止まった方の言葉を、ヒアリングシートに残しておきます。会期のあと、その言葉を読み返すと、来年のブースで最初に置く場面が決まります。今年は「納期の前に慌てている」で足が止まった。来年は、その続きの場面から始める。小袋の4コマも、2話目になります。受け取った方の中には、去年の1話目を覚えている方がいます。「去年の続きですね」から始まる会話は、初めて会う方との会話より、ずっと先まで進みます。
弊社はこの流れを、1年以上、できれば何年も続くプロジェクトとしてご一緒しています。社員の方が場面を選び、来場者の方が「うちのことだ」と言い、会社に戻って隣の方に話す。ノベルティをきっかけに、関わる人が自分で動く形です。弊社はこれを、マンガと体験価値の組み合わせと呼んでいます。ノベルティを作って納めて終わりの制作ではなく、プロジェクト運用者として、来年、再来年の出展へ一緒に歩きます。
7. 明日からできる3つ
- 前回の展示会で集めた名刺を10枚選び、その方が足を止めたときに何を話したかを思い出してみてください。思い出せる枚数が、今の御社のブースで会話が残っている数です。
- 御社のお客さまが、御社に電話をかけてくる直前に、現場で何が起きているかを、社員の方に1つ聞いてください。「納期の前に」「同じ説明を何度も」のような場面が出てきたら、それが小袋に載せる1話目の候補です。
- 来年のノベルティの数量を決める前に、「足を止めた方に、最初に何と言うか」を1行で決めてください。1行が決まってから、数量を決めます。順番を逆にしないことが、いちばんの違いです。
よくあるご質問
Q1. ノベルティをやめて、その予算を別に回したほうがよいのではありませんか。
やめる必要はありません。通路を歩く方にとって、知らない会社の前で足を止める口実は、今も要ります。変えるのは、物の有無ではなく、止まった足の先に会話が用意されているかどうかです。予算を回すとすれば、物の数量から、場面を決める時間へ、です。
Q2. 小袋に4コマを載せると、製品の説明が無くなりませんか。
製品の説明は、会話が始まってからで間に合います。小袋の役目は、受け取った方に「うちのことだ」と言っていただくことで、製品を説明することではありません。場面で足が止まった方には、製品の話をこちらから始めなくても、相手のほうから「それで、どうするのですか」と聞いてくださいます。
Q3. うちの業種には、マンガにするような場面がありません。
場面は、御社の製品の中ではなく、お客さまの現場にあります。お客さまが御社に電話をかけてくる直前に、現場で何が起きているか。それを社員の方にうかがうと、どの業種でも、1つは出てきます。誠幸運輸倉庫さまは倉庫と運送、美華道さまは床面のサイン施工で、どちらも手に取って試せないサービスでしたが、場面はありました。
Q4. 配る数を減らすと、名刺の数が減って社内で説明がつきません。
名刺の数で測ると、減ります。会期のあとに電話をして、話が続いた数で測ると、増えます。社内へは、最初から後者の数で報告することをお勧めしています。名刺の数を目標に置くと、会期中のブースの動きが、足を止めることではなく、名刺をいただくことに向いてしまいます。
Q5. 1回の出展で、効果は分かりますか。
会期のあとに電話が続くかどうかは、1回目から分かります。ただ、「去年の続きですね」から会話が始まるのは、2回目の出展からです。だから、1回で終わらせず、今年の会期中に残った言葉から、来年の場面を決める運用にしています。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
前回の展示会で小袋を受け取った方は、今、御社のことを何と呼んでおられますか。
「お菓子の所」か、「あの場面の話をした所」か。その呼び方が、会期のあとに電話が続くかどうかを決めています。
社員の方と一緒に、お客さまの現場の場面を選び、小袋にもパネルにも最初の一言にも同じ場面を載せ、会期の前・中・後を回して来年の出展へつないでいくところまで運用しています。展示会マンガプロジェクトを見る
前回の出展で配った物と、会期のあとに話が続いた件数をお持ちいただければ、御社の場合はどの場面を小袋に載せるとよいか、その場で一緒に見当をお出しします。30分の面談を予約する
参考ブログ
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ノベルティは足を止めます。止まった足の先に会話が用意されているかどうかが、会期のあとに電話が続くかどうかを決めます。物の数量より先に、最初の一言と、その場面を決めてください。


