
ブースの真ん中で、実機が動いている。来場者の方が足を止め、腕を組んでじっと見てくださる。動きが一巡すると、「なるほど」と小さくうなずいて、そのまま次のブースへ歩いていかれる。会期が終わってみると、デモの前にはずっと人がいたのに、商談の約束はほとんど残っていない。そんな3日間になっていませんか。
「展示会で実機のデモを見せても、商談につながらないのはなぜでしょうか」
デモが見せているのが「機械の動き」で、来場者の方が知りたいのは「自分の現場で何が変わるか」だからです。実機はブースのいちばんの強みで、手放す必要はありません。足りないのは、その実機が来場者の方の現場でどう働くかという物語です。デモの前後に、来場者の方がご自身の現場を重ねられる場面を1つ足すと、見て終わりだった時間が、話の始まる時間に変わります。
以下、デモの前で起きていること、実機に物語を足す手順、会期の前に決めておくことの順に書きます。
1. デモの前に人は集まるのに、話が始まらない
実機を持ち込んだ出展で、よく聞くお悩みは次のようなものです。
- 人だかりはできるのに、名刺をいただけない。デモが終わると、輪がほどけるように人が散っていく。
- 見てくださっている方が誰なのか分からない。現場の担当の方か、設備の決裁をされる方か、同業の方か。声をかける間もなく去っていかれる。
- 説明員がデモの操作に手を取られる。機械から離れられず、見ている方と話す人がいない。
- 「すごいですね」で会話が終わる。感心はしていただけるのに、「うちでも使えるか」という話に進まない。
- 会期のあとに連絡しても、どの方か思い出していただけない。同じような機械を、ほかのブースでも見ておられるからです。
5つとも根は同じです。デモは「何ができるか」を見せてくれますが、「あなたの現場のどこが楽になるか」までは語ってくれません。その間をつなぐ人も場面も無いまま、見る人と機械だけがブースに残ってしまいます。
2. 来場者の方は、1日に何台もの実機を見ています
製造業の情報収集層を対象にしたアペルザの来場者調査(延べ413件・2023年)では、1回の来場で訪れるブースは平均17社でした。この調査の回答には、ロボット技術の展示会の来場者も多く含まれています。実機が並ぶ展示会ほど、来場者の方は1日のうちに何台もの機械の動きを見ておられます。
動きの速さや精度は、見た瞬間には「すごい」と感じても、夕方には他社の機械と混ざってしまいます。同じ調査では、持ち帰った資料の94.9%が保管されないという結果も出ています。残るのは、仕様の数字よりも「うちの現場のあの作業が、こう変わりそうだ」と、ご自身で思い浮かべた場面のほうです。
一方で、同じ調査では、ブースを訪れたあと56.6%の方が導入の検討を始めたとも答えています。見ていただけた時点で、検討の入口には立っていただけている。そこから先へ進めるかどうかは、デモのあとの数分で決まります。
3. 実機に、来場者の方の現場の物語を足す4つの手順
弊社が伴走する出展では、実機のデモはそのまま主役にして、その前後に次の4つを足します。
- デモの前に、現場の困りごとの場面を見せる。「夜勤の交代のたびに段取りが止まる」「新人さんが慣れるまで3か月かかる」。来場者の方の現場で起きていそうな場面を、通路から読める大きさで置きます。機械を見る前に「これはうちの話だ」と思っていただくためです。
- デモの動きを、その場面の続きとして見せる。「先ほどの段取りの場面が、この動きでこう変わります」。機能を順に説明するのではなく、場面の続きを機械が演じる形にします。
- デモのあとに、来場者の方の現場を1つだけ聞く。「御社では、どの工程がいちばん手間でしょうか」。答えていただいたら、その言葉を記録に残します。操作をする方とは別に、聞く役の方を1人置きます。
- 持ち帰っていただく物を、その方の現場の話にする。仕様書だけでなく、今日見た場面と、その方が話してくださった工程を結んだ1枚をお渡しします。会期のあとにご連絡したとき、「あの場面のブースの」と思い出していただくための手がかりです。
この4つがあると、デモを見ていた時間が「見せられた時間」から「自分の現場を考えた時間」に変わります。来場者の方が自分の話を始めてくださったら、そこからが商談の入口です。声のかけ方そのものは展示会のブースでは、何を話しかければいいかに、触って試せない商品の場合は体験型のブースは何をすればいいかに書きました。
4. 実機の前に、来場者の方が話し始める入口を置いた例
株式会社美華道さまは、床面に貼るサイン「スマートシグナル」の特殊施工をされている会社です。2026年5月の第2回鉄道技術展・大阪では、施工した床面を見せるだけでなく、自社のマスコット「シグナ・ミカ」のマンガをブースの入口にしました。マンガには、来場者の方の現場で起きていそうな場面が描かれています。読んだ方が「うちの駅でも、ここで迷う人がいる」とご自身の話を始め、ブースの方はその話を聞いたうえで実物の施工を見ていただき、アンケートへとつなぎました。
3日間のアンケートは459件、前向きな反応は164件、会期中にその場でいただいた見積は19件でした。もちろん、どの会社でも同じ数字が出るとは申し上げません。ただ、実物を見せる前に来場者の方の現場の場面を置くと、実物は「見せる物」から「自分の現場で確かめる物」に変わります。
5. 会期の前に、デモの担当の方と決めておく5つ
- デモで救う場面を1つに決める。機械にできることを全部見せるのではなく、来場者の方がいちばん多く抱えていそうな困りごとを1つ選びます。
- 操作する人と、聞く人を分ける。デモの担当の方は操作に集中し、もう1人が見ている方の現場の話を聞きます。
- デモの長さを、話の時間から逆算する。動きを見せる時間を短くし、そのあとに話す数分を残します。
- 聞いたことを残す形をそろえる。立場・困っている工程・どこに反応されたかの3つを、誰が聞いても同じ形で残します。
- 会期のあと、誰がどの順で連絡するかを決める。話してくださった工程に合わせて、技術の方と営業の方のどちらが先に動くかを決めておきます。続け方は展示会のあとのフォローは何から始めるかにまとめています。
6. デモで聞いた現場の話を、翌年の出展へ持ち越します
弊社は、展示会のマンガを1枚作ってお渡しする会社ではありません。会期の前に来場者の方の現場の場面を一緒に選び、会期中は実機の前で来場者の方ご自身が話す場を作り、会期のあとに聞いた順で追いかける。そして、どの場面に、どんな立場の方が反応されたかを、翌年の出展へ持ち越す。前・中・後を、御社の技術の方・営業の方と一緒に毎年回し続けるプロジェクトの運用者です。
1年目のデモで救った場面が、いちばん響く場面だったとは限りません。来場者の方が話してくださった工程を記録しておけば、2年目は「去年いちばん多かった困りごと」から実機を見せられます。美華道さまとも、関西物流展から鉄道技術展へと出展をまたいでご一緒し、次の出展に向けた準備を続けています。
よくあるご質問
Q1. 実機を持ち込むのをやめて、パネルや映像にしたほうがよいのでしょうか。
実機を動かせるのは大きな強みですので、やめる必要はありません。実機の前後に、来場者の方の現場の場面を足すことをおすすめしています。映像は、持ち込めない大きな設備や、現場での使われ方を見せたいときの補いとして使うと効果的です。
Q2. デモの担当者は1人しか出せません。聞く役まで置けません。
その場合は、デモの回数を減らし、1回ごとのあとに話す時間を取ります。ずっと動かし続けるより、決まった時刻に短く見せ、あとは来場者の方の話を聞くほうが、残る記録は多くなります。デモの時刻を通路から見える場所に掲げておくと、人も集まりやすくなります。
Q3. 現場の場面は、どうやって選べばいいですか。
営業の方が商談でよく聞く困りごとの中から、「言われるとすぐに分かる場面」を選びます。工程の名前より、「夜勤の交代」「新人さんの初日」のように、人と時間が見える言い方にすると、通路から読んだ方にも伝わります。
Q4. 技術の方が、つい仕様の説明を長くしてしまいます。
仕様の説明は、来場者の方が「うちでも使えるか」と考え始めてからのほうが、ずっと深く聞いていただけます。「困っている工程を1つ聞いてから、それに関係する仕様を1つだけ話す」という順番を、会期の前に共有しておくと防げます。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
前回の展示会で、実機のデモを見終わった来場者の方は、どんな言葉を口にされていましたか。それは「すごいですね」でしたか。それとも、ご自身の現場の話でしたか。
その違いが、次の出展でデモの前後に足すべき場面を教えてくれます。
実機のデモに来場者の方の現場の物語を足し、会期の前・中・後を翌年の出展まで一緒に運用しています。展示会マンガプロジェクトを見る
実機はそのまま主役にして、その前後に来場者の方の現場の場面を1つ足します。
