
相見積もりで値切られ、条件表で並べられ、最後は価格で決まる。——その消耗戦から抜ける道は、「安くする」の反対側にあります。
結論から言えば、価格で比べられるのは、価格しか比べる材料を渡していないからです。
これは営業の商談だけの話ではありません。展示会で実機のデモを見せても商談につながらないのも、求人票の条件を整えても応募が来ないのも、根は同じです。比べる材料が条件表しかないとき、相手は条件で比べます。
以下、買い手の側で起きていること、物語が効く理由、物語を誰が語ると選ばれるのか、作って終わりにしない運用の順に書きます。
消耗戦は、あなたの努力不足ではない
中小企業庁の調査(回答53,799社)を見ると、価格転嫁率は1次請け54.7% → 2次請け52.5% → 3次請け48.3% → 4次請け以上42.1%と、階層が深くなるほど下がります。4次請け以上では29.5%——約3割が「全く転嫁できなかった、あるいは減額された」と答えています。(出典:中小企業庁 価格交渉促進月間フォローアップ調査 2025年9月)
これは根性の問題ではなく構造です。構造の中で消耗し続けるか、土俵を変えるか、の話になります。
買い手は、そもそも「差」を感じていない
ここに衝撃的な数字があります。GoogleとCEBがB2B購買者3,000名に行った調査では、供給業者の間に実質的な差を感じ、その差に対価を払ってもよいと答えたのは、わずか14%。86%は「どこも同じ」と思っています。(出典:Google × CEB, 2013)
ところが同じ調査で、もう一つの事実が出ています。その会社と組むことに「個人的な価値」(この選択を誇れる、キャリアが前に進む等)を感じた購買者は、購入する確率が約50%高く、比較可能な商品にプレミアムを払う確率は8倍でした。
スペックで差がないなら、差がつくのは「誰とやるか」です。その「誰と」を先に思い出してもらう方法は、中小企業が第一想起を取る方法の記事にまとめています。
物語は、その「誰と」を伝える
物語に引き込まれた読者に何が起きるかは、76本の論文・132の効果量を統合したメタ分析で確認されています。感情反応 ρ=.57、態度 ρ=.44、意図 ρ=.31。そして批判的思考は ρ=−.20 と有意に減少します。(出典:van Laer et al., 2014, Journal of Consumer Research)
粗く言えば、条件表を見せられた人は粗探しを始め、物語を読んだ人は書き手の側に立つということです。同じ会社の話でも、渡し方でここまで変わります。
なぜ絵なのか
教育心理学者Mayerの11の実験では、文字だけで学んだ人より、文字と対応する絵で学んだ人のほうが成績が良く、効果量の中央値は d=1.39(大きい効果)でした。(出典:Mayer, Multimedia Instruction)
そして記事に効くのはこの但し書きです。「効果は、その分野の知識が少ない相手ほど強い」。つまりあなたの事業をまだ知らない相手ほど、マンガはよく効く——新規開拓のためにある道具だということです。展示会という初対面の場でどう効くかは、17社をまわる来場者の記憶に残る展示会マンガで扱っています。
値上げして、選ばれ続けた会社がある
新潟県上越市のウエタックス株式会社(従業員30名・水中音響機器)は、ニッチ分野に的を絞って技術優位を築き、大手にできない仕様カスタマイズと迅速な修理対応で差別化。2022年に全製品を15〜20%値上げしましたが、根拠を丁寧に説明し保証期間を延ばすことで多くの顧客から納得を獲得。一部の離反はあったものの販売単価の上昇で売上げを維持し、利益率改善で賃上げと設備投資に回せています。(出典:2025年版中小企業白書 事例1-1-5)
選ばれる理由が価格でなければ、価格を上げても選ばれます。
物語は、語る人が増えるほど選ばれます
ここまでは研究と統計の話でした。ここからは、弊社がご一緒してきた現場で起きたことを書きます。
物語を渡すとき、いちばん効くのは制作会社が上手に書いた文章ではありません。その会社の方ご自身と、社員の方が語れる物語です。弊社はこれを「マンガ×体験価値」と呼んでいます。マンガはきっかけで、お客さまご自身も、その先の相手も巻き込んで、みんなが主体的に動く形を作る。だから納得が深く、実感が湧きます。
採用の現場で、こんなことがありました。大阪市港区の前田機械さまは、求人サイトに出しても応募がゼロの状態が続いていました。働く姿が見える採用マンガを作り、求人サイトではなく、会社の近くの地域へ配布しました。配布から10日で見学の応募があり、採用に至りました。いまは第2弾を継続して運用されています。地元の方は、会社を知らなかったのではなく、知る機会がなかっただけでした。配った物が条件表なら比べられて終わりですが、働く一日の物語なら、探していない人の日常にも入っていけます。社員の方が「うちはこういう会社です」と語れる言葉を持ったことも、大きな変化でした。この考え方は地元の人に会社を知ってもらうにはに詳しく書いています。
展示会でも同じです。床面サインの特殊施工をされている株式会社美華道さまは、2026年5月の第2回鉄道技術展・大阪で、施工見本を見せるだけでなく、来場者の方の現場で起きていそうな場面をマンガにしてブースの入口に置かれました。3日間のアンケートは459件、前向きな反応は164件、会期中にその場でいただいた見積は19件でした。もちろん、どの会社でも同じ数字が出るとは申し上げません。ただ、来場者の方が「うちの現場も同じだ」と、ご自身の話を始めてくださったことが、商談の入口になりました。物語は、買い手の側にも語る役を渡します。
作って終わりにしない、前・中・後の運用
物語で選ばれる会社と、1枚作って終わる会社の差は、絵の上手さではなく運用にあります。弊社は、作って納めて終わる制作会社としてではなく、プロジェクトの運用者としてご一緒しています。
- 前。誰に、何を、先に置くかを決めます。いま探している人ではなく、まだ探していない人の日常に、どう入っていくかを設計します。
- 中。接点で何が起きたかを記録します。誰が、どの場面に、どう反応したか。展示会なら来場者の方が話してくださった言葉、採用なら見学に来られた方が何を見ていたか。
- 後。記録を次の期へ持ち越します。1年目にいちばん響いた場面から、2年目を始めます。前田機械さまの第2弾も、美華道さまの次の出展に向けた準備も、ここから生まれています。
だから、お付き合いは1年以上、できれば何年も続くプロジェクトになります。物語は1回配って終わるものではなく、積み重ねるほど「あの会社」として思い出していただける確率が上がるからです。採用で毎年ゼロから始めてしまう理由は中小企業の採用で毎年苦戦するのはなぜかに書きました。
明日からできる3つ
物語で選ばれる会社へ向かうために、まず社内でできることを3つに絞ります。
- 直近の失注を1件、書き出す。負けた理由を「価格」の一語で片づけず、相手が最後に口にした言葉を思い出します。価格以外が出てきたら、そこが物語の入口です。
- 自社が主体的に語れる技術と想いを、1つ選ぶ。誇張ではなく、実際にやってきたことで十分です。社員の方が「それはうちの話だ」と言える題材を選びます。
- 最初に届ける相手を、1人決める。いま探している人ではなく、まだ探していない人のうち、御社の近くにいる方です。その方の日常のどこに物語を置くかを考えます。
この3つが決まれば、マンガにするか、連載にするか、展示会のブースに置くかは、あとから決められます。
価格の土俵を降りる順番
4次請け以上の3割が価格を転嫁できず、買い手の86%は「どこも同じ」と思っている。この構造の中で価格を下げ続けても終わりはありません。個人的な価値を感じた相手は8倍のプレミアムを払う。その「誰とやるか」を伝えるのが物語であり、知らない相手ほど絵はよく効きます。
順番は、相手の悩みに先に寄り添い、そのあとで御社の物語を、御社ご自身の言葉で渡すこと。そして1回で終わらせず、前・中・後を設計して何年も積み重ねることです。積み重ね方はファンが育つ連載漫画マーケティングの考え方に、続けられているかの確認は運用できているか10項目で確かめるチェックリストにまとめています。
よくあるご質問
Q1. すぐに効きますか。
単発では効きません。前・中・後を設計した運用で、接点を重ねながら浸透していきます。前田機械さまは配布から10日で見学の応募がありましたが、それは配る前に誰に何を置くかを決めていたからです。
Q2. 何から始めればいいですか。
自社が主体的に語れる技術と想いを1つ選んでください。誇張ではなく、実際にやってきたことが物語になります。上の「明日からできる3つ」の順でそろえていただければ、ご相談の場でそのまま設計に入れます。
Q3. 派手な話がない会社でも効きますか。
むしろ地道な話ほど効きます。買い手が見ているのは劇的さではなく「この人たちと組めるか」です。毎日やっている当たり前の仕事の中に、相手が知らない物語があります。
Q4. 採用にも同じことが当てはまりますか。
当てはまります。給与や休日の条件表で比べられるのは、条件しか渡していないからです。働く一日の物語を、まだ探していない地元の方の日常に先に置くと、条件の前に「この会社で働く自分」を思い浮かべていただけます。
Q5. 展示会では、物語をどこに置けばいいですか。
通路から読める位置に、来場者の方の現場で起きていそうな場面を1つ置きます。製品の説明より先に「うちの話だ」と思っていただくためです。実機やサンプルはそのまま主役にして、その前後に場面を足します。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
直近の失注で、負けた理由は本当に価格でしたか。相手が最後に口にした言葉は、何でしたか。
その言葉の中に、御社が渡せていなかった物語があります。失注した案件を1つ、お持ちください。その場で、どこに物語を置けたかを一緒に見ます。ご相談はこちらから。
価格の土俵を降りて、物語で選ばれるようになった会社の記録です。
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