
来年の出展の申込書が、机の上に回ってきた。出展料の欄、小間の数、搬入の日程までは埋まった。最後に「出展目的」の欄がある。去年の申込書を開くと「新規顧客の開拓、製品の認知向上」と書いてある。今年も同じでよいのか、と手が止まる。社内の会議で「今年の目的は何ですか」と聞かれても、「名刺を去年より集めること」くらいしか言葉が出てこない。そして会期が終わると、名刺の束を前に「それで、何のために出たのだったか」と同じ問いが戻ってくる。そんな年を、繰り返しておられませんか。
「展示会の出展目的は、何にすればいいですか」
目的は「誰と、どの話を始めて、会期のあとどう続けるか」を1行で書くことです。新規開拓や認知向上は、目的の分類であって、目的そのものではありません。名刺の数や来場者数は目的ではなく、その1行がうまく行ったかを測る物差しです。1行が決まると、ブースで最初にかける一言も、配る物も、会期のあとの電話の相手も、その1行から決まります。
以下、出展目的がよく並ぶ7つの分類、分類のままだと会期中に何も決まらない理由、1行の書き方、弊社が会期の前・中・後で目的を回す順番、翌年の目的が今年の会期中に決まること、明日からできる3つ、の順に書きます。
1. 出展目的として、よく並ぶ7つ
展示会の申込書や社内の稟議に書かれる出展目的は、だいたい次の7つに分かれます。
- 新規顧客の開拓(まだ取引の無い会社と出会う)
- 既存のお客さまとの関係づくり(いつもの担当者と、ふだんは話せない話をする)
- 新製品・新サービスの発表
- 会社と製品の認知を広げる
- 市場の声を聞く(来場者の方の困りごとや、同業の動きを知る)
- 代理店・協業先を探す
- 採用(学生や転職を考える方に会社を知っていただく)
どれも間違いではありません。どの分類を選ぶかは、御社の今の課題で決まります。1つに絞る必要もありません。ただ、この7つは、言ってみれば棚の見出しです。棚の見出しを申込書に書いても、ブースに立つ方は、明日の朝、通路の誰に何と声をかければよいかが分かりません。
2. 分類のままだと、会期中に何も決まりません
「新規顧客の開拓」と書いた年のブースを思い出してみてください。新規の方は、通路を歩く何千人のうちの誰でもあり得ます。誰でもよいので、声かけは「よろしければどうぞ」になり、配る物は誰が受け取っても困らないボールペンになり、目標は自然と「名刺を何枚」になります。誰でもよい相手を数えるには、数しか物差しが無いからです。
来場者の方の側から見ると、こうなっています。製造業の情報収集層を対象にしたアペルザの調査(延べ413件・2023年)では、来場者は1回の展示会で平均17社のブースを訪ねていました。17社のうちの1社として、ボールペンと一緒に名刺を交換しても、会期のあとに思い出していただける理由が残りません。同じ調査では、訪問のあとに検討を始めた方が56.6%いました。検討は始まっています。始まった検討の候補に残るかどうかを、会期中のブースが分けています。
弊社が出展側に立ってきて見えたのは、こういう機序です。目的が分類のままだと、測れるのは名刺の数だけになり、いつの間にか名刺を集めることが目的になります。集めたあとは電話で追いかければ何とかなる、と思われているのですが、ブースの前で盛り上がっていなかった相手は、電話をしても盛り上がりません。名刺を集めることが目的になった出展がどう終わるかは、展示会に出ても意味がないと言われるのはなぜかに書きました。この記事では、その手前の、目的の書き方を書きます。
3. 目的は「誰と、どの話を始めて、会期のあとどう続けるか」の1行で書きます
1行には、3つのことを入れます。
- 誰と 来場者の中の、どんな方か。業種と役職だけでなく、その方の現場で今何が起きているかまで書きます。「物流倉庫の現場責任者で、繁忙期の前に人が足りずに困っている方」のように。
- どの話を始めるか その方と、ブースで最初に交わしたい話です。製品の説明ではなく、その方の現場の場面です。「繁忙期の前の1週間に、現場で何が起きているか」のように。
- 会期のあとどう続けるか 会期が終わって1か月のあいだに、その方と何をしているか。「繁忙期の前の段取りを、現場の方と一緒に見直す打ち合わせを1回持つ」のように。
つなげると、たとえばこうなります。「物流倉庫の現場責任者で、繁忙期の前に人が足りずに困っている方と、繁忙期の前の1週間に現場で何が起きているかの話を始め、会期のあと1か月のうちに、段取りを一緒に見直す打ち合わせを持つ」。
この1行があると、会期中の動きが全部ここから決まります。最初の一言は「繁忙期の前は、どうされていますか」になります。配る物は、繁忙期の前の現場の場面を描いた物になります。会期中に数えるのは、名刺の枚数ではなく、繁忙期の前の話を聞かせてくださった方の人数になります。目標の数字の置き方は、展示会の目標設定は何を数字に置けばいいかに書きましたが、数字は1行が決まってから置くほうが、会期中に迷いません。
1行は、複数あってもかまいません。新規の方への1行と、既存のお客さまへの1行を分けて書く会社もあります。ただし、ブースに立つ方が全員、同じ1行を口で言える数にとどめてください。3行を超えると、通路では思い出せません。
4. 弊社が目的を回す順番。会期の前・中・後です
1行を書いて申込書に貼っても、それだけでは会期中に動きません。弊社が担っているのは、その1行を会期の前・中・後で回すことです。
前。御社の社員の方と一緒に、1行の「誰と」と「どの話を」を決めます。決めるのは弊社ではなく、お客さまの現場を知っている社員の方です。そのうえで、その話の場面を物語にします。ブースのパネルにも、配る物にも、ブースで最初にかける一言にも、同じ場面が載ります。社員の方が自分で選んだ場面なので、ブースに立ったとき、自分の言葉で話せます。
中。会期中は毎晩、ブースに立った方の日報と用紙を読み、1行に書いた方と、書いた話が始まったかを見ます。倉庫と運送の誠幸運輸倉庫さまは、2026年10月のものづくりワールド大阪に出展されました。手に取って試せないサービスです。会期中は毎晩、日報と用紙を読み、翌朝に誠幸運輸倉庫さまの皆さまと見直しました。ブースに置いた物語に重なる回答41件のうち前向きな反応は22件で、重ならない回答30件からは前向きな反応がありませんでした(会期当時の集計、実績ページ)。1行に書いた話が始まった相手と、始まらなかった相手で、会期のあとが分かれる、ということです。
後。会期のあとは、1行の3つ目に書いたことをします。話が始まった方には、その続きからご連絡します。進むかどうかは、相手に選んでいただきます。希望の無い方を追いかけることはしません。続くのは、物語の続きをお送りする便りと、交流の場へのお誘いです。
5. 翌年の目的は、今年の会期中に決まります
ここまでを、1回の出展の目的を決める話として読まれたのであれば、半分です。弊社がご一緒しているのは、1回の出展ではなく、出展をまたいで続くプロジェクトです。
今年の会期中に、1行に書いた話が始まった方の言葉を、ヒアリングシートに残しておきます。会期のあとに読み返すと、来年の1行が見えてきます。今年は「繁忙期の前の1週間」で話が始まった。来年は、その続きの「繁忙期の最中に起きること」から始める。去年話した方がもう一度ブースに来られたとき、「去年の続きですね」から会話が始まります。初めて会う方との会話より、ずっと先まで進みます。来年も同じ展示会に出るかどうかの決め方は、来年も同じ展示会に出るべきかに書きました。
床面に貼るサインの特殊施工をされている株式会社美華道さまとは、関西物流展から2026年5月の第2回鉄道技術展・大阪へと、出展をまたいでご一緒しています。鉄道技術展では、会期中の来場者アンケートが459件で前回の出展の約12.8倍、会期中の見積が19件でした。前の展示会で始まった話を、次の展示会の1行に持ち越した結果です。
弊社はこの流れを、1年以上、できれば何年も続くプロジェクトとしてご一緒しています。社員の方が場面を選び、来場者の方が「うちのことだ」と言い、会社に戻って隣の方に話す。関わる人が自分で動く形です。弊社はこれを、マンガと体験価値の組み合わせと呼んでいます。出展の物を作って納めて終わりの制作ではなく、プロジェクト運用者として、来年、再来年の出展へ一緒に歩きます。
6. 明日からできる3つ
- 去年の申込書の「出展目的」の欄を開き、そこに書いた分類の横に「誰と」を1つ書き足してください。業種と役職だけでなく、その方の現場で今何が起きているかまで書きます。
- 前回の展示会で集めた名刺を10枚選び、その方とブースで何の話をしたかを思い出してください。話を思い出せた方の中に、来年の1行の「誰と」がいます。
- 来年の出展の準備会議の最初の議題を、出展料や小間の大きさではなく、1行にしてください。1行が決まってから、小間と配る物を決めます。順番を逆にしないことが、いちばんの違いです。
よくあるご質問
Q1. 申込書の「出展目的」の欄には、分類を書けばよいのではありませんか。
申込書には分類を書いてかまいません。主催者が知りたいのは分類だからです。ただ、社内とブースに立つ方には、1行のほうを渡してください。分類は主催者のため、1行は御社のためのもの、と分けて考えると迷いません。
Q2. 新規開拓と既存のお客さまとの関係づくり、両方を目的にしてもよいですか。
よいです。その場合は1行を2本書きます。新規の方への最初の一言と、既存のお客さまへの最初の一言は違うはずです。ブースに立つ方が、相手を見て2本のどちらを使うかを決められるように、2本とも口で言える短さにしておきます。
Q3. 目的に、名刺の枚数を入れてはいけないのですか。
いけないわけではありません。名刺の枚数は、1行がうまく行ったかを測る物差しの1つです。ただ、目的の欄に枚数だけを書くと、会期中のブースの動きが、話を始めることではなく、名刺をいただくことに向いてしまいます。枚数は、1行の「どの話を始めたか」と並べて数えることをお勧めしています。
Q4. 初めて出展するので、誰と話せばよいかの見当がつきません。
見当は、御社のお客さまが知っています。今のお客さまが御社に初めて電話をかけてきた直前に、現場で何が起きていたかを、社員の方に1つ聞いてください。その場面を抱えている方が、来場者の中にもいます。その方が1行の「誰と」です。
Q5. 1回の出展で、目的が合っていたかは分かりますか。
1行に書いた話が始まったかどうかは、会期の初日から分かります。合っていなければ、2日目の朝に1行を直してかまいません。会期中に直せるのも、目的を1行にしておく良さです。そして、去年の続きから話が始まるのは2回目の出展からなので、1回で終わらせず、今年の会期中に残った言葉から来年の1行を決める運用にしています。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
次の展示会の初日の朝、ブースに立つ方は全員、「今日は誰と、何の話を始めるか」を同じ言葉で言えますか。
言えるなら、その言葉が御社の出展目的です。言えないなら、申込書の欄より先に、その1行を決めるところから始めてみてください。
社員の方と一緒に「誰と、どの話を始めるか」を決め、その場面をパネルにも配る物にも最初の一言にも載せ、会期の前・中・後を回して来年の出展へつないでいくところまで運用しています。展示会マンガプロジェクトを見る
前回の出展の申込書と、会期のあとに話が続いた件数をお持ちいただければ、御社の場合の1行を、その場で一緒に書いてみます。30分の面談を予約する
参考ブログ
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出展目的は、分類ではなく「誰と、どの話を始めて、会期のあとどう続けるか」の1行です。1行が決まると、最初の一言も、配る物も、会期のあとの電話の相手も決まります。小間と配る物より先に、その1行を決めてください。


