
「来年の出展の計画を出すように言われました。目標の欄があるのですが、何を書けばよいのか分かりません。調べると、名刺の獲得枚数や商談件数を目標に置くように書かれています。それで合っているのでしょうか」
枚数を目標に置くことはできます。ただ、置いた瞬間から、会期中の3日間の動き方がその数字に合わせて変わります。目標は成果を測るためだけの欄ではありません。当日、説明員が何をするかを決めてしまう指示書です。だから弊社では、件数ではなく「会期が終わった時に、どう分かれていてほしいか」を先に決めます。数はそのあとに付いてきます。
先に、判断の助けになる数字をひとつ置きます。製造業の来場者調査(アペルザ・延べ413件)では、来場者が回るブースは平均17社で、持ち帰った資料の94.9パーセントは保管されていません。枚数を増やす目標は、保管されない資料を配る速度を上げる目標にもなり得ます。
以下、弊社が伴走した出展で実際にどう目標を置いたかを、数字のままお示しします。
1. 「名刺◯枚」と置くと、会期中の動きがこう変わります
目標に枚数を置くと、当日いちばん効率のよい動き方は「短く話して、早く次の方へ移る」になります。これは説明員がさぼっているのではありません。与えられた目標に対して、正しく最適化しているだけです。
1人に10分かけて深く聞き取ると、3日間で会える人数は減ります。枚数の目標を達成するには、1人あたりの時間を削るほうが合理的です。こうして、目標を決めた人が意図していなかった行動が、現場で起こります。
弊社が現場で繰り返し見てきたのは、展示会が「リスト集め」で終わってしまう形です。集めたあとにテレアポなどで追いかければ商談になる、という前提が置かれています。しかし会期中に何も起きていない相手には、追いかける材料がありません。データだけが手元に残り、現場では何も動いていない状態になります。
目標の欄に書いた1行が、この分かれ道を決めています。
2. 弊社が置いたのは、件数ではなく「分かれている状態」でした
株式会社美華道さまの記録を、そのままお伝えします。第2回鉄道技術展・大阪2026(2026年5月27日から29日・インテックス大阪)への出展です。商材は床面サインの特殊施工「スマートシグナル」で、鉄道や物流の現場に線や表示を貼り込む技術です。
この出展で会期3日間に集まったアンケートは459件でした。前回出展された関西物流展の約12.8倍です。ただ、目標として先に置いていたのは459という枚数ではありません。「会期が終わった時点で、連絡する順番が決まっている状態」です。
結果として、A級が67件になりました。試験施工や現地訪問の話まで進んだ方です。B級が78件。説明を聞いて検討に入られた方です。前向きなご回答は全体で164件、35.7パーセントでした。会期中の見積が19件です。このうち、すぐ商談に進める見込客として扱ったS・A級が86件でした。
お話しした相手の75.5パーセントが、JRや上場企業などの大企業層でした。
67と78という数は、会期が終わってから数えたものではありません。会期中に、その場で分けた結果です。目標を「分かれている状態」に置いたので、当日の動きが分けるほうへ向きました。枚数はその副産物として付いてきています。
3. 目標は、前・中・後の3つに分けて置きます
ひとつの数字に全部を背負わせると、必ずどこかが犠牲になります。弊社では次の3つに分けて置きます。
- 前の目標 誰に来ていただくか。既存のお客さま、休眠のお客さま、まだ接点のない層のうち、どこを増やしたいのかを先に決めます。ここが決まると、事前の案内を誰に送るかが決まります。
- 中の目標 会期が終わった時に、どう分かれていてほしいか。ランクごとの目安の件数と、分けるための質問を決めます。ここが当日の動きを決めます。
- 後の目標 何日目までに、誰へ、何を送り終えているか。A級には何を書くか、B級には何を添えるかまで、出る前に決めます。
3つに分けると、「枚数は少なかったが、A級が増えた」という結果を正しく評価できるようになります。ひとつの数字しかないと、この出展は失敗として記録されます。
4. 決める順番は、後ろからです
前から順に決めると、たいてい前の目標だけが細かくなり、後の目標が空欄のまま会期に入ります。逆から決めます。
まず、会期の後に何が起きていてほしいかを決めます。たとえば「会期後30日で、試験施工の打ち合わせが5件動いている」。次に、そのためには会期が終わった時点でどう分かれている必要があるかを決めます。試験施工まで話が進んだ方が何件あればよいか。最後に、その状態を作るには当日どう聞けばよいかを決めます。
この順で決めると、当日の質問の中身まで自動的に決まります。前から決めると、ここが最後まで決まりません。
5. 目標を決める会議は、小間を申し込む前に開きます
実務として、いちばん効くのは時期です。目標を決めるのが遅れるほど、決められることが減ります。
小間の位置と大きさを申し込んだあとでは、動線の設計はもう変えられません。誰に来ていただくかを決めていないのに小間だけ先に押さえると、あとから「この場所では声をかけにくい」という制約が出てきます。目標は、申込書に判を押す前に決めます。
弊社が伴走する場合も、最初の打ち合わせで話すのは装飾でもマンガでもありません。会期が終わった時にどうなっていてほしいか、その1点です。そこが決まってから、当日の聞き方を設計し、そのあとで見せるものを作ります。順番を逆にすると、作ったものが目標と噛み合いません。
6. 社内の稟議には、数と状態を並べて書きます
枚数を目標から完全に外すと、社内で通らないことがあります。無理に外す必要はありません。並べて書きます。
「名刺◯枚」だけを書くのではなく、「うち、試験施工の相談まで進んだ方を◯件」「会期後30日で商談◯件」を同じ欄に並べます。枚数は残したうえで、当日の動きを決める目標を隣に置く形です。こうすると、説明員は枚数だけを追わなくなります。
なお、新規のお取引先として選ばれるかどうかには、目標の外側にある壁もあります。日経リサーチの調査(n=2,132・2020年5月)では、新規取引先を却下する理由の最上位が「会社の知名度」でした。価格の妥当性と同率です。会期中にどれだけ丁寧に聞き取っても、そもそも知られていなければ検討の土俵に乗りません。前の目標に「誰に来ていただくか」を置くのは、このためです。
7. 展示会の目標設定は、結局どこから決めればよいですか
ここまでを1つにまとめます。
目標は、成果を測るための欄ではなく、当日の行動を決める指示書です。だから「会期が終わった時にどう分かれていてほしいか」から決めます。そこから逆算して、当日の聞き方と、会期後に送るものが決まります。枚数は、その結果として出てきます。
そして決める時期は、小間を申し込む前です。ここだけは、あとから取り返せません。
目標をどう測るか、会期後にどう報告するかについては、展示会の成果は、何で報告していますかに、会期中に測れる3つの数と会期後に測る2つの数をまとめています。会期後のフォローの進め方は展示会のあとのフォローは、何から始めればいいですかを、出展費用の回収についてはその出展費用、回収できていますかをご覧ください。
よくあるご質問
Q1. 目標に名刺の枚数を入れてはいけないのですか。
入れて構いません。外すことが目的ではありません。枚数だけを単独で置くと、当日の動きが「短く話して次へ」に寄るため、その隣に「どう分かれていてほしいか」を必ず並べてください、というのがご提案です。稟議の書き方は本文6のとおりです。
Q2. 目標の件数は、どう見積もればよいですか。
前回の出展があれば、そこから置きます。前回が無い、あるいは前回は分けていなかった場合は、件数を先に決めず「分ける仕組みを作り、初回は実数を記録する」を目標にしてください。根拠のない件数を置くと、達成も未達も意味を持ちません。美華道さまの67件・78件も、初回は目標値ではなく記録として出た数です。
Q3. 小間の申し込みが、もう終わっています。
その場合でも、中と後の目標は間に合います。決められないのは動線と小間の位置だけです。当日の聞き方と、会期後に何日目までに何を送るかは、開催の直前まで決められます。優先順位としては、後の目標から先に埋めてください。
Q4. 説明員が2名しかおらず、その場で分ける余裕がありません。
人数が少ないほど、分ける仕組みを人の記憶の外へ出す必要があります。美華道さまでは、ブースでの体験とアンケートを一続きにして、来場者ご自身に「どの現場で困っているか」を書いていただきました。書かれた内容がそのまま分ける材料になるので、説明員が覚えておく必要がありません。
Q5. 目標を達成できなかった時、どう報告すればよいですか。
3つに分けて置いていれば、どこで止まったかが分かる形で報告できます。前が未達なのか、中が未達なのか、後が未達なのかで、翌年に直す場所がまったく違います。ひとつの数字しか置いていないと、「今年は駄目だった」以上のことが書けず、翌年も同じ出展になります。
展示会の前・中・後をどう組み立てるかについては、展示会マンガプロジェクトのご案内で、実際の進め方をご覧いただけます。
