
面接では手応えがあった。条件にも納得していただけた。内定をお伝えしたときは「よろしくお願いします」と言っていただけた。それなのに、入社の数週間前になって、電話が一本かかってくる。「申し訳ありませんが、今回は辞退させてください」。理由をうかがっても、はっきりとは教えていただけない。採用の担当を任されて、そんな電話を何度か受けたことはありませんか。
「内定辞退を防ぐには、何をすればいいのでしょうか」
答えは、内定を出したあとの連絡の回数を増やすことより、入社までの間に膨らむ不安に、こちらから先に答えておくことです。内定を受けた方は、御社が嫌になって辞退するのではありません。入ってからの毎日が想像できないまま、もう一社の声や、ご家族の心配や、自分の中の小さな不安に押されて、決めきれなくなるのです。辞退の多くは、内定のあとに始まるのではなく、内定の前に答えておけなかった不安から始まっています。
以下、内定から入社までに何が起きているか、内定者の方が抱えている不安、よくある引き止めが効かない理由、不安に先に答える考え方、弊社のやり方、今週できる3つ、の順に書きます。
1. 内定から入社までの間に、何が起きているか
内定をお伝えした日から入社の日までは、御社の側から見ると「待つ期間」です。けれども内定を受けた方の側では、この期間にいちばん多くのことが動いています。
- ほかの会社の選考が続いている。並行して受けていた会社から、別の内定や面接の連絡が届きます。
- ご家族や身近な方に相談する。「その会社、どんなところなの」と聞かれて、うまく答えられないことに、本人がそこで初めて戸惑います。
- 前の職場から引き止められる。中途の方の場合、上司から条件を上げる話が出ることもあります。
- 入ってからのことを、ひとりで想像し始める。初日に何をするのか、誰が教えてくれるのか、失敗したらどうなるのか。答えの無い問いが、日に日に増えていきます。
このうち御社が手を打てるのは、2番と4番です。ご家族に聞かれて答えられる材料があるか。ひとりで想像し始めたときに、思い浮かぶ場面があるか。ここが空いたままだと、1番や3番の声に、簡単に押し負けてしまいます。
2. 内定を受けた方は、こんなことを怖がっています
辞退の電話で理由がはっきりしないのは、本人にも言葉にしにくい不安だからです。よくあるのは次の5つです。
- 入ってすぐ、分からないことだらけの現場に放り込まれないか。研修で、ちゃんと教えてもらえるのか。
- 面接で聞いた話と、実際の仕事が違っていたらどうしよう。説明に無かったことが起きたとき、誰に聞けばいいのか。
- 経験が浅いことで、きつく当たられないか。
- 納期に追われて、余裕の無い毎日にならないか。
- すぐに結果が出なかったとき、居づらくならないか。
この5つは、労働条件通知書にも、内定式のあいさつにも書かれていません。面接の場では、聞いてよいのか迷って飲み込まれることも多いはずです。だからこそ、内定のあとに大きく膨らみます。入る前に、うまくいかない日を見せておくことが、ミスマッチだけでなく辞退も防ぐのはこのためです。
3. よくある引き止めが、効かない理由
辞退を防ごうとして、多くの会社がされていることがあります。どれも間違いではありませんが、それだけでは止まりにくいのです。
- 連絡の回数を増やす。こまめな電話やメールは、安心にもつながります。ただ、中身が「その後いかがですか」だけだと、本人の不安には触れられず、かえって答えにくい問いが増えます。
- 内定者の懇親会を開く。顔を合わせるのは良いことです。けれども、明るい場で「失敗した日はどうなりますか」とは聞けません。
- 条件を上げて引き止める。ほかの会社と条件で競り合うと、次はもっと良い条件の会社に負けます。条件は、辞めない理由にはなっても、選ぶ理由にはなりにくいのです。
止まりにくいのは、どれも「会社が良いところだ」と伝える手だからです。内定を受けた方が知りたいのは、良いところより、うまくいかない日に何が起きるかです。
4. 不安に、こちらから先に答えておく
おすすめするのは、御社の「入ってからの数か月」を、場面として1本持っておくことです。良い日の場面ではなく、つまずいた日の場面です。
- 初日の場面。道具の場所が分からず立ち止まったとき、先輩が隣で「左の棚、3段目やで」と教えてくれる。
- 説明と違った日の場面。「聞いていた話と違う」と戸惑ったとき、上司が「一緒に考えようや」と受け止めてくれる。
- 失敗した日の場面。ミスを自分から申し出たとき、「ええ判断や。隠すより100倍マシや」と返してもらえる。
この3つは、大阪市港区の前田機械さまの採用マンガに、実際に描かれている場面です。こうした場面が1本あると、内定を受けた方がひとりで想像し始めたとき、思い浮かべる絵があります。ご家族に「どんな会社なの」と聞かれたときも、それを見せれば済みます。不安が膨らむ前に、答えが手もとに届いている状態です。
大事なのは、これを内定のあとに慌てて渡すのではなく、募集の前から地域に届けておくことです。応募のあとにしか会社を知る機会が無いと、面接の欠席も、内定の辞退も、同じ根から起きます。
5. 前・中・後で、内定から入社までを設計します
内定から入社までを、待つ期間ではなく、物語を届ける期間に変えます。
前 募集の前に、つまずいた日の場面を地域へ届ける
募集を始める前に、働く一日の物語を、ポスティングや地域の催し、SNSで先に届けます。応募してくださる方が、すでに場面を知っている状態をつくります。地元の方は、会社を知らないのではなく、知る機会がなかっただけです。
中 面接と見学で、物語の続きを確かめていただく
面接や見学では、物語に出てきた立場の社員の方が、入る前に怖かったことと、その後どうだったかを話します。工場見学も、物語を読んだあとの「2回目に会う場」にすると、聞きにくいことが聞きやすくなります。
後 内定から入社までに、続きの話を届ける
内定をお伝えしたあとは、連絡のたびに「入って1か月目に何をするか」「最初に誰と組むか」を、場面で1つずつお届けします。入社された方には、一年経ったところで「入る前に怖かったこと」をうかがい、翌年の物語の種にします。
6. 弊社がしていること
弊社は、マンガで「入ってからの毎日」を見える形にし、それを前・中・後に届け続けるプロジェクトを運用しています。
マンガを使うのは、条件の表では伝わらない場面が伝わるからです。読む方はその場面の中に自分を置き、そこで働く自分の姿を想像します。作る過程では、社員の皆さまに、つまずいた日のことや、そのとき助けてもらったことを語っていただきます。社内の皆さまも、読む方も主体的に関わる形になるので、納得して選んでいただけます。
前田機械さまは、求人サイトに掲載しても応募がゼロの状態から、採用マンガをポスティングチラシとして地域に配布されました。配布から10日で見学の応募が入り、採用に至っています。1回で終わらせず、現在は第2弾を一緒に続けて運用しています(前田機械さまの事例)。
アイケイケイさまでは、5名ほどの参加を見込んでいた説明会に、28名の方が参加されました。前と後を比べた倍率ではなく、事前の見込みと、実際に来られた数の差です。
どちらも、条件を良くしたことが理由ではありません。入ってからの姿を知っていただく機会を、選考の前から作り、その後も続けたことが違いでした。
7. 今週できる3つ
- この1年に辞退された方を思い出し、内定から辞退の電話までに何回、どんな連絡をしたかを書き出します。その中に「入ってからの場面」を伝えた回があったかを確かめてください。
- 入社1年目から3年目の社員の方に、「内定をもらってから入社するまでに、一番不安だったこと」を1つだけうかがいます。それが、最初に届ける場面になります。
- いま内定を出している方がいれば、次の連絡で「入社して最初の1週間に何をするか、誰が隣にいるか」を具体的にお伝えします。
よくあるご質問
Q1. 内定辞退は、なぜ起きるのですか。
多くは、御社が嫌になったからではありません。入ってからの毎日が想像できないまま、ほかの会社の声やご家族の心配に押されて、決めきれなくなるからです。不安に答える材料が手もとにあれば、迷ったときに御社を選ぶ理由になります。
Q2. 内定者への連絡は、どのくらいの頻度がよいですか。
回数より中身が大切です。「その後いかがですか」だけの連絡を重ねるより、入社してからの場面を1つずつお伝えするほうが、本人の不安に届きます。
Q3. 条件を上げれば、辞退は減りますか。
一時的には減ることもあります。ただ、条件で競り合うと、次はもっと良い条件の会社に負けます。条件は辞めない理由にはなっても、選ぶ理由にはなりにくいものです。選ぶ理由は、入ってからの姿を想像できるかどうかで決まります。
Q4. 中途採用でも、同じ考え方が使えますか。
使えます。転職される方には、前の職場での不満が必ずあります。その不満が御社でどうなるかを場面で見せることが、前の職場からの引き止めに負けない理由になります(中途採用がうまくいかない理由)。
Q5. 小さな会社でも、物語を作れますか。
作れます。先輩が隣で教えてくれる場面、失敗を受け止めてもらえる場面は、会社の大きさに関係なく描けます。むしろ社員の皆さまの顔が見える規模の会社ほど、場面に説得力が出ます。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
いま内定を出している方は、入社して最初につまずいた日に、御社で何が起きるかを思い浮かべられるでしょうか。
すぐに浮かばないなら、連絡の回数を増やすより先に、つまずいた日の場面を1つ、言葉にするところから始めてみてください。
入ってからの毎日を描く物語づくりから、地域への届け方、内定から入社までのお届け、入社された方の一年を次の年へつなぐところまでを、プロジェクトとして運用しています。採用マンガプロジェクトを見る
辞退が続いている事情をお聞かせいただければ、御社の場合はどの場面から届けるとよいか、ご一緒に考えます。30分の面談を予約する
参考ブログ
参考ブログ
内定辞退は、内定のあとに始まるのではなく、内定の前に答えておけなかった不安から始まります。地元の方は、御社を知らないのではなく、知る機会がなかっただけです。つまずいた日の場面を1本持ち、募集の前から、入社のその日まで、続けて届けていってください。


