
春に採った方が、3か月で辞めた。退職の理由を聞くと「聞いていた話と違いました」と言われた。面接で嘘は言っていない。給料も休みも求人票のとおりだった。それでも「違う」と言われて、何が違ったのかが、最後まで分からないままだった。次の募集を出す前に、同じことがまた起きる氣がして、手が止まっている。
「採用のミスマッチは、どうすれば防げますか」
入る前に、うまくいかない日を見せておくことです。ミスマッチは面接の場で起きるのではなく、入ってから初めて出会う「説明に無かった日」で起きます。初日に遅刻したとき、教わったとおりにやってもできなかったとき、納期の前に職場の空氣が変わったとき。その日に自分がどう扱われるかを、求職者の方は入る前に知るすべがありません。だから条件が合っていても「違う」が起きます。防ぐ手は、その日の場面を、選考の前に見せておくことです。
以下、ミスマッチが起きる場所、条件が合っていたのに辞める理由、数字で見た現状、うまくいかない日を見せた会社で起きたこと、1期目から2期目へ続けると何が変わるか、明日からできる3つ、の順に書きます。
1. ミスマッチが起きるのは、面接ではなく「説明に無かった日」です
面接で御社が話したことは、ほぼ全部が本当だったはずです。仕事の内容、給料、休日、通勤。求人票に書いた条件は、職業安定法で明示が義務づけられていますから、そこに嘘を書く会社はまずありません。
それでも辞めた方が「違う」と言うのは、面接で話されなかったことに、入ってから出会ったからです。たとえば、こんな日です。
- 初日の朝、電車が遅れて10分遅刻した。玄関で上司がどんな顔をするのか。
- 教わったとおりにやったのに、できなかった。「説明と全然ちがう」と思ったとき、誰に言えばいいのか。
- 納期の前の週、職場の空氣が変わった。自分だけ置いていかれていないか。
- 経験が無いことを、周りはどう扱うのか。きつく当たられないか。
- 3か月たっても結果が出なかったとき、この会社は待ってくれるのか。
この5つは、面接で求職者の方から聞きにくいことばかりです。聞けば「不安が多い人」と見られる氣がする。だから聞かずに入り、入ってから答えを知ります。その答えが想像と違ったとき、「聞いていた話と違う」になります。御社が嘘をついたのではなく、話されなかった日があっただけです。
2. 条件は合っていたのに辞めるのは、条件が理由ではないからです
給料と休日は、入る前に比べる材料です。入ったあとに毎日を支えるのは、別のものです。教えてもらえるか、失敗したときに受け止めてもらえるか、自分の仕事が誰かの役に立っていると感じられるか。
条件で選ばれた方は、条件で比べ続けます。少し良い条件の求人が出れば、そちらへ動く理由ができます。一方で、「この会社なら、うまくいかない日でも大丈夫だ」と分かって入った方は、うまくいかない日が来ても、それが想定の範囲です。辞める理由と選ぶ理由は別の場所にある、という話は中途採用がうまくいかないのはなぜかに書きました。
ミスマッチを防ぐというと、適性検査を足す、面接の回数を増やす、という方向に行きがちです。それは「合わない人を見抜く」手です。もう1つの方向があります。「うまくいかない日を先に見せて、それでも来たい方に来ていただく」手です。応募の数は少し減るかもしれません。ただ、減るのは、入ってから「違う」と言う方です。
3. 数字で見ると、3人に1人が3年以内に辞めています
厚生労働省が2024年10月25日に公表した新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)では、就職後3年以内の離職率は大学卒で34.9%、高校卒で38.4%でした。大学卒は前年度より2.6ポイント上がっています。
ここは正確に申し上げます。これは新卒を対象にした集計で、中途採用にそのまま当てはめられる数字ではありません。ただ、入る前の想像と入ったあとの現実がずれると人は辞める、という構造は、新卒でも中途でも同じです。中途の方には前の職場で嫌だったことが必ずあり、その嫌だったことが次の職場で起きないかを、入る前に知りたがっておられます。
研究の側では、入社前に良い面だけでなく悪い面も伝える方法が、古くから調べられています。Phillips(1998年)の分析では、この方法は離職を下げる向きに働くものの、効果の大きさそのものは小さいとされています。Earnest、Allen、Landis(2011年)の分析(52研究、約17,000人)では、効いている主な経路は「この会社は正直だ」と求職者が受け取ることだとされています。つまり、悪い日を見せること自体より、見せてくれた会社への信頼が、人を残します。
4. うまくいかない日を先に見せた会社で、起きたこと
弊社のお客さまである前田機械さま(大阪市港区・金属の精密切削加工)は、求人サイトに掲載しても応募がゼロでした。技術にも待遇にも問題があったわけではなく、地域に存在が知られていなかったのです。
そこで、働いている場面を採用マンガにして、地域へ配布しました。描いたのは、良い一日ではありません。社員の方々と一緒に、うまくいかない日を3つ選びました。
- 第1話は、初日に遅刻した新人の話です。先輩の返事は「まあ来たんやからええわ」。工具の場所を聞くと「左の棚、3段目やで」。
- 第2話は、教わったとおりにやってもできなかった日の話です。「説明と全然ちがう」から始まり、「一緒に考えようや」で受けます。
- 第3話は、納期に追われた日の話です。失敗を申し出た新人に、先輩はこう返します。「ええ判断や。隠すより100倍マシや」。
帯には「異業種・未経験歓迎」と入れました。誰に読んでいただく紙かが、1行目で決まっています。配布から10日で見学の応募が入り、そのまま採用に至りました。現在は第2弾を継続して運用しています。
ここで大事なのは、台詞を弊社が考えたのではないことです。「遅刻した新人に、実際に何と言いましたか」と社員の方にうかがって、出てきた言葉をそのまま使いました。社員の方がご自分の職場の場面を選び、ご自分の言葉で語る。読んだ方は、入る前にその日の答えを知っています。だから入ってから「違う」が起きにくい。弊社はこれを、マンガをきっかけに社員の方と求職者の方が一緒に動く形、という意味で、マンガと体験価値の組み合わせと呼んでいます。
5. 1期目から2期目へ続けると、ミスマッチの種が減っていきます
1冊作って終わりにすると、ここまでの話です。続けると、別のことが起きます。
1期目で入った方は、入ってから「これは説明に無かった」と思う日に、やはり出会います。描いた3つの不安の外側にあった日です。その日を、2期目の題材にします。1期目に入った方が、今度は語る側に回ります。「自分が入って最初に戸惑ったのは、ここでした」と。
こうして年ごとに1つずつ、説明に無かった日が、説明にあった日に変わっていきます。3年続けると、求職者の方が入る前に知っている場面が9つになります。ミスマッチの種は、毎年ゼロから探すものではなく、去年入った方の中にあります。去年の分を次の年に積み上げる形は、中小企業の採用で毎年苦戦するのはなぜかに書きました。
弊社は、この前・中・後を設計して回す側に立ちます。採用の前は、探していない方の暮らしの中へ、働く場面を置くこと。採用の中は、手ぶらで来ていただける見学で、入る前に職場の空氣を一度吸っていただくこと。採用の後は、入った方が次の語り手になる場を作ること。作って納めて終わりではなく、お客さまとは1年以上、できれば何年も続くプロジェクトとしてご一緒しています。
6. 明日からできる3つ
- この1年で辞めた方が口にした「聞いていた話と違う」を、1行ずつ書き出してください。給料や休日の話は除きます。残ったものが、御社の「説明に無かった日」です。
- その中の1つについて、いちばん近くにいた社員の方に「そのとき、実際に何と言いましたか」とうかがってください。出てきた言葉が、次の求人票には書けない、御社だけの答えです。
- その答えを、応募のあとではなく、応募の前に置く場所を1つ決めてください。見学の案内でも、地域への配布物でも構いません。面接で話す、は応募の後ですので数えません。
3つ目が決まらないときは、そもそも応募が来ない段階の話かもしれません。その場合は求人に応募が来ない理由は何かからお読みください。
よくあるご質問
Q1. うまくいかない日を見せたら、応募がさらに減りませんか。
減る分はあります。減るのは、入ってから「違う」と言って辞める方です。前田機械さまでは、応募ゼロの状態からうまくいかない日を3つ描いて配り、配布から10日で見学の応募が入りました。悪い日を見せたから来なかった、という順番にはなっていません。
Q2. 文章や動画ではなく、マンガである必要がありますか。
必要なのはマンガそのものより、社員の方がご自分の言葉で場面を語ることと、それが探していない方の手元に残ることです。マンガは、読んでいただく時間が短く、家に置いておけ、台詞がそのまま記憶に残るので、この2つに向いています。文章で同じことができるなら、文章で構いません。
Q3. 中途採用でも効きますか。
効きます。中途の方は前の職場で嫌だったことを必ずお持ちで、それが次の職場で起きないかを知りたがっておられます。描く不安の中身が、新卒とは少し変わるだけです。
Q4. どのくらいで効きますか。
前田機械さまでは配布から10日で見学の応募がありましたが、これを標準の日数としてお約束することはできません。業種、地域、時期で変わります。確かなのは、ミスマッチが減ったかどうかは、入った方が1年たったときに初めて分かるということです。だから1回で終わらせず、続ける前提で始めます。
Q5. 採用の担当者が替わっても続けられますか。
続けられます。題材が担当者の頭の中ではなく、去年入った方の経験の中にあるからです。担当者が替わっても「去年入った方に、最初に戸惑った日を聞く」という手順は残ります。手順を回す側を弊社が担いますので、担当者お一人で背負う形にはなりません。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
この1年で辞めた方が「違う」と言ったのは、御社のどの日のことでしたか。
その日が1つ浮かべば、次の採用で最初に見せる場面は、もう決まっています。
社員の方と一緒に、うまくいかない日を物語にして、探していない方の日常へ先に置き、前・中・後を回して2期目・3期目へつないでいくところまで運用しています。採用マンガプロジェクトを見る
辞めた方の「違う」を1つか2つお持ちいただければ、御社の場合はどの日から描くとよいか、その場で一緒に見当をお出しします。30分の面談を予約する
参考ブログ
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ミスマッチは、面接で起きるのではありません。説明に無かった日に起きます。その日を、入る前に見せておいてください。


