
「工場見学の案内を出しているのですが、申し込みが来ません。見学まで来てもらえれば、良さは伝わると思うのですが」
見学は効きます。ただし、効くのは見学そのものではなく、見学に来る前の段階です。見学は、すでに少し知っている会社を確かめに行く場であって、まったく知らない会社を知りに行く場ではないからです。順番を入れ替えるだけで、申し込みの数は変わります。
1. 見学は「知る場」ではなく「確かめる場」です
知らない会社の工場に、半日かけて行こうと考える人はほとんどいません。行き方を調べ、服装を考え、予定を空けて、初対面の人に会う。負担が小さくありません。その負担を引き受けるのは、頭のどこかに「あの会社、ちょっと氣になっていた」という記憶がある人だけです。
逆に言えば、記憶さえあれば見学は強い道具になります。求人票では絶対に伝わらないもの、たとえば工場の音の大きさ、床の清潔さ、社員同士の話し方、休憩室の空氣。それらは行けば5分で分かります。5分で分かるものを、文字で何千字書いても届きません。だから見学は残しておくべきです。ただ、入口ではなく2番目に置きます。
2. 申し込みが来ないのは、案内の書き方の問題ではありません
見学の案内文を工夫しても、届く先が「いま仕事を探している人」のままなら、母数は増えません。求人サイトも、ハローワークも、自社の採用ページも、探している人しか開かないからです。
ところが、地元で採用できる可能性がいちばん高いのは、いま探していない人です。子どもが小学校に上がった人。通勤に片道1時間かけている人。いまの職場で3年目に入り、このままでいいのかと考え始めた人。この人たちは、来月の求人サイトを見ていません。けれど、半年後には見るかもしれません。
案内文を直すより先に、その人たちの日常に会社の名前を置くほうが効きます。
3. 地元の人は、会社を知らないのではなく、知る機会がなかった
ここが、いちばん申し上げたいところです。
御社を知らない地元の人は、御社に興味がないのではありません。知る機会が一度もなかっただけです。工場は道路から中が見えません。看板は社名だけです。取引はすべて法人向けで、地域の人が客になることもない。悪いことは何一つしていないのに、存在が伝わる回路がないのです。
マイナビの2027年卒の調査(調査期間は2026年3月20日から4月5日、有効回答2,800人)では、地元就職を希望する学生が58.7%で、前年より2.3ポイント増え、4年ぶりに増加しました。同じ調査で、地元企業を知ったきっかけの1位は「家族や知り合いの勤務先企業の話を聞いたことがある」で44.0%でした。
これは新卒の学生を対象にした調査ですので、中途採用にそのまま当てはめることはできません。ただ、会社を知るきっかけが求人広告ではなく人づての話だった、という点は、中途でも大きくは変わらないはずです。人づてに話が出るには、話せる中身が要ります。給与や休日数は話題になりません。工場で誰が何をしているかは、話題になります。
4. 見学に来た人が見ているのは、設備ではありません
設備の説明に時間を使う会社が多いのですが、来た人が知りたいのは別のところです。
- 働いている人の表情。作業中に交わされる言葉の量と、その口調
- 掃除が行き届いているか。とくに休憩室とお手洗い
- 案内してくれた人が、すれ違う社員とどう挨拶するか
- 質問したときに、はぐらかされずに答えが返ってくるか
4つとも、設備投資は要りません。すでにある会社の姿がそのまま出ます。だから、見学の前に整えるべきなのは工場ではなく、案内の段取りです。誰が案内し、どこを通り、どの社員に声をかけてもらうか。ここを決めておくだけで、伝わる量が変わります。
5. 見学を「行ってみよう」に変える、来る前の5つの手当て
どれも、大きな費用をかけずにできることです。
- つまずく場面と、その受け止め方を見せたものを、地域の家庭に直接届ける。求人サイトに載せるのではなく、探していない人の手元に置く
- 案内に、当日の所要時間と服装と持ち物を具体的に書く。「1時間30分、動きやすい服装、筆記用具のみ」まで書けば、負担の見積もりができます
- 案内役の社員の名前と顔と、その人の入社何年目かを先に出す。当日に会う人が分かっていると、行く決心がつきます
- 見学のあとに何があるかを先に書く。選考に直結しないなら、直結しないとはっきり書く
- 1回で終わらせない。同じ地域に、期間を空けて2度目、3度目を届ける
5つ目がいちばん大切です。探していない人に届けるということは、その人が探し始める日まで覚えていてもらうということです。1回の配布は、その日のためのしるしを置く作業だとお考えください。
6. 大阪市港区の前田機械さまの場合
前田機械さまは、求人サイトに掲載しても応募がありませんでした。ゼロです。条件を上げれば来る、という話ではありませんでした。そもそも、会社の存在が地域に知られていなかったからです。
そこで、工場で働いている場面を採用マンガにして、地域へ配布しました。配布から10日で、見学の応募がありました。そのまま採用に至り、現在は第2弾を継続して運用しています。
注目したいのは、最初に返ってきたのが「応募」ではなく「見学の応募」だったことです。読んだ人は、求人を探していたわけではありませんでした。ポストに入っていたものを読んで、まず見に行ってみようと思われた。見学は、そのあとに置かれていたから機能しました。
7. 会社見学、職場見学、工場見学。呼び方は違っても、設計は同じです
お問い合わせをいただくとき、呼び方は会社によって違います。事務所も含めて見ていただくなら会社見学、現場を中心に見ていただくなら職場見学、製造の工程をご覧いただくなら工場見学。どれも、来ていただく前に何を渡しておくかで結果が変わるという点では同じです。
違いが出るのは、見せる場所ではなく、来る人がその会社をどれだけ知っているかです。まったく知らない状態で来られた方には、当日の1時間で会社の成り立ちから説明することになります。少し知っている状態で来られた方は、最初から現場の話をお聞きになります。同じ1時間でも、残るものがまるで違います。
8. 会社見学の効果と、正直に申し上げるデメリット
効果のほうから申し上げます。
- 求人票では伝わらないものが、その場の数分で伝わります。音、匂い、清潔さ、社員同士の話し方。文章にすると嘘くさくなるものほど、現物は速いです。
- 入る前に働く姿を見た方は、入ったあとの落差が小さくなります。辞める理由の多くは、聞いていた話と違ったという落差から始まります。
- ご家族に説明していただけます。帰り道で家族へ話せる材料を持ち帰っていただけると、反対で止まることが減ります。
デメリットも申し上げます。ここを伏せると、やってみて失望されることになります。
- 手間がかかります。案内役の社員が半日そこに付きます。現場が忙しい月に無理に入れると、迎える側の空氣が来た人に伝わります。
- 見せ方を誤ると逆効果になります。散らかった現場、挨拶のない通路、説明ばかりで質問をさせない進行。これらは求人票では見えなかった減点を、わざわざお見せすることになります。
- すぐには応募になりません。見学は決断の場ではなく、材料をお渡しする場です。その日のうちに数字を求めると、続きません。
9. 面接の前に置きますか、後に置きますか
弊社は、前に置くほうをお勧めしています。面接の後に見学を置くと、見学が「合否の続き」になり、来た方は質問をされません。前に置けば、まだ選考が始まっていないぶん、聞きたいことを聞いていただけます。会社の側も、その質問の中身から、その方が何を氣にしているかが分かります。
ただし、前に置くなら、選考に直結しないことを案内文にはっきり書いてください。書かないと、見学が一次面接だと受け取られ、身構えて来られます。身構えた方からは、質問が出ません。
10. 当日の組み立てで、決めておく4つ
- 所要時間を先に決め、案内文に書く。弊社がお勧めしているのは、移動を含めて1時間30分ほどです。長いほど丁寧というわけではありません。
- 受け入れる人数を絞る。大勢を一度に通すと、質問が出ません。人数が増えるほど、聞きたいことは飲み込まれます。
- 見せる順番を決める。設備から入らず、人から入ってください。誰がどんな顔で働いているかを先に見た方は、そのあとの設備の説明も自分ごととして聞かれます。
- 案内役を役職者だけにしない。入社2年目、3年目の社員が1人入ると、来た方は自分の1年後を見ることができます。
よくあるご質問
Q1. 見学の案内を出すのと、地域へ配るのと、どちらが先ですか。
地域へ配るほうが先です。案内は、届いた人が「行ってみようか」と思ったときの受け皿です。受け皿だけ用意しても、水がなければ溜まりません。
Q2. 工場が古いので、見せられる状態ではありません。
古いことは不利になりません。不利になるのは、散らかっていることと、社員が黙っていることです。この2つは、設備投資なしで今週から変えられます。逆に、新しくてもぴりぴりしている工場は、来た人に伝わります。
Q3. 見学に来られても、その場で応募には至りません。
その場で決めていただく必要はありません。見学の目的は、迷っている段階の人に判断材料を渡すことです。帰り道に家族へ話してもらえたら、それで十分です。前の項目でご紹介したマイナビの調査で1位だった「家族や知り合いの勤務先企業の話」は、そうやって生まれます。
Q4. 何回くらい配れば反応が出ますか。
前田機械さまでは、配布から10日で見学の応募がありました。ただ、これを標準の日数としてお約束することはできません。地域の世帯数、業種、時期で変わります。確かなことは、1回で判断しないことです。1回で止めた場合、その地域に残るのは「見たことがあるような氣がする会社」までで、名前までは残りません。
Q5. 会社見学は、何時間くらいが適切ですか。
弊社は1時間30分ほどをお勧めしています。根拠は統計ではなく、案内役の社員が現場を離れられる長さと、来た方が集中していられる長さの重なりです。長くするより、案内文に所要時間を書いておくことのほうが、申し込みには効きます。人は、終わりの時刻が分からない予定を入れません。
Q6. 職場見学で、見せないほうがよいものはありますか。
見せない場所を作るより、散らかった場所をなくすほうが先です。そのうえで、お客さまの機密に触れる図面や、個人情報の載った書類は伏せてください。伏せるときは、隠さずに「ここはお客さまの図面なので伏せています」とお伝えください。理由を添えれば、不信にはなりません。
Q7. 何人まで受け入れるのがよいですか。
質問が出る人数までです。人数の上限を決めるより、当日に質問が出たかどうかで次回を決めてください。誰も質問しないまま終わった回は、人数が多すぎたか、選考の続きだと思われていたかのどちらかです。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
直近の工場見学で、来られた方を最初に案内したのは、どこでしたか。事務所ですか、工場の入口ですか、それとも休憩室でしたか。
その順番には、御社が何を見てほしいと思っているかが出ます。ご相談のときは、いまお使いの見学案内を1枚お持ちください。
探していない人の日常に、入ってからの不安と、その受け止め方を先に置いています。採用マンガプロジェクトを見る
見学の申し込みは、見学の案内では増えません。増えるのは、来る前を作ったときです。
前田機械さまでお作りしたのは、初日に遅刻した新人の話、説明どおりに行かなかった日の話、納期に追われた日の話の3話です。第3話では、失敗を申し出た新人に先輩がこう返します。「ええ判断や。隠すより100倍マシや」。求職者の方が知りたいのは、制度があるかどうかではなく、そのとき自分がどう扱われるかです。不安はひとつではありませんので、物語をつないでお届けします。
御社の場合はどの不安から描くとよいか、ご相談に乗ります。30分ほどお時間をいただければ、その場で1話目の見当までお出しします。相談してみる
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