
やっと1人採れた。ほっとしたのも束の間、半年もしないうちに退職届が出てくる。また募集をかける。また費用がかかる。その繰り返しに疲れておられませんか。
結論から申しあげます。続かない理由の多くは、入社してからの待遇や指導ではなく、入る前にその会社で働く姿を見せられていなかったことにあります。想像していた日常と実際の日常がずれていれば、人は静かに離れていきます。入る前に働く姿を渡す考え方は、中小企業の採用は働くイメージで決まるという記事にまとめています。
辞める判断は、入社前の情報量で決まっている
求人票に書けることは限られています。給与、勤務地、休日、必要な資格。どれも大事な情報ですが、これらはすべて条件の話です。
一方で、入社してから毎日その人が向き合うのは条件ではありません。朝いちばんに誰と話すのか。失敗したとき、上司はどんな顔をするのか。子どもの発熱で早退したいとき、言い出せる空氣があるのか。5年後、この職場でどんな技術が身についているのか。
こうしたことは求人票に一行も書かれていません。書かれていないまま入社すると、その人は自分の想像で埋めます。そして想像は、たいてい実際より良いか、実際より悪いかのどちらかに外れます。外れた分が、そのまま辞める理由になります。
条件で来た人は、条件で去る
仕事の満足には、二種類の要素があると整理されています。給与や休日、職場の清潔さのように、足りなければ不満になるけれど、満たしても積極的な満足にはなりにくい要素。これが衛生要因です。もうひとつが、任されている実感、認められること、腕が上がっていく手応えといった、動機づけ要因です。
ここが、地方の中小企業にとって残酷な構造をつくります。衛生要因の勝負では、資本力のある大企業に勝てません。給与でも休日数でも福利厚生でも、正面から競れば負けます。
ですから条件だけを前面に出して人を呼ぶと、より条件の良い会社が現れた瞬間に、去っていく理由が生まれてしまいます。責められるべきは辞めた人ではありません。条件しか渡していなかった以上、条件で比べられるのは当然のことです。
勝てる場所は、動機づけ要因のほうです。そしてこちらは、規模の大小とほとんど関係がありません。小さな会社のほうが、任される範囲は広く、手応えは早く返ってきます。
「知る機会がなかった」のは、社外の人だけではない
地元採用について、私たちがいちばん申しあげたいことがあります。地元の人は、会社を知らないのではなく、知る機会がなかったのです。
これは応募の前だけの話ではありません。応募して、面接を受けて、内定を受け取った人でさえ、その会社で働く姿をほとんど知らないまま入社日を迎えます。面接で会えるのは、社長と人事の方くらいです。実際に隣の席に座る人のことは、入社してから初めて知ることになります。
マイナビの新卒調査(2027年卒の大学生・大学院生対象、有効回答2,800名、2026年3月20日から4月5日実施)では、地元での就職を将来的に希望する潜在層に、地元企業を知ったきっかけを尋ねています。最も多かった答えは「家族や知り合いの勤務先企業の話を聞いたことがある」で44.0パーセントでした。求人広告でも会社説明会でもなく、人の口から聞いた働きぶりです。
なお、この調査の対象は新卒の学生です。中途採用の数字ではありませんので、そのまま当てはめることはできません。それでも、働く先の中身は人づての話で伝わっているという事実は、中途採用を考えるうえでも見過ごせないところです。
入る前に、働く姿を渡しておく
やることは難しくありません。順番を変えるだけです。
1.入社後に伝えている内容を、入社前に出す。1日の流れ、繁忙期の乗り切り方、失敗したときの扱われ方。これらを募集の段階で開示します。
2.良いところだけを書かない。しんどい時期があるなら、あると書きます。隠して入ってもらうと、そこで辞められます。先に書いておけば、承知のうえで来てくださった方が残ります。
3.条件表ではなく、物語で渡す。文章の箇条書きは読まれません。誰が、どんな一日を送り、どんなときに嬉しいのかが浮かぶ形にします。私たちがマンガという手段をお勧めしているのは、この「浮かぶ」を作れるからです。
4.一度で終わらせない。人の記憶に残るのは、続いたものだけです。1回配って反応がないことを理由に止めるのが、いちばん多い失敗です。
応募ゼロだった鉄工所が、動いた順番
大阪の前田機械さまは、求人サイトに掲載しても応募がゼロという状態から始まりました。
そこで、募集を強くするのではなく、働く姿を先に届ける順番に切り替えられました。自社の日常を採用マンガにして、地域へ配布されたのです。配布から10日で、見学の応募が入りました。そこから採用に至り、いまは第2弾を継続して運用されています。
大切なのは、この応募が求人サイト経由ではなかったことです。まだ探していなかった人の日常に、先に会社が置かれていた。だから、探し始めたときに候補として立ち上がった。順番の話だとお伝えしているのは、こういう意味です。
すぐに人数の話にしないこと
採用の相談をいただくと、何人採りたいですかという話から始まりがちです。ただ、辞められることに悩んでおられる場合、人数を増やす計画は問題を先送りにします。
先に決めていただきたいのは、御社に入る人が、入社日の朝までに何を知っている状態でいてほしいか、です。そこが決まれば、何を、どんな形で、どこへ届けるかは自然に決まります。
もし今、辞められたことでご自身の育て方を責めておられるなら、原因はもっと手前にあるかもしれません。そんな見方が、どなたかのヒントになれば嬉しいです。
よくある質問
Q1. 待遇を上げないと、定着しないのではありませんか。
待遇の改善はもちろん効きます。ただ、それは足りないときに不満を消す働きで、積極的に残る理由にはなりにくい性質のものです。資本力で競える会社でなければ、任される実感や成長の手応えのほうに軸足を置くほうが現実的です。
Q2. しんどい部分まで出したら、応募が減りませんか。
応募の数は減ることがあります。ただ、減るのは承知していれば来なかった方です。入社後に知って辞めるより、入社前に知って選ばれるほうが、採用にかかる費用も現場の負担も小さくなります。
Q3. 社員数が少なく、写真も資料もありません。
素材がないところから始める会社さまがほとんどです。伺うのは、1日の流れと、印象に残っている出来事を数点だけです。そこから物語の形に起こします。実際に動いた会社の経緯は、前田機械さまの採用マンガプロジェクトの記事にまとめています。
Q4. どれくらい続ければ、変化がわかりますか。
採用や認知は数か月単位で見るものです。1回で判断せず、配る先と回数を決めて続けた会社さまが、結果として先に応募を得ておられます。続けられているかは、運用できているか10項目で確かめるチェックリストで確かめられます。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
直近で辞められた方は、入社日の朝、御社の何を知っておられましたか。
思い出せる範囲でかまいません。そこに空白があるほど、先に渡しておくものが見えてきます。
その定着を、先に実現した現場があります。
参考実績
参考ブログ
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