
「マンガで応募が増えるのですか」。打ち合わせの席で、腕を組んだままそう聞かれることがあります。もっともな疑問です。
先にお答えします。効くのは、条件を伝え直したときではなく、置き場所を変えたときです。求人票を読みやすくしても、読むのはすでに探している方だけです。効き目が出た会社に共通していたのは、まだ探していない方の日常へ、読まれる形のものを届け続けたことでした。
以下、盛った成功談ではなく、応募ゼロから始まった大阪の鉄工所の記録と、国が公表している転職者の調査を並べて、正直にお答えします。採用でつまずく構造そのものは、求人サイトに応募が来ない理由を書いた記事で先に整理しています。
1. 求人サイトの管理画面は、今週も動かなかった
前田機械株式会社さま(大阪市港区)。大型金属の精密切削機械加工の会社さまです。求人サイトに掲載しても、応募はゼロのままでした。採りたいのは現場スタッフ2名と営業1名。30代から40代の転職層に来てほしいのに、入口に人が立たない週が続いていました。
掲載内容が悪かったわけではありません。条件も写真も、同業他社と並べて見劣りするものではありませんでした。それでも動きませんでした。
2. 応募が来ないのは、会社の魅力が足りないからではありません
求人サイトの中は、給与・休日・勤務地という条件の一覧表です。条件は衛生要因と呼ばれ、足りなければ不満になりますが、上積みしても決め手になりにくいものです(ハーズバーグ『The Motivation to Work』1959年)。この土俵では、知名度と体力のある大手が構造的に有利です。
読み飛ばされるのは、会社に魅力が無いからではなく、魅力の見せ場が条件表しか無いからです。給料を上げても応募が来ないという現象が起きるのも、同じ理由からです。
3. 国の調査では、辞めた理由と選んだ理由が逆を向いています
ここは感覚の話ではありません。厚生労働省の雇用動向調査(平成28年・報告書掲載表 第15表)は、転職して入職した方に、前の職場を辞めた理由と、いまの勤め先を選んだ理由の両方をたずねています。原表は千人単位の実数で公表されているため、以下は転職入職者の合計を分母にして弊社が割り戻した計算値です。公表されている比率そのものではありません。
製造業では、辞めた理由は「給料等の収入が少なかった」15.3パーセントが「労働時間・休日等の条件が悪かった」11.8パーセントを上回ります。ところが同じ方々が次を選んだ理由になると、労働時間・休日11.5パーセントに対して賃金8.8パーセントで、順番が入れ替わります。建設業ではこの差がもっと開き、選んだ理由は労働時間12.5パーセントに対して賃金2.6パーセントでした。
さらに、厚生労働省の令和2年転職者実態調査(個人調査・有効回答5,530人・郵送法)では、現在の勤め先を選んだ理由の1位が「仕事の内容・職種に満足がいく」41.0パーセント、2位が「自分の技能・能力が活かせる」36.0パーセントでした。「賃金が高い」は15.1パーセントで、下にあります。
辞める引き金は賃金、選ぶ決め手は仕事の中身。そして仕事の中身は、求人票の職種名の欄には入りきりません。ここが、採用マンガが効く余地の正体です。
4. 転機は、読まれる形と、届く場所を変えたことでした
前田機械さまが変えたのは2つです。
ひとつは形。文字の会社紹介ではなく、工場の日常を採用マンガにしました。新人がどう教わり、どんな瞬間に誇りを感じるのか。上の調査で1位だった「仕事の内容」を、応募の前に手渡せる形に置き換えたことになります。
もうひとつは場所。求人サイトの中で待つのをやめ、通える距離に住む方の郵便受けへ、ポスティングで直接届けました。あわせてハローワークにも展開しています。
社内に戸惑いはありました。「チラシで人が来るんか」という声もありました。それでも配布に踏み切って10日後、工場見学の申し込みという形で最初の応募が届きます。マンガで見た日常を自分の目で確かめたその方は、そのまま採用に至りました。現在は第2弾を継続運用中です。
実績ページ【工場】製造業の採用マンガ事例|応募ゼロから1ヶ月10日で応募獲得求人サイトで応募ゼロだった鉄工所に何が起きたのか。配布10日で届いた最初の応募まで。
正直に申し上げると、この1件だけで方法の優劣は決まりません。地域性も業種もタイミングも重なっています。それでも1つ確かなことがあります。同じ会社が、同じ条件で、届け方を変えただけで応募が発生しました。足りなかったのは条件ではなく、知られていることでした。
5. 効く会社と、効かない会社の違い
ここからが正直な話です。採用マンガは、どんな会社でも自動的に効く道具ではありません。
- 効く会社。知名度は低いが現場に魅力がある。誰に来てほしいかが決まっている。作った後も届け続ける意思がある
- 効かない会社。現場の魅力を言葉にする氣がない。誰でもいいからたくさん、と考えている。1回作って満足してしまう
成果を分けたのは、マンガという物ではなく、誰に・どこで・どう届け続けるかという運用でした。マンガ自体はAIの進化で誰でも作れる時代です。だからこそ、シナリオを社内の本音から設計し、反応を見て改善し続ける部分に価値が残ります。
6. 地元の方は、知らないのではなく、知る機会がなかっただけです
通勤圏に住んでいて、いま別の会社で働いている。数年のうちに転職を考えるかもしれない。そういう方は、御社の近くに必ずおられます。その方が御社の名前を一度も聞いたことがないとしたら、理由は伝え方が下手だからではありません。
地元の方は、御社を知らないのではありません。知る機会が一度もなかっただけです。求人は、いま探している方にしか届きません。探していない方の日常に、先に置いておく。採用マンガという形をとっているのは、絵が上手だからではなく、用がなくても最後まで読んでしまう形が、いまのところこれだからです。
よくあるご質問
Q1. BtoBの地味な業種でも効果はありますか。
地味に見える仕事の中のドラマこそ、マンガの得意分野です。仕事内容が伝わりにくい業種ほど、開示したときの差が大きくなります。転職者実態調査で1位だった「仕事の内容・職種に満足がいく」は、外からいちばん見えにくい項目でもあります。
Q2. 求人サイトに載せているのに応募が来ないのですが。
いま探している方を奪い合う構造の問題です。求人サイトの外におられる潜在的な求職者へ直接届ける方法を、マンガポスティングチラシの記事で解説しています。
Q3. 効果が出るまで、どのくらいかかりますか。
知られている状態を作る仕事は、応募という形ですぐには返ってきません。前田機械さまの例では配布から10日で反応がありましたが、これは早いほうです。1回で止めると、届いた記憶も一緒に消えます。続けている間だけ効いている、と考えたほうが実態に合います。
Q4. 実際より明るく、楽しそうに描いたほうがよいですか。
お勧めしません。入る前に見た姿と、入ってから見た姿の差が、辞める理由のいちばん大きな部分です。実際より明るく見せた分は、入社後にそのまま落差として返ってきます。地味な作業がある職場なら、地味な作業を描いたほうが、残る方が残ります。
Q5. まず何を1つやればよいですか。
御社でいちばん長く働いておられる方に、「この仕事のどこが面白いですか」と聞いてみてください。その答えが求人票のどこにも書かれていないなら、それが最初に外へ出すものです。
危機は、待ってくれません
働き手は減り続け、条件表の中で待つ会社から順に、応募ゼロの週が積み重なっていきます。「うちには来ないだろう」と閉じたままの現場の魅力は、伝えられないまま失われていきます。それが、いま進んでいる危機です。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
いまの求人票で、現場の魅力を言葉にできている行はどれですか。
思い当たらないとお感じでしたら、足りないのは待遇ではなく置き場所です。求人票を1枚お持ちください。
探していない方の日常に、働く姿を先に置いています。採用マンガプロジェクトを見る
御社の日常をマンガという形で開いたとき、それを郵便受けで手にした誰かが、そこで働く自分の姿をはじめて想像します。
採用総まとめ求人を出しても応募が来ない。それでも人が集まる会社になるまで条件でなく、働く姿で選ばれる採用へ。考え方の全体像をまとめたピラー記事。
あわせて読む大手の条件には勝てない? 中小企業の採用は働くイメージで決まる条件は衛生要因。決め手は入社後の毎日が想像できること。
前田機械さまでお作りしたのは、初日に遅刻した新人の話、説明どおりに行かなかった日の話、納期に追われた日の話の3話です。第3話では、失敗を申し出た新人に先輩がこう返します。「ええ判断や。隠すより100倍マシや」。求職者の方が知りたいのは、制度があるかどうかではなく、そのとき自分がどう扱われるかです。不安はひとつではありませんので、物語をつないでお届けします。
御社の場合はどの不安から描くとよいか、ご相談に乗ります。30分ほどお時間をいただければ、その場で1話目の見当までお出しします。相談してみる
