
「同業より高い金額を出しました。休日も増やしました。それでも、求人への応募がありません。あと何を上げればいいのでしょうか」
もう上げなくて大丈夫です。条件は、応募しない理由をなくすものであって、応募する理由にはならないからです。金額で並べた瞬間、御社は大きい会社と同じ表の中に入ります。表の中で勝てるのは、いちばん大きい数字を書ける会社だけです。勝ち方を変えます。
1. 条件は「不満を消すもの」で、「選ぶ理由」ではありません
働く人の満足について、不満を生む要因と、やる氣を生む要因は別物だという整理があります。給与、休日、通勤、職場の設備。これらは足りないと不満になりますが、十分にしたところで「ここで働きたい」にはなりません。不満がゼロになるだけです。
実際、条件だけを見て入った人は、条件だけを見て次へ移ります。より高い数字を書いた求人が出れば、そちらが正解になるからです。条件を上げる競争は、上げ続けないと維持できません。中小企業がこの競争に入ると、体力の差がそのまま結果になります。
一方で「この人たちと働きたい」「この仕事の続きが見たい」という理由で入った人は、数字では動きません。動かす材料が、そもそも数字ではないからです。
2. 金額を書いた瞬間、比較表の中に入ります
求人サイトは、比較するための道具です。地域、職種、給与でしぼり込み、並んだ一覧を上から見る。この作りは求職者にとって親切で、だからこそ、載せた会社は自動的に横並びの1行になります。
1行の中で伝えられるのは、金額と休日数と勤務地だけです。社長がどんな人か、朝の作業場がどんな音をしているか、失敗したときに誰がどう助けてくれるか。この会社を選ぶ理由になりうるものは、1行に入りません。
ですから、条件を上げる工夫は「表の中での順位を1つ上げる工夫」にしかなりません。順位を争うのではなく、表に載る前に思い出してもらう。ここに切り替えます。
3. 地元の人は、会社を知らないのではなく、知る機会がなかった
いちばん申し上げたいのは、ここです。
御社を知らない地元の人は、御社に興味がないのではありません。知る機会が一度もなかっただけです。工場や作業場は、道路から中が見えません。看板には社名しか書いていません。取引は法人向けで、近所の人がお客さまになることもない。何一つ悪いことはしていないのに、伝わる回路がないのです。
そして求人は、いま探している人にしか届きません。探していない人には、どれだけ条件を良くしても1文字も届きません。ところが、地元で採用できる可能性がいちばん高いのは、その探していない人たちです。子どもが小学校に上がった人。片道1時間の通勤に疲れている人。3年目に入って、このままでいいのかと考え始めた人。この人たちは、今月の求人サイトを開いていません。半年後には開くかもしれません。
やることは1つです。探し始める日より先に、その人の日常へ会社を置いておく。
4. 知るきっかけは、広告ではなく人づての話でした
マイナビの2027年卒の調査(調査期間は2026年3月20日から4月5日、有効回答2,800人)では、地元就職を希望する学生が58.7%で、前年より2.3ポイント増え、4年ぶりに増加しました。同じ調査で、地元企業を知ったきっかけの1位は「家族や知り合いの勤務先企業の話を聞いたことがある」で44.0%でした。
これは新卒の学生を対象にした調査ですので、中途採用にそのまま当てはめることはできません。ただ、会社を知るきっかけが求人広告ではなく人づての話だった、という点は、中途でも大きくは変わらないはずです。
ここで大事なのは、人づてに話が出るには、話せる中身が要るということです。「あそこ、給料が2万円高いらしいよ」は、家庭の食卓で話題になりません。「あそこの工場、機械の音がすごいけど、みんな笑いながら仕事してるらしい」は話題になります。話題になる中身を持っているかどうかが、回路の有無を決めます。
5. 金額を上げる前にできる、5つの手当て
どれも、大きな費用をかけずにできることです。
- 働く一日を、場面で見せたものを作る。良い会社ですと書くのではなく、朝の準備から片づけまでを順に見せる
- それを求人サイトではなく、地域の家庭に直接届ける。探していない人の手元に置く
- 金額ではなく、人を出す。誰が教えてくれるのか、何年目の人がどんな顔で働いているのかを具体的に見せる
- 働きにくい事情への答えを先に書く。子どもの発熱で早退できるのか、有給は実際に取れているのか。良く見せるのではなく、実際のところを書く
- 1回で終わらせない。同じ地域に、期間を空けて2度目、3度目を届ける
5つ目がいちばん大切です。探していない人に届けるということは、その人が探し始める日まで覚えていてもらうということです。1回の配布は、その日のためのしるしを置く作業だとお考えください。
6. 大阪市港区の前田機械さまの場合
前田機械さまは、求人サイトに掲載しても応募がありませんでした。ゼロです。条件を上げれば来る、という話ではありませんでした。そもそも、会社の存在が地域に知られていなかったからです。
そこで、工場で働いている場面を採用マンガにして、地域へ配布しました。配布から10日で、見学の応募がありました。そのまま採用に至り、現在は第2弾を継続して運用しています。
順番にご注目ください。金額を上げてから応募が来たのではありません。存在を知っていただいてから、応募が来ています。条件は最後に見られるものであって、最初に見られるものではありませんでした。
よくあるご質問
Q1. 給与が同業より低い場合は、どうしようもないのでは。
低いままで良いとは申しません。ただ、低いことが理由で落ちているのか、そもそも見られていないのかは、別の問題です。応募がゼロに近い場合、原因はたいてい後者です。まず、見られているかどうかを確かめてください。
Q2. 条件を書かないほうが良いということですか。
いいえ。条件は正確に書いてください。隠すと、面接での信頼を失います。申し上げているのは、条件で選ばせる前に、会社を知る機会を作るという順番のことです。
Q3. 地域に配っても、働ける年齢の人に届くとは限りません。
そのとおりです。ただ、届いた先で読まれた話は、家庭の中で移動します。マイナビの新卒調査で1位だった「家族や知り合いの勤務先企業の話」は、そうやって生まれます。読んだ人が働く本人である必要は、必ずしもありません。
Q4. どのくらいで反応が出ますか。
前田機械さまでは、配布から10日で見学の応募がありました。ただ、これを標準の日数としてお約束することはできません。地域の世帯数、業種、時期で変わります。確かなのは、1回で判断しないことです。1回で止めた場合、その地域に残るのは「見たことがあるような氣がする会社」までで、名前までは残りません。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
いまの求人票を、金額と休日数と勤務地を隠した状態で読んだとして、御社だと分かる一文はありますか。
その一文が、条件の外で選ばれる理由です。ご相談のときは、いまお使いの求人票を1枚そのままお持ちください。
探していない人の日常に、働く一日を先に置いています。採用マンガプロジェクトを見る
条件を上げると、順位は上がります。ただ、思い出してもらえるのは、条件の外にあるものです。
参考実績
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