
「出展は決まりました。案内状も作って、名刺交換した先へ一斉に送りました。それでも当日、こちらから声をかけた人しかブースに来ません。事前集客というのは、ほかに何をすればいいのでしょうか」
送るものを増やすことではありません。当日その場で会う約束を、開催前に何件取れているかがすべてです。案内状は約束を取るための材料であって、送った時点では何も決まっていません。ここを分けて考えないかぎり、事前集客は毎回「送って終わり」になります。
以下、公表されている調査と、弊社が実際に立ち会った現場の記録を分けて並べます。
1. 来場者が回るのは、1日に十数社です
まず、来場者の側の事情から申し上げます。
産業機械の展示会情報サイト、アペルザの来場者調査(有効回答413名)では、来場者が1回の来場で訪問するブースは平均17社でした。会場に何百社が並んでいても、1人の来場者が入る区画は17前後です。
つまり事前集客とは、通路を歩く人を増やす作業ではありません。誰かの17枠のうち1つを、開催前に押さえておく作業です。当日その場で選ばれるのを待つと、御社は数百分の1になります。先に約束が入っていれば、17分の1になります。
同じ調査で、ブースを訪問したあとに検討を始めた人は56.6パーセントいます。来ていただけさえすれば、その先は動きます。動かないのは、来ていただく前の段階です。
2. 案内状の反応が薄いのは、送る相手を絞っていないからです
案内状を一斉に送る形は、いちばん手数が少なく、いちばん反応が薄い方法です。理由は単純で、受け取った側に「自分に来た」と思わせる要素が1つもないからです。
ここは数を捨ててください。過去の名刺が800枚あるなら、送る先は800件でかまいませんが、返事を取りにいく先は30件で十分です。その30件は、次の条件で選びます。
- 去年か一昨年、実際に会話をした相手であること。交換しただけの名刺は外す
- その会社の中で、予算か仕様のどちらかに触れる立場であること
- 会期の3日間、その相手が会場のある街にいる見込みがあること
この30件へは、一斉配信とは別に、1通ずつ書いてください。書く中身は御社の新製品ではなく、前回その方と何を話したかです。人は、自分が話したことを覚えている相手にだけ返事を書きます。
3. 開催前にやることは、3つだけです
準備物を増やすより、次の3つが埋まっているかを見てください。
- 当日の何日目の何時に、どなたと会うかが決まっている件数。目標は10件。1日3組で足ります
- その相手に、当日その場で見せる物が決まっていること。資料ではなく、動くものか、触れるものか、絵で筋が追えるもの
- 会期後、誰が何日以内に連絡するかが、出発前に決まっていること
1番目が0件のまま当日を迎える出展が、いまでもかなりあります。その場合、初日の午前は必ず立ち上がりが遅くなります。最初の1組が入っているブースと、誰も入っていないブースでは、通路から見える温度がまるで違うからです。誰がブースに立つかを決めるのと同じくらい、最初の1組を先に置いておくことが効きます。
4. 開催前に名前を知られているかどうかが、会うかどうかを分けます
日経リサーチがBtoBの購買プロセスについて行った調査(有効回答2,132名、2020年5月)では、新規の取引先を検討から外す理由の第1位が「会社の知名度」でした。価格の妥当性と同率です。営業と会うかどうかを決めるときにも、知名度は2番目に挙がっています。
この調査はコロナ禍の第1波の最中に行われたものですので、そのまま今日の数字として扱うことはしません。ただ、示している向きははっきりしています。知られていない会社は、検討の土俵に上がる前に落ちます。
関連して、才流が行った発注担当者の調査(有効回答600名、2024年11月)では、92.8パーセントが1年以内に発注しています。検討期間は思われているほど長くありません。だからこそ、検討が始まってから追いかけるのではなく、始まる前に名前が入っている必要があります。事前集客とは、この「先に入っておく」作業の、いちばん濃い3日間ぶんです。
5. 事前・当日・会期後を1つの流れで組んだ現場の記録
弊社が伴走した株式会社美華道さまの記録を、そのままお伝えします。床面サインの特殊施工「スマートシグナル」を扱う会社さまです。
第2回鉄道技術展・大阪2026(2026年5月27日から29日、インテックス大阪)で記録された数字が次のとおりです。
- アンケート回収459件。前回出展の関西物流展の約12.8倍
- 前向きな反応164件、率にして35.7パーセント
- 会期中に出た見積依頼19件
- 対話した相手の75.5パーセントが、JRや上場大手などの大企業層
正直に申し上げると、この結果を事前集客だけの手柄にはできません。同じ回でブースの作り方も、当日の迎え方も、自社マスコットの使い方も変えています。
それでも1つだけ確かなことがあります。4番目の75.5パーセントという内訳は、当日たまたま通りかかった方を数えて出る数字ではありません。会いたい相手を先に決めていたから、この内訳になりました。誰に来てほしいかを決めないまま出展すると、集まった459件が誰の459件なのかが分からなくなります。
弊社は、フランスのJAPAN EXPO等のマンガ関連イベントに計11回出展してまいりました。言葉が通じない会場で毎回思い知らされたのは、当日その場の勢いだけで人は動かないということです。前に置いたものと、当日起きたことと、帰ってからの連絡が、1本につながっているときだけ動きます。どの展示会に出るかを決める段階から、この3つはひとつづきの設計です。
よくあるご質問
Q1. 事前のアポイントは、何日前から取ればよいですか。
3週間前から動き始め、1週間前に確認の連絡を入れてください。1か月以上前だと相手の予定がまだ立っておらず、1週間を切ると会場周辺の予定がすでに埋まります。確認の連絡では、日時のほかに、当日どのあたりの通路かを一言添えてください。会場で迷った時点で、その約束は流れます。
Q2. 招待券を配れば、事前集客になりますか。
入場のきっかけにはなりますが、御社のブースに来る理由にはなりません。招待券は「会場に来てください」という案内であって、「御社と会ってください」という約束ではないからです。券を送るなら、必ず日時の相談を同じ便に入れてください。
Q3. 既存のお客さまも呼ぶべきですか。
呼んでください。新規だけを追う出展より、結果として数字が安定します。既存のお客さまは会場で足を止めてくださるので、通路から見たときにブースが動いて見えます。加えて、その方が別の担当部署の方を連れてこられることがあります。
Q4. 送る文面には、何を書けばよいですか。
新製品の説明は要りません。前回その方と話した内容を1行、当日その場でお見せするものを1行、会える時間の候補を2つ。この3行で足ります。長い案内文は、社内の稟議には通りますが、相手の返信率は上げません。
Q5. 事前集客をしても、当日その相手が来なかった場合はどうしますか。
会期中に一度だけ短い連絡を入れ、それでも来られなければ追いません。代わりに、会期後1週間以内に別の形でお会いする日をご提案ください。展示会は会う口実の1つであって、唯一の機会ではありません。約束が流れたこと自体は失敗ではなく、その相手が動くかどうかが分かった、と受け取るほうが正確です。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
次の出展の初日、午前10時に御社のブースへ来られる方のお名前を、いま挙げられますか。
挙げられるお名前を書いた紙を1枚、ご相談のときにお持ちください。1つも書けないことのほうが、はるかに多いはずです。
展示会での実際の取り組みをご覧いただけます。展示会マンガの事例を見る
事前集客とは、案内状を送ることではありません。開催前に、当日会う約束を何件持っているかです。
参考ブログ
参考実績


