
やっと採用できた方でした。面接では前向きで、初日も緊張しながら「よろしくお願いします」と頭を下げてくれた。ところが2か月ほど経ったある朝、「少しお話があります」と声をかけられる。「すみません、辞めさせてください」。理由をうかがっても、「自分には合わなかったので」としか返ってこない。せっかく来てくれた方が、何も言わないまま離れていく。採用の担当を任されて、そんな朝を経験したことはありませんか。
「新入社員の早期離職は、どうすれば防げるのでしょうか」
答えは、入社してからの3か月に「困ったら、誰に、どう言えばいいか」が見える場面を、入る前から渡しておくことです。早く辞めてしまう方の多くは、仕事そのものが嫌になったのではありません。困ったことを口に出せないまま、ひとりで抱えて、ある日それが限界を超えるのです。辞めると告げる朝は、本人の中では、何週間も前から始まっています。
以下、入社してからの3か月に何が起きているか、新しく入った方が口に出せない不安、よくある手当てが届かない理由、相談できる場面を先に渡す考え方、弊社のやり方、今週できる3つ、の順に書きます。
1. 入社してからの3か月に、何が起きているか
会社の側から見ると、入社後の3か月は「覚えてもらう期間」です。けれども入った方の側では、この期間に、外からは見えない出来事が積み重なっています。
- 初めての作業で手が止まる。道具の場所、段取り、言葉の意味。分からないことが一日に何度も起きます。
- 聞くタイミングを逃す。先輩は忙しそうで、さっき聞いたばかりのことをもう一度聞くのは申し訳ない。そう思って、黙って手探りで進めます。
- 小さな失敗をする。叱られなくても、「自分は向いていないのでは」という思いが一つ残ります。
- 同期や友人と比べる。ほかの会社に入った友人の話を聞くと、自分だけがうまくいっていないように感じます。
どれも、ひとつひとつは小さな出来事です。けれども誰にも言えないまま積み重なると、ある日「ここにいても、この先が見えない」という一言に変わります。会社が手を打てるのは、2番の「聞けない」をなくすところです。
2. 新しく入った方は、こんなことを口に出せずにいます
辞める理由がはっきりしないのは、本人にも言葉にしにくいからです。よくあるのは次の5つです。
- 同じことを2回聞いたら、覚えが悪いと思われないか。
- 研修で習ったことと、現場のやり方が違う。どちらに合わせればいいのか、誰に確かめればいいのか。
- 経験が浅いことで、きつく当たられないか。
- 納期に追われて、教えてもらう余裕のある人がいないのではないか。
- すぐに一人前になれなかったら、居づらくなるのではないか。
この5つは、入社の前に抱いていた不安と、ほとんど同じです。入る前に答えてもらえなかった不安が、入ったあとに形を変えて残っているのです。内定から入社までの不安に先に答えておくことが、入社後の離職を防ぐ土台にもなるのはこのためです。
3. よくある手当てが、届きにくい理由
早期離職を防ごうとして、多くの会社がされていることがあります。どれも大切ですが、それだけでは届きにくいのです。
- 面談の回数を増やす。上司との面談は安心につながります。ただ、評価をする立場の方に「同じことを何度も聞いてしまう」とは打ち明けにくいものです。
- 何でも聞いてね、と伝える。言葉はありがたいのですが、何をどこまで聞いてよいのかが分からないと、結局は聞けません。
- 教育係を決める。良い仕組みです。けれども教育係の方も自分の仕事を抱えていて、忙しそうな背中に声をかけるのは、新しく入った方にとって大きな一歩です。
届きにくいのは、どれも「聞いていいよ」と伝える手だからです。新しく入った方が知りたいのは、聞いていいかどうかより、聞いたらどうなるかです。
4. 相談できる場面を、入る前から渡しておく
おすすめするのは、御社の「入ってからの3か月」を、場面として1本持っておくことです。うまくいく日ではなく、困った日の場面です。
- 手が止まった日の場面。道具の場所が分からず立ち止まったとき、先輩が隣で「左の棚、3段目やで」と教えてくれる。
- 聞いていた話と違った日の場面。戸惑っていると、上司が「一緒に考えようや」と受け止めてくれる。
- 失敗した日の場面。ミスを自分から申し出たとき、「ええ判断や。隠すより100倍マシや」と返してもらえる。
この3つは、大阪市港区の前田機械さまの採用マンガに、実際に描かれている場面です。入る前にこの場面を読んでいた方は、手が止まったとき「ここでは聞いていいんだ」と思い出せます。聞いたらどうなるかを、すでに知っているからです。
そしてこの場面は、入社してからも働き続けます。迎える側の先輩の皆さまにとっても、「新しく入った方に、こう声をかける会社なのだ」という約束になるからです。場面があると、教える側と教わる側が、同じ絵を思い浮かべて動けます。
5. 前・中・後で、入社してからの3か月を設計します
入社後の3か月を、覚えてもらう期間ではなく、物語の続きを一緒に作る期間に変えます。
前 募集の前に、困った日の場面を地域へ届ける
募集を始める前に、働く一日の物語を、ポスティングや地域の催し、SNSで先に届けます。応募してくださる方が、困った日に何が起きるかを知っている状態をつくります。地元の方は、会社を知らないのではなく、知る機会がなかっただけです。
中 入社の初日に、物語の登場人物と会っていただく
入社された方には、物語に出てきた立場の先輩の方を、初日に紹介します。「マンガで読んだ、あの場面の人です」と言えるだけで、最初の一言をかける壁が低くなります。
後 入って1年の方に、次の物語の語り手になっていただく
入社して1年ほど経った方に、「入って最初の3か月で困ったこと」と「そのとき誰に助けてもらったか」をうかがいます。それが翌年の物語の種になります。去年助けてもらった方が、今年は迎える側として物語に登場します。こうして、物語は1回で終わらず、2期目、3期目へと続いていきます。
6. 弊社がしていること
弊社は、マンガで「入ってからの毎日」を見える形にし、それを前・中・後に届け続けるプロジェクトを運用しています。
マンガを使うのは、条件の表では伝わらない場面が伝わるからです。読む方はその場面の中に自分を置き、そこで働く自分の姿を想像します。作る過程では、社員の皆さまに、困った日のことや、そのとき助けてもらったことを語っていただきます。迎える側の皆さまも、入ってくる方も主体的に関わる形になるので、納得して選んでいただけ、入ってからも続けやすくなります。
前田機械さまは、求人サイトに掲載しても応募がゼロの状態から、採用マンガをポスティングチラシとして地域に配布されました。配布から10日で見学の応募が入り、採用に至っています。1回で終わらせず、現在は第2弾を一緒に続けて運用しています(前田機械さまの事例)。
アイケイケイさまでは、5名ほどの参加を見込んでいた説明会に、28名の方が参加されました。前と後を比べた倍率ではなく、事前の見込みと、実際に来られた数の差です。
どちらも、条件を良くしたことが理由ではありません。入ってからの姿を知っていただく機会を選考の前から作り、その後も続けたことが違いでした。
7. 今週できる3つ
- この数年で早く辞めた方を思い出し、辞めると告げられる前の数週間に、その方から相談を受けたことがあったかを確かめます。無かったなら、そこが最初に手を入れる場所です。
- 入社1年目から3年目の社員の方に、「入って最初の3か月で、聞きたかったのに聞けなかったこと」を1つだけうかがいます。それが、最初に描く場面になります。
- 次に入社される方がいれば、初日の予定に「困ったときに最初に声をかける人」と、その人に声をかけた場面を1つ、具体的に添えてお伝えします。
よくあるご質問
Q1. 早期離職は、なぜ起きるのですか。
多くは、仕事が嫌になったからではありません。困ったことを口に出せないまま、ひとりで抱え込み、それが積み重なって「この先が見えない」に変わるからです。困ったときに誰にどう言えばいいかが見えていれば、抱え込む前に相談できます。
Q2. 面談を増やせば、離職は減りますか。
面談は大切です。ただ、評価をする立場の方には打ち明けにくい不安もあります。面談の回数を増やすより、「聞いたらどうなるか」が見える場面を先に渡しておくほうが、日々の小さな困りごとに届きます。
Q3. 教育係を決めるだけでは、足りませんか。
教育係は良い仕組みです。足りないとすれば、声をかけてよい場面が見えていないことです。教育係の方と新しく入った方が、同じ場面を思い浮かべられるようにしておくと、仕組みがよく回ります。
Q4. 中途採用の方にも、同じ考え方が使えますか。
使えます。経験のある方ほど「こんなことも知らないのか」と思われるのを恐れて、聞けなくなることがあります。前の会社とやり方が違う場面で、どう聞けばいいかを先に見せておくと安心につながります(中途採用がうまくいかない理由)。
Q5. 小さな会社でも、物語を作れますか。
作れます。先輩が隣で教えてくれる場面、失敗を受け止めてもらえる場面は、会社の大きさに関係なく描けます。むしろ社員の皆さまの顔が見える規模の会社ほど、場面に説得力が出ます。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
いま入社して3か月以内の方は、作業の途中で手が止まったとき、誰に、どう声をかければいいかを知っているでしょうか。
すぐに答えられないなら、面談の回数を増やすより先に、困った日の場面を1つ、言葉にするところから始めてみてください。
入ってからの毎日を描く物語づくりから、地域への届け方、入社された方の3か月、そして入社1年の方を翌年の語り手へつなぐところまでを、プロジェクトとして運用しています。採用マンガプロジェクトを見る
早く辞めてしまう方が続いている事情をお聞かせいただければ、御社の場合はどの場面から描くとよいか、ご一緒に考えます。30分の面談を予約する
参考ブログ
参考ブログ
早期離職は、辞めると告げる朝に始まるのではなく、困ったことを口に出せなかった日から始まります。地元の方は、御社を知らないのではなく、知る機会がなかっただけです。困った日の場面を1本持ち、募集の前から、入社して1年が経つまで、続けて届けていってください。


