
「社員紹介の制度を作りました。紹介してくれたら報奨金も出します。それなのに、1件も上がってきません。うちの社員は、会社が嫌いなのでしょうか」
嫌いだからではありません。紹介できる言葉を、まだ渡していないからです。社員は会社のことを知っていますが、それを社外の人に話せる形では持っていません。制度は紹介の入口を作るだけで、話す中身までは作ってくれません。
1. 制度を作っても、紹介は起きません
社員紹介の制度は、たいてい同じ形をしています。紹介してくれたら報奨金を出す、入社が決まったら追加で出す。ここまでは1日で作れます。作った翌月、社内は静かなままです。
理由は単純です。制度は「紹介したくなった人が使う道具」であって、「紹介したい氣持ちを作る道具」ではないからです。道具だけ置いても、使う場面が来ません。
もう1つあります。紹介とは、社員が自分の信用を貸す行為です。声をかけた相手が入社して、話と違ったと言われたら、傷つくのは紹介した社員です。報奨金の金額では、その不安は消えません。
2. 社員が黙っているのは、悪意ではありません
社員に「うちの会社って、どんな会社?」と聞いてみてください。多くの場合、返ってくるのは職種と勤務地と年数です。「金属の加工をしています」「入って6年です」。悪くはありませんが、これを友人に話しても、友人の暮らしは1ミリも動きません。
本当は、話せる中身を持っています。新人が3か月で1人立ちできる教え方があること。子どもの発熱で早退しても、誰も嫌な顔をしないこと。夏場の現場をしのぐために、去年から入れた設備があること。どれも社外の人にとっては珍しい話です。ただ、社員本人にとっては当たり前すぎて、話す価値のあるものだと思えていません。
ここが分かれ目です。社員は会社を語れないのではなく、語ってよい中身がどれなのかを知らされていません。
3. 地元の人は、会社を知らないのではなく、知る機会がなかった
いちばん申し上げたいのは、ここです。
社員の家族も、その友人も、御社に興味がないのではありません。知る機会が一度もなかっただけです。工場や作業場は道路から中が見えません。看板には社名しか書いていません。取引は法人向けで、近所の人がお客さまになることもない。何一つ悪いことはしていないのに、伝わる回路がないのです。
そして求人は、いま探している人にしか届きません。社員の友人のうち、今月まさに転職先を探している人は、ごくわずかです。ところが半年後、1年後には探し始める人がいます。その日より先に、会社の姿をその人の日常に置いておく。これができるのは、求人票ではなく社員です。地元の人に会社を知ってもらう方法については、別の記事にも書きました。
4. 会社を知るきっかけの1位は、人づての話でした
マイナビの2027年卒の調査(調査期間は2026年3月20日から4月5日、有効回答2,800人)では、地元企業を知ったきっかけの1位が「家族や知り合いの勤務先企業の話を聞いたことがある」で44.0%でした。同じ調査で、地元就職を希望する学生は58.7%、前年より2.3ポイント増えて4年ぶりの増加でした。
これは新卒の学生を対象にした調査ですので、中途採用にそのまま当てはめることはできません。ただ、会社を知るきっかけが広告ではなく人づての話だった、という点は、中途でも大きくは変わらないはずです。
つまり社員紹介は、制度である前に、いちばん多くの人が会社を知る回路そのものです。回路はすでにあります。流すものが無いだけです。
5. 報奨金を上げる前にできる、5つの手当て
どれも、大きな費用をかけずにできることです。
- 働く一日を、場面で見せたものを作る。良い会社ですと書くのではなく、朝の準備から片づけまでを順に見せる
- その中で、社外に話してよいことと、話してはいけないことを社員にはっきり伝える。線が見えないと、人は黙るほうを選ぶ
- 社員が手で渡せる形にする。画面の中のものは渡せません。紙にして、鞄に入る大きさにする
- 紹介した社員が責任を負わない道をつくる。見学だけで帰ってよい、選考に進まなくてよい、と先に決めておく
- 1回で終わらせない。半年後にもう1度、社員の手元に新しい話を渡す
3つ目を軽く見ないでください。社員が友人に会うのは、飲み会や子どもの行事の場です。その場で開けるのは、URLではなく紙です。渡せる形にした瞬間、はじめて紹介という行為が具体的な動作になります。
6. 大阪市港区の前田機械さまの場合
前田機械さまは、求人サイトに掲載しても応募がありませんでした。ゼロです。条件の問題ではなく、会社の存在が地域に知られていなかったからです。
そこで、工場で働いている場面を採用マンガにして、地域へ配布しました。配布から10日で、見学の応募がありました。そのまま採用に至り、現在は第2弾を継続して運用しています。
この配布物は、社員が手で渡せるものでもあります。求人票は人に手渡せませんが、働く場面が描いてあるものは手渡せます。工場見学が効く会社と効かない会社の違いも、結局は同じところにあります。来る前に知る機会があったかどうかです。
よくあるご質問
Q1. 報奨金の額が低いから紹介されないのでは。
額が理由で紹介が止まっている例は、あまり見かけません。紹介は、金額よりも先に「あの人に声をかけて大丈夫か」という判断を通ります。そこを越えないかぎり、額は検討の対象にすらなりません。
Q2. 社員に紹介をお願いすると、押しつけになりませんか。
紹介を成果として求めると、押しつけになります。お願いするのは紹介ではなく、渡すことだけにしてください。渡した先で何も起きなくても構わない、と先に伝えておくと、社員は動きやすくなります。
Q3. 社員が少ない会社でも意味がありますか。
あります。むしろ人数が少ないほど、1人あたりの交友関係の重みが大きくなります。10人の会社でも、その先には数百人の暮らしがあります。
Q4. どのくらいで反応が出ますか。
前田機械さまでは、配布から10日で見学の応募がありました。ただ、これを標準の日数としてお約束することはできません。地域の世帯数、業種、時期で変わります。確かなのは、1回で判断しないことです。1回で止めた場合、社員の手元に残るのは「前に何か配っていたような氣がする」までで、話せる中身にはなりません。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
御社の社員が、友人に会社のことを話すとして、いちばん最初に出てくる一文は何だとお思いですか。
その一文が、いま社外へ流れている御社の姿です。ご相談のときは、思い当たる一文をそのままお持ちください。
社員が手で渡せる形にして、探していない人の日常へ置いています。採用マンガプロジェクトを見る
紹介は、制度が起こすものではありません。話せる中身を渡された社員が起こします。
参考実績
参考ブログ
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