
「採用のパンフレットを作りました。写真も入れて、社長のあいさつも入れて、それなりの費用もかけました。ところが、いまだに半分以上が段ボールに入ったまま事務所に積んであります。合同説明会で配って、ハローワークさんに置いていただいて、そこで終わってしまいました。何を載せれば、もっと読まれるものになるのでしょうか」
会社案内は、たいていよくできています。写真も文章も整っています。それでも応募が来ない。足りないのは、まず渡す相手を絞れているかどうかです。どこで、どなたにお渡しするかを先に決めると、載せるものは自ずと決まります。
以下、製造業のお客さまと採用の紙ものを作ってきて分かったことを、順に並べます。
1. 段ボールに残るのは、中身が悪いからではありません
事務所に残っているパンフレットを開いてみると、たいてい、よくできています。設備の写真もきれいですし、文章も整っています。問題は中身ではなく、作る前に「何部を、どこへ、どなたが、いつ渡すか」を決めていなかったことです。
印刷は1回の買い物に見えます。けれども配布は、毎週続く仕事です。ここを分けて考えていないと、刷り上がった日が終わりの日になります。
2. 渡す先が決まると、形も決まります
ポスティングでお届けするなら、開かなくても伝わる1枚です。郵便受けの前で、表を見た数秒で決まります。
合同説明会でお渡しするなら、持ち帰って読める複数の物語のマンガです。会場では読まれません。読まれるのは、帰りの電車と、ご自宅の食卓です。
同じ中身でも、渡す場所が違えば形は変わります。1冊で兼ねようとすると、どちらにも届きません。
3. では、何を描くのか。働く一日ではありません
採用の紙ものでよく勧められるのは、朝の出社から終業までを並べた「働く一日」です。弊社も以前はそう申し上げていました。いまは違います。
理由は2つあります。ひとつは、どこもやっていることです。知られている状態を作るところで差がつくのに、求人サイトにも採用サイトにも1日の流れの欄があり、そこでは差がつきません。もうひとつは、良い日ばかりが並ぶことです。求職者の方が知りたいのは、うまくいった日ではありません。うまくいかなかった日に、何が起きるかです。
描くのは、働くにあたっての不安の先取りです。
4. 未経験の方が抱えておられる、5つの不安
とくに未経験からお越しになる方は、次のような点を氣にしておられます。
上司から説明されたことに無かったことが起こったとき、どうすればよいのか。
研修などで、ちゃんと教えてもらえるのか。
納期で追い立てられないだろうか。
経験不足をいいことに、きつく当たられないだろうか。
やってみて、すぐに結果が出なかったときはどうなるのか。
これを、その場面ごとマンガで見せてしまいます。制度の説明ではありません。そのとき現場で何と言われるか、を見せます。求職者の方が知りたいのは、制度があるかどうかではなく、そのとき自分がどう扱われるかだからです。
5. 応募ゼロの鉄工所は、不安を1話ずつ描きました
大阪市港区の前田機械株式会社さまは、大型金属の精密切削機械加工をされています。求人サイトに掲載しても応募がゼロ、という状態から始まりました。
お作りしたのは、未経験の新人が主人公の連載です。表紙の帯には「異業種・未経験歓迎!」と入れました。誰に読んでいただく紙かを、1行目で決めています。
第1話「遅刻!でも…なんか優しい」。初日から遅刻した新人に、先輩はこう返します。「まあ来たんやからええわ」。工具の場所が分からず立ち尽くすと、「左の棚、3段目やで」と声が飛びます。
第2話「できない…でも諦めない!」。始まりは「あれ…?説明と全然ちがう…」です。説明どおりに行かない場面を、いちばん最初のコマに置きました。先輩は「ほう、どこで詰まった?」と聞き、「うちは相談できる職人さんがたくさんいるので聞きやすいよ」「一緒に考えようや」と続きます。
第3話「納期って…こんなにプレッシャーなの!?」。精度0.03ミリの加工で1.0ミリずれます。「どうしよう、時間が…!」となったところで、新人が申し出ます。「正直に言います。精度が出なくて…」。先輩の返事は「ええ判断や。隠すより100倍マシや」でした。
この3話を、ポスティングチラシとして地域へ配布し、あわせてハローワークにも展開しました。配布から10日で見学のお申し込みが入り、その後、採用に至っています。現在は第2弾を継続して運用しておられます。
6. なぜ、この形だと動いたのか
渡す相手を先に決めたことです。未経験・異業種から移ろうとしておられる方に絞り、帯に明記しました。絞ると、載せるものが決まります。
良い日ではなく、悪い日を描いたことです。遅刻、失敗、納期遅れ。どれも、応募をためらわせている当の場面です。そこを避けた紙は、読んでも不安が減りません。
会社の返し方を、人の言葉で見せたことです。「風通しが良い」と書く代わりに、「隠すより100倍マシや」というセリフを置きました。形容詞は比べられますが、セリフは比べられません。
1話で終わらせなかったことです。不安はひとつではありませんし、一面的でもありません。だから物語をつないでいきます。
7. 不安の解消は、そのまま志望動機になります
入ってからのマイナス面が想像できて、なおかつそこが解消される様子まで見えている。これは求職者の方にとって大きな安心材料です。そして安心は、そのまま「ここで働きたい」に変わります。
中途採用の方にも同じことが言えます。転職を考えておられる以上、前職に何かしらの不満があるはずです。その不満の解消という意味では、未経験の方と構造は変わりません。
Q1. 何ページくらいが適切でしょうか。
渡す先によります。郵便受けに入れるなら、開かなくても伝わる1枚か2つ折りです。説明会でお渡しするなら、持ち帰って読める複数話のマンガです。同じ中身でも、形は分けてください。
Q2. 写真とイラスト、どちらがよいのでしょうか。
設備と製品は写真が向いています。不安の場面は、絵のほうが読まれます。うまくいっていない場面を写真でお願いするのは、現場の方にご負担がかかります。顔出しのご負担が要らないという利点もあります。
Q3. 社長のあいさつは載せるべきですか。
載せてよいのですが、1ページ目には置かないでください。読まれる順番は、現場の場面が先で、経営の考えが後です。順番を入れ替えるだけで、最後まで読まれる率が変わります。
Q4. 悪い場面を載せて、印象が悪くなりませんか。
悪い場面で終われば、そうなります。不安の先取りは、場面と、そこでの返し方を対にして見せる形です。失敗を描くのは、失敗しても大丈夫だと示すためです。隠した紙のほうが、かえって疑われます。
Q5. 作ったあと、どれくらいで結果が出ますか。
1回で出るものではありません。前田機械さまは配布から10日で最初の応募がありましたが、いま第2弾を運用しておられるのは、続けることが前提だからです。1回配って反応を見る、という進め方はお勧めしません。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
御社に未経験の方が入られたとして、その方が最初につまずくのは、どの場面でしょうか。
その場面が浮かんだのでしたら、次に作るものの1話目は、もう決まっています。浮かばないようでしたら、そのことをご相談のときにお聞かせください。現場の方に3つだけ伺えば、たいてい出てきます。
作って終わりではなく、配り続けるところまでを一本の線にしています。採用マンガプロジェクトを見る
御社の場合はどの不安から描くとよいか、ご相談に乗ります。30分ほどお時間をいただければ、その場で1話目の見当までお出しします。相談してみる
読まれないのは、中身のせいではありません。渡す相手を決める前に、中身から決めてしまったからです。
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