
春が近づくと、去年の求人票を開いて日付と時給だけを書き換え、同じ求人サイトに出し直す。応募は去年と同じように少なく、面接に来た方も入社の前に辞退してしまう。担当の方が替わった年には、去年どこに何を出したのかさえ分からない。採用のたびに、毎年同じところで苦戦していませんか。
「中小企業の採用で、毎年苦戦するのはなぜなのでしょうか」
毎年苦戦する会社に多いのは、採用を毎年ゼロから始めているという形です。採用を「その年の募集」として扱い、募集が終わると発信も止まり、去年やったことが次の年に何も残らない。だから毎年、知られていないところから始まります。去年の分を次の年に積み上げる形に変えると、2年目から苦戦の中身が変わります。
以下、毎年苦戦する会社に多い3つの形と、積み上がらないと苦戦が続く理由、そして去年の分を2期目・3期目へつないでいく形のつくり方までを書きます。
1. 毎年苦戦する会社に多い3つの形
ここに挙げるのは、どこかの会社を責めるための話ではありません。人手が足りず、目の前の募集で手一杯の会社ほど、いつの間にかこの形になっています。
- 求人票を毎年使い回している。仕事内容と条件の欄は去年のまま、日付だけが新しくなります。読む側から見ると、どの年に出された求人なのか、会社の何が変わったのかが分かりません。
- 担当の方が替わると、採用が途切れる。どの媒体で何件の応募があったか、面接で何を聞かれたか、なぜ辞退されたかが、担当の方の頭の中にしか残っていない形です。
- 募集の時期だけ発信して、終わると止める。求人を出している数週間だけ会社の名前が外に出て、それ以外の10か月は、地域の誰の目にも会社の姿が触れません。
3つは別々の問題に見えますが、根は同じです。採用が、その年かぎりの取り組みになっていて、次の年へ何も手渡されていないのです。中小企業の採用が難しい原因でも書きましたが、苦戦の多くは、条件の差より先に「知られていない」ところから始まっています。
2. 毎年ゼロからだと、なぜ苦戦が続くのか
求人は、いま仕事を探している方にしか届きません。そして、仕事を探し始めた方がまず思い浮かべるのは、すでに名前を知っている会社です。
地元の人は、会社を知らないのではなく、知る機会がなかった。近くに長く工場を構えていても、そこで誰がどんな顔で働いているのかを知る機会は、地域の方にはほとんどありません。募集の時期だけ名前を出しても、その数週間に仕事を探していなかった方には、会社の姿は残らないままです。
地元で働きたいという方は、少なくありません。マイナビの新卒調査(2027年卒の大学生、n=2,800、2026年3月20日〜4月5日)では、地元(Uターンを含む)で働きたいと答えた方が58.7%で、前年から2.3ポイント増え、4年ぶりに増えました。新卒の方を対象にした調査なので、中途の方にそのまま当てはまる数字ではありませんが、近くで働きたい方がいても、その方が会社を知る機会がなければ、応募にはつながりません。
知ってもらうには、回数と間が要ります。学習の研究では、同じ内容を一度にまとめて学ぶより、間をあけて繰り返し触れたほうが記憶に残ることが知られています(Cepeda ほか 2006年、184本の論文をまとめた分析。採用の場面をそのまま測った数字ではありません)。毎年ゼロから数週間だけ出す形は、ちょうどその逆になっています。
3. 求職者の不安は、毎年同じところにある
では、積み上げるとは、何を積み上げるのでしょうか。手がかりは、応募する方の不安です。
研修で、ちゃんと教えてもらえるだろうか。説明に無かったことが起きたとき、誰に聞けばいいのだろうか。納期に追われて、毎日ぎりぎりにならないだろうか。先輩に、きつく当たられないだろうか。すぐに結果を出せなかったとき、どう見られるのだろうか。
この不安は、年が替わってもほとんど変わりません。去年応募をためらった方と、今年ためらう方は、同じところで足を止めています。だからこそ、一度その不安に答える物語を作れば、それは次の年にも、その次の年にも使える、会社の財産になります。
たとえば、入社2週目の新人の方が、教わった手順を忘れて機械の前で手が止まったとします。言い出せずに立ちつくしていると、隣の先輩が「さっきのとこな、わしも最初は3回聞いたわ。もう一回いこか」と声を掛ける。応募する方が入る前に知りたいのは、こういう場面です。求人票の「丁寧に指導します」の一行では、この場面は伝わりません。
4. 去年の分を、次の年に積み上げる形
弊社が採用でお手伝いしているのは、この不安に答える物語を、毎年使い捨てにせず、会社に積み上げていく形をつくることです。そのための手段として、マンガを使います。マンガは場面を描けるので、求人票に書けない入社直後の戸惑いと、そこで掛けられた一言を、そのまま物語にできます。そして、マンガは社員の方と一緒に作ります。
- 1期目は、入社して間もない社員の方に、入る前にいちばん心配だったことと、入ってすぐ助けられた一言をうかがい、その話を物語にします。
- できあがった物語を、求人の窓口だけでなく、まだ仕事を探していない方の目にも触れる地域へ届けます。配った先と時期、問い合わせや見学の動きを記録して、次の年に手渡せる形で残します。
- 2期目は、1期目の物語を読んで入った方に、今度は語る側に回っていただきます。「自分が入る前は、ここが不安だった」という声が、次の年の物語の芯になります。
話をうかがう中で、社員の方が自分たちの会社のよさを言葉にし始めます。物語づくりが、社員の方にとっても自分たちの会社を語る取り組みになり、読む側の方にとっては、入ったあとの自分を実感を持って思い描ける物語になります。みんなが主体的に関わるので、できあがった物語に納得がある。これが、弊社がマンガ×体験価値と呼んでいるものです。
担当の方が替わっても、物語と記録は会社に残ります。採用が、担当の方ひとりの頭の中から、会社に積み重なっていく取り組みに変わります。
5. 応募ゼロから、2期目へ続いている例
大阪市港区の前田機械さまは、大型の金属部品の精密な切削加工を手がける会社です。求人サイトに掲載しても応募がゼロという状態からのご相談でした。
一緒に作った採用マンガは、うまくいった日ではなく、困った日を描いています。初日に遅刻してしまった新人に「まあ来たんやからええわ」と受けとめる場面、「説明と全然ちがう…」と戸惑う場面に「一緒に考えようや」と応える場面。入る前の不安に、先輩の一言で先に答える形です。
このマンガをポスティングチラシとして会社の周りの地域へ配布し、あわせてハローワークにも展開しました。配布から10日で見学のお申し込みが入り、その後、採用に至っています。そして前田機械さまは、1回で終わらせず、いまも採用マンガの第2弾を継続して運用しておられます。
6. 2期目・3期目で、苦戦の中身はどう変わるか
続けていくと、変わるのは応募の数だけではありません。
- 1年目は、会社を知ってもらうところから始まります。地域の方にとっては、初めて会社の中の顔が見える年です。
- 2年目は、去年の物語を覚えている方がいる状態から始まります。去年の記録があるので、どこに、いつ届ければよいかも、最初から分かっています。
- 3年目には、物語の中の先輩に、実際に1期目で入った方が加わります。応募する方にとっては、自分の少し先を歩く人の姿として、より身近に映ります。
弊社は、マンガを1冊作って納めるのではなく、プロジェクトとして運用しています。配る前には、どの方にどの道筋で届けるかを一緒に決めます。配っている間は、問い合わせや見学の動きを見ます。配った後は、見学から入社、入社後の定着までをつなぎ、その声を次の物語に生かします。採用できたのに定着しない理由で書いた入社後のつまずきも、次の物語で先に答えていけます。2期目・3期目と話を重ねていく、長く続くお付き合いとして一緒に進めています。
よくある質問
Q1. 毎年苦戦するのは、うちの条件が大きな会社に負けているからではありませんか。
条件の差があるのは確かです。ただ、条件の欄で大きな会社と毎年競っても、差は埋まりません。苦戦が毎年続く会社では、条件より先に、そもそも地域の方に会社の姿が知られていないことが多くあります。知ってもらう取り組みは、条件と違って、年を重ねるほど積み上がります。
Q2. 去年の求人票を使い回すのは、いけないことですか。
使い回すこと自体が悪いのではありません。問題は、去年の応募の数や辞退の理由を見直さないまま、同じものを出し直すことです。去年どこで足を止められたのかを記録しておくと、今年どこを変えればよいかが見えてきます。
Q3. 担当者が替わっても、採用を続けるにはどうすればよいですか。
担当の方の頭の中にあることを、会社に残る形にしておくことです。どこに何を出し、何件の反応があり、面接で何を聞かれたか。そして、応募する方の不安に答える物語そのものを会社の財産として持っておけば、担当の方が替わっても、次の方がそこから始められます。
Q4. 採用マンガは、1回作れば十分ではありませんか。
1回目の物語は、何年も使える財産になります。ただ、続けると、1期目の物語を読んで入った方が2期目の語り手になり、物語が会社の今の姿に近づいていきます。前田機械さまも、第2弾を継続して運用しておられます。
Q5. まず何から始めればよいですか。
去年の採用で、応募や問い合わせがどこから何件あり、どこで辞退されたかを、1枚の紙に書き出してみてください。そのうえで、入社して間もない社員の方に「入る前に、いちばん心配だったことは何でしたか」と聞いてみてください。その答えが、来年の採用を去年の続きから始めるための、最初の一行になります。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
御社の去年の採用は、今年の採用に、何を手渡しているでしょうか。
もし何も残っていないのだとしたら、今年が、積み上げる1年目になります。
社員の方と一緒に、入る前の不安に先に答えるマンガを作り、地域の家庭や求人の窓口へ届け、2期目・3期目へつないでいくところまで運用しています。採用マンガプロジェクトを見る
御社の場合はどうか、一度お話をうかがうこともできます。30分の面談を予約する
毎年の採用の苦戦は、条件の差より先に、去年の分が今年に残っていないところから始まります。
