
「パートの募集を、もう半年出し続けています。時給も近隣に合わせて上げました。それでも応募が一件も来ません。この辺りには、もう働ける方が残っていないのでしょうか」
残っておられます。応募がないのは働ける方がいないからではなく、通える範囲に住んでおられる方の頭の中に、御社の名前が入っていないからです。パートの募集は、相手が最初から「その会社まで通える距離に住んでいる人」に限られます。その狭い範囲で名前が通っているかどうかが、時給よりも先に効きます。
以下、パートの募集が正社員の募集とどこで違うのかを分けたうえで、公表されている調査と、弊社が実際に伴走した現場の記録を並べます。
1. パートの募集は、相手の人数が最初から決まっています
正社員の募集であれば、転居を伴う応募がありえます。県外から来る方もおられます。募集の相手は、理屈のうえでは日本中に広がっています。
パートの募集は違います。通勤時間が、動かせない条件の筆頭に来ます。自転車で十五分、車で二十分。その範囲の外に住んでおられる方は、条件を見る前に候補から外れます。子どもの送り迎えや家族の予定と、勤務時間を組み合わせる必要があるからです。
つまり御社が呼びかけている相手は、日本中の求職者ではありません。半径数キロの中に住んでおられる、限られた人数の方です。この前提を置くと、話がひとつ変わります。限られた人数の中で名前を知られていない会社は、募集を出しても選ばれる場所にすら立てていません。母数が小さいほど、知られていることの比重が上がります。
2. 探しはじめる時期が、予定して来ません
パートを探しはじめる理由は、たいてい会社の都合とは無関係に起こります。
- 子どもが小学校に上がり、日中の時間が空いた
- 家族の介護が一段落した、あるいは形が変わった
- 家計の見通しが変わった
- 前の勤め先の勤務時間が変わり、続けられなくなった
どれも、その方の生活の中で急に始まります。そして探す期間は長くありません。求人サイトを開き、勤務地で絞り込み、通えるところを数件見て決める。ここまでが数日で終わります。
この数日の中で、初めて名前を見た会社に応募する判断は、なかなか起きません。何をしている会社かを一から調べるより、名前を知っている会社を先に見るほうが早いからです。募集を出すという行為は、この数日の中で思い出してもらう作業であって、記憶に入れる作業ではありません。記憶に入れる仕事は、その何か月も前に済んでいる必要があります。
3. 時給を上げる方向は、いちばん不利な土俵です
応募が来ないとき、最初に検討されるのは時給です。近隣の相場を調べ、数十円上げる。ここを動かせば応募が増えるはずだ、という考え方は自然です。
ただ、時給は比較される項目です。比較の土俵に上がった瞬間、並ぶ相手は同じ地域の中小企業だけではなくなります。全国に店舗を持つ小売、大手の物流倉庫、名前を知られている飲食チェーン。同じ表の中に、同じ数字として並びます。給料を上げても応募が来ないという現象が起きるのは、上げるほど資本の大きい相手と同じ土俵に乗るからです。
一方で、知られていることは比較されません。「あそこなら知っている」という状態は、他社と並べて優劣をつける対象になりません。中小企業が持てる強みは、比較されない側にあります。
4. 未経験の方がいちばん知りたいのは、時給ではありません
もうひとつ、パートの募集に特有の事情があります。仕事の中身が、外から見て想像できないという問題です。
製造、加工、倉庫、検査。求人票に書かれた職種名を読んでも、未経験の方には、自分がその日に何をするのかが分かりません。分からないまま応募すると、面接で困るのは自分です。だから応募しません。
この方が知りたいのは、次のようなことです。
- 重いものを持つのか。立ちっぱなしなのか、座っているのか
- 一人で黙々と進めるのか、誰かと組んで進めるのか
- 子どもの急な熱で早退するとき、どう言えばよいのか
- 覚えることがどのくらいあり、誰が教えてくれるのか
- 同じような立場の方が、ほかにおられるのか
これらは条件欄には書かれていません。書こうとしても、箇条書きにした途端に嘘くさくなります。「アットホームな職場です」と書いても、その一行では何も伝わりません。伝わるのは、働いている場面そのものです。
5. 知られ方の中身について、公表されている調査から
マイナビが2027年卒業予定の学生を対象に行った調査(有効回答2,800名、2026年3月20日から4月5日)では、地元で働きたいと答えた学生が58.7パーセントでした。前年より2.3ポイント増え、4年ぶりの増加です。同じ調査で、地元企業を知ったきっかけの第1位は「家族や知り合いの勤務先企業の話を聞いたことがある」で、44.0パーセントでした。
この調査は新卒の大学生・大学院生を対象にしたものですので、パートの募集にそのまま当てはめることはできません。年齢も、探し方も、働く目的も違います。それでも1位の中身は考える材料になります。求人媒体でも、会社のウェブサイトでもなく、日常の会話から知られています。そして日常の会話は、パートを探しておられる方のほうが、むしろ濃くなります。同じ地域に住み、同じ学校に子どもを通わせ、同じ店で買い物をしておられるからです。
地元の方は、御社を知らないのではありません。知る機会が一度もなかっただけです。この違いは大きく、打つ手がまるで変わります。知らないのだと考えると、伝え方を工夫する方向へ進みます。機会がなかったのだと考えると、機会そのものを作る方向へ進みます。
6. 応募がゼロだった会社が、配布から10日で見学の申し込みを受けた記録
弊社が伴走した前田機械株式会社さま(大阪市港区)の記録を、そのままお伝えします。
金属加工の会社さまです。求人サイトに掲載しても応募がゼロという状態が続いていました。掲載内容が悪かったわけではありません。条件も、写真も、同業他社と並べて見劣りするものではありませんでした。
そこで、求人票を直すのではなく、置き場所を変えました。未経験の方がつまずく場面と、そのとき現場でかけられた言葉をマンガにして、周辺地域へ配布しました。結果として、配布から10日で工場見学の申し込みが入り、そのまま採用に至っています。現在は第2弾を継続して運用中です。
正直に申し上げると、この1件だけで方法の優劣は決まりません。募集されていたのはパートではありませんし、地域性も業種もタイミングも重なっています。それでも1つ確かなことがあります。同じ会社が、同じ条件のまま、届け方を変えただけで応募が発生しました。足りなかったのは条件ではなく、知られていることでした。
7. まだ探していない時期に、どこへ置くか
通える範囲に住んでおられる方へ届けるための置き場所は、求人媒体の中ではありません。まだ探していない時期に、その方の生活が通る場所です。
- 家のポスト。本人が読まなくても、家族が読んで話題にします
- 子どもが持ち帰る紙。保護者は必ず目を通します
- 待合室と受付。歯科、理容室、自動車整備工場。滞在時間があり、手持ちぶさたな場所です
- 地元の催し。市民祭、商店街の行事、防災の集まり
- 取引先や近隣の会社の休憩室。同じ地域で働く方の家族へ、まわっていきます
置き場所を変えるとき、置くものも変わります。求人票は、探している人が読むために作られた書式です。探していない方の手元では、目を通される前に紙として処理されます。地元の人に会社を知ってもらうには、読まれる形のものを置く必要があります。
弊社が採用マンガという形をとっているのは、絵が上手だからではありません。探していない方が、用がなくても最後まで読んでしまう形が、いまのところこれだからです。読み終わったあとに残るのは時給ではなく、その会社で人が働いている場面です。しかもパートの募集では、その場面が「自分にもできそうかどうか」の判断材料そのものになります。
よくあるご質問
Q1. 求人媒体を止めて、配布に切り替えたほうがよいですか。
止めないでください。役割が違います。求人媒体は、いま探しておられる方に見つけてもらうための場所です。配布は、まだ探しておられない方の記憶に入るための手段です。片方だけでは、探しはじめた数日の中で思い出してもらえません。両方が要ります。
Q2. パート募集で、どのくらいの範囲に配ればよいですか。
まず御社の現在のパート従業員の方が、どこから通っておられるかを地図に落としてみてください。実際に通える範囲は、想像より狭いことがほとんどです。その範囲を確かめてから配る先を決めると、無駄が出ません。範囲を広げるより、同じ範囲へ繰り返し届けるほうが効きます。
Q3. 実際より楽しそうに見せたほうが、応募は増えませんか。
お勧めしません。入る前に見た姿と、入ってから見た姿の差が、辞める理由のいちばん大きな部分です。パートは正社員より辞めることの心理的な負担が軽く、差が出た時点で静かに離れていかれます。地味な作業がある職場なら、地味な作業を描いたほうが、残る方が残ります。
Q4. 何をしているか分からない、という問題は写真では解決しませんか。
一部は解決します。ただ写真は、その一瞬しか写りません。未経験の方が知りたいのは、朝来てから帰るまでの流れと、困ったときに誰へ聞くのかという関係のほうです。順番と関係は、写真より物語の形のほうが伝わります。
Q5. まず何を1つやればよいですか。
いま働いておられるパートの方に、「この仕事のことを、ご家族にどう説明しておられますか」と聞いてみてください。その言葉が、いちばん近い相手へ届いた実例です。説明できる言葉をお持ちでない場合、地域の方が知る機会は、いまのところどこにもありません。そこが出発点になります。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
御社から自転車で十五分の場所に住んでおられる方が、御社の名前を聞いたとして、何をしている会社か答えられるでしょうか。
答えられないとお感じでしたら、そのことをご相談のときにお聞かせください。募集の書き方を変える話ではなく、機会を作る話から始めます。
探していない方の日常に、働く姿を先に置いています。採用マンガプロジェクトを見る
パートの応募が来ないのは、働ける方がいないからではありません。探しはじめた数日の中に、御社の名前がなかったからです。
前田機械さまでお作りしたのは、初日に遅刻した新人の話、説明どおりに行かなかった日の話、納期に追われた日の話の3話です。第3話では、失敗を申し出た新人に先輩がこう返します。「ええ判断や。隠すより100倍マシや」。求職者の方が知りたいのは、制度があるかどうかではなく、そのとき自分がどう扱われるかです。不安はひとつではありませんので、物語をつないでお届けします。
御社の場合はどの不安から描くとよいか、ご相談に乗ります。30分ほどお時間をいただければ、その場で1話目の見当までお出しします。相談してみる
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