
「予算はひとつ。マンガにするか、動画にするか」
結論から申し上げます。動きと音そのものが中身なら動画、相手のペースで立ち止まって読んでほしいならマンガです。分かれ目は、伝えたい中身が時間の流れに乗っているかどうか。機械が動く様子や現場の音は、絵では運べません。反対に、人の迷いや決めるまでの心の動きは、読み手が自分の速さでたどれる紙面のほうが残ります。
ただ、この問いには先があります。どちらを選んでも、物語がなければ結果は変わりません。順に見ていきます。
1. 「どちらが効果的か」に、研究はまだ白黒をつけていない
アニメーションと静止画のどちらが伝わるかは、教育心理学の分野で長く比較されてきました。Berney と Bétrancourt が2016年に発表したメタ分析(Computers & Education 101号)は、61本の研究、のべ7,036人、140の比較をまとめたものです。
結果は、アニメーションがわずかに優位(効果量 g=0.226)。ただし「小さい」と評価される大きさです。内訳を見るほうが実務には役立ちます。
- アニメーションが有意に勝ったのは30.7%
- 静止画が有意に勝ったのは10%
- そして、有意な差が出なかったのが59.3%
6割は引き分けです。つまり「動画のほうが伝わる」も「マンガのほうが伝わる」も、形式そのものから出てくる結論ではありません。なお、これは学習課題での比較であり、そのまま「だから売れる」とは言えません。判断材料の一つとしてご覧ください。
2. 同じ研究が教える、本当の分かれ目
この研究がおもしろいのは、条件によって差が大きく動くことです。
説明を画面の文字で足したときの効果量は g=0.105 で、統計的に意味のある差になりませんでした。ところが同じ説明を音声ナレーションに逃がすと g=0.336 まで上がります。文字を一切添えない場合は g=0.883 と、はっきりした差になりました。
読み替えるとこうなります。動画を選ぶなら、説明を画面の文字で足してはいけません。人は動く絵を追いながら文字を読むことができないからです。
もう一つ、同じ論文はアニメーションの弱点を明記しています。一過性(transience)です。流れて消える。戻れない。理解が追いつかなかった相手は、その場で置き去りになります。
3. マンガが向いているのは、相手が「戻れる」ほうがよいとき
紙面の強みは、速度の主導権が読み手にあることです。
- 手元に残る。会議の机に置いておける
- 読み返せる。分からなかったコマに戻れる
- 音を出せない場所で読める。展示会の通路、通勤電車、休憩室
- 回覧できる。転送の手間なく、そのまま次の人へ渡せる
とくに稟議のように複数人が順に目を通す場面では、この「渡せる」が効きます。動画のURLは、二人目でだいたい止まります。
展示会での実感とも合います。アペルザの調査(n=413)では、来場者は1日に平均17社のブースを訪問し、持ち帰られた資料の94.9%は保管されません。その一方で、ブースを訪れた後に56.6%が検討を開始しています。残る資料かどうかで、その後が変わります。
4. 動画が向いているのは、動きと音が中身そのもののとき
正直に申し上げます。次のような中身は、マンガでは運べません。
- 機械や工程が動く様子。速さ、なめらかさ、順番
- 施工や作業の手順。手の動きそのものが情報になるもの
- 声のトーンや現場の空氣。人の話し方に説得力があるとき
- 広さ、高さ、規模。空間を移動して初めて分かるもの
この4つに当てはまるなら、迷わず動画です。マンガに置き換えると情報が落ちます。
ただし置き場所は選んでください。Metaの自社調査では、モバイルのフィードで広告が見られる平均時間は1.7秒、デスクトップで2.5秒とされています。これはSNSのフィード限定の数字で、展示会や商談の場には当てはまりません。それでも、通りすがりに置いた動画がどう扱われるかの目安にはなります。
5. 選ぶときの順番
形式から決めると迷います。次の順で決めると、答えは自然に出ます。
- 渡す相手と場面を先に決める。誰の机の上に、どんな顔で置かれるのかを言葉にする
- その場で音が出せるかを確認する。出せないなら動画は半分の力になる
- 中身が時間の流れに乗っているかを見る。乗っているなら動画、心の動きならマンガ
- 1回で終わるのか、続けるのかを決める。続けるなら、作りやすさが効いてくる
- 予算を半分ずつに割らない。中途半端が二つできるだけです
この5つは紙とペンで決められます。制作会社に相談する前に、社内で先に決めておくほど、見積もりの精度が上がります。
6. どちらを選んでも変わらない、たったひとつのこと
形式より先にある差は、物語があるかどうかです。
心理学者のBowerとClarkが1969年に行った実験では、単語をばらばらに覚えた群の再生率が13%だったのに対し、それらを物語につないで覚えた群は93%でした。順番と因果がある形にすると、人は思い出せるようになります。
もう一つ。Cepedaらが2006年にまとめた分散効果のメタ分析(184論文・254研究・のべ14,811人)では、まとめて1回学んだ場合の成績が36.7%、間隔をあけて複数回に分けた場合が47.3%でした。記憶の研究であって購買の研究ではありませんが、一度きりの発信で覚えてもらおうとするのが不利であることは示しています。一度きりの発信で終わらせない連載の考え方も、あわせてご覧ください。
アイ・ケイ・ケイホールディングスさまの新卒採用マンガは、「やりがい」「成長」という言葉ではなく、若い社員がITの力で結婚式の新しいかたちを生む姿を描いたものです。学生が読むのは説明ではなく、先輩の姿に自分を重ねる時間になりました。5名ほどの見込みで開かれた説明会に、28名の学生が参加されています。
形式を先に決めていたら、この結果にはなりませんでした。決めたのは、誰に何を感じてほしいのかのほうです。
7. マンガと動画を、両方使うとき
予算が許すなら、役割を分けて組み合わせる形が一番きれいに働きます。
- マンガで、なぜこの仕事をしているのかを渡す。手元に残す役
- 動画で、実際に動いている現場を見せる。臨場感の役
- 入口はどちらか一方に絞る。二つ同時に差し出すと、相手はどちらも見ません
数十秒のショートアニメで掴んでから読ませる組み立ては、この分担の一例です。マンガの世界観をそのまま動かせるので、二度作らずに済みます。
よくあるご質問
Q1. 予算が限られています。どちらから始めるべきですか。
渡す相手と場面が決まっていないなら、マンガからをおすすめします。用途を後から変えやすいからです。同じ絵を、展示会の配布物にも、採用ページにも、会社案内にも回せます。動画は用途を先に固定しないと作り直しになります。
Q2. マンガを動画にすることはできますか。
できます。コマの絵を活かして、数十秒のショートアニメにする形が一般的です。逆に、動画からマンガを起こすのは手戻りが大きくなります。順番としてはマンガが先です。
Q3. 「動画のほうが今っぽい」と社内で言われます。
新しさは、相手の記憶には残りません。Berney と Bétrancourt のメタ分析でも、6割の比較では有意な差が出ませんでした。決め手は形式ではなく、相手が自分の話だと思えるかどうかです。社内の説得材料としては、渡す相手と場面を先に一枚の紙にまとめるほうが早く進みます。
Q4. 何ページ、何秒が適量ですか。
マンガは、その場で読み切れる4ページから8ページが扱いやすい単位です。動画は、置き場所によって変わります。ブースのモニターなら音が聞こえない前提で30秒前後、商談で一緒に見るなら2分程度まで持ちます。いずれも「最後まで見てもらう」より「途中で離れても意味が通る」順番に組んでください。
Q5. 効果はどう測ればいいですか。
再生回数やページビューは、伝わったかどうかを測っていません。展示会なら、その場で何を話したかを言える名刺の枚数。採用なら、説明会や見学の申し込み数。営業なら、次の打ち合わせが決まった件数です。形式の良し悪しではなく、相手が一歩動いたかで測ります。
8. 決めるのは、形式ではなく渡し方
マンガと動画は、対立していません。止まって読ませるか、流れて観せるか。相手が置かれている場面が、答えを先に持っています。
迷ったときは、こう考えてみてください。その人は、それを誰かに渡しますか。渡すなら、渡せる形にする。それだけのことです。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
直近で作られた会社紹介の素材を思い浮かべてください。それは、受け取った方がそのまま誰かに手渡せる形になっていますか。それとも、その場で見て終わる形でしょうか。
答えがすぐに出ないなら、決め直すのは形式ではありません。いま社内でお使いの動画のURLと、紙の資料を1つずつお持ちください。どちらをどの場面に置くと働くのかを、その場で並べて仕分けします。
マンガと動画を、どの場面でどう使い分けたのかは実績にまとめています。実績を見る
渡し方から決めた会社が、どうなったか。
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