
カテゴリ:連載マンガ
渾身のパンフレットが刷り上がった日、社内は少し誇らしい空氣でした。展示会で配り、取引先にも送り、反応も悪くなかった。——それから三か月。名刺を差し出すと、相手は「どこかで聞いた氣がします」と言う。
一度きりの発信が残らないのは、内容の質が低いからではありません。記憶に残るかどうかを決めているのは、一回の強さではなく「間をあけて何度会ったか」だからです。
一度に強く当てるより、間をあけて何度も
記憶の研究に、半世紀くり返し確かめられてきた「分散効果」という現象があります。Cepeda らが2006年に184本の論文・254件の研究をまとめたメタ分析(対象 N=14,811)では、学習量が同じでも、まとめて一度に触れた場合の再生率は36.7%、間隔をあけて複数回に分けた場合は47.3%でした。271の比較のうち、効果がない・逆効果だったのはわずか12件です。
ただしこれは言語記憶の実験であって、「だからマンガを連載すれば売れる」という話ではありません。ここから言えることは一つだけです。思い出してもらえる状態をつくるには、一発の大きさより、間隔をあけた複数回のほうが有利だということ。パンフレットが忘れられたのは、出来が悪かったからではなく、一度しか会わなかったからでした。
ただし、出せば出すほど好かれるわけではない
では回数を増やせばいいのか、というと、そう単純でもありません。Montoya らが2017年に81本の論文・268本の曲線を再検証したところ、接触の回数と好意度の関係は右肩上がりではなく、途中から下がる逆U字を描きました。同じものを浴びせ続ければ、どこかで飽きられるということです。
だから必要なのは「同じ発信のくり返し」ではありません。毎回少しずつ違う話でありながら、同じ人物・同じ世界に戻ってくる形——つまり「続きもの」です。
押しかける接触から、待ってもらう接触へ
一度きりの発信は、こちらから届けにいくしかありません。連載は違います。前回の終わり方が気になっている相手は、次を自分から探します。同じ「何度も会う」でも、送りつけられる回数と、待たれている回数では、受け取られ方がまるで違います。
ここで主語になるのは自社ではなく、読み手です。自社が何を言いたいかではなく、読み手が次に何を知りたいかで一話の終わりを決める。連載が続くかどうかは、その一点にかかっています。
「毎月そんなにネタが続くのか」という不安
連載をご提案したとき、最初に返ってくる言葉はたいていこれです。「うちには漫画になるような特別な出来事はありません」。
けれど実際に読まれるのは、大きな事件ではなく、現場の当たり前のほうです。朝の点呼、配車の段取り、新人がはじめて一人で任された日、ベテランが黙って直していた癖。社内では平凡でも、外の人にとっては一度も見たことのない景色です。題材が尽きるのではなく、身近すぎて見えていないだけ、というほうが正確でした。
13話、続いています
株式会社阪神商事さまとは、4コマ連載「翔と美咲の運送エブリデイ!」をご一緒しています。現在第13話まで公開中です。前田機械さまでも、採用マンガの第2弾が続いています。
一話ごとの派手さより、途切れずに続いていること自体が効いてきます。続いている会社は、見ている人にとって「ちゃんとやっている会社」に見える。それは広告費では買えない種類の信頼です。
1話目で、続きを読む理由をつくる
連載でいちばん難しいのは、実は最初の1話です。ここで「面白い」「次が気になる」と思ってもらえなければ、2話目は開かれません。逆にここさえ越えれば、あとは積み上がっていきます。
1話目に会社の沿革や商品一覧を詰め込みたくなりますが、それは読み手が知りたい順番ではありません。最初に置くのは、読み手が「これはうちの話だ」と感じる場面のほうです。
御社の「第2話」を、まだ誰も待っていない
いま名前を思い出してもらえていないのは、発信の量が足りないからではなく、続きがないからかもしれません。そしてこの状態は、放っておくかぎり来月も再来月も同じように続きます。競合が先に「続きもの」を始めれば、待たれる位置はそちらに移ります。
御社の現場にも、外の人がまだ見たことのない日常が毎日あります。それを一話ずつ届けはじめるのに、特別な出来事が起きるのを待つ必要はありません。
よくあるご質問
Q. 連載は何話くらいから始めればよいですか
まずは数話分の流れを決めてから始めることをおすすめしています。1話ごとに考えると、続きが気になる終わり方をつくりにくくなるためです。
Q. どれくらい続ければ効果が出ますか
積み上げ型なので、数か月単位で見るのが現実的です。ただし回数を増やせば増やすほど良いわけではないことは、上の逆U字のとおりです。同じ話のくり返しにならない設計のほうが大切になります。
Q. 途中でネタが尽きませんか
自社の日常・お客さまの困りごと・商品の裏側など、題材は身近に無数にあります。大きな話でなくてかまいません。小さなエピソードのほうが、かえって読まれます。
Q. 掲載する場所はどこがよいですか
自社サイト・SNS・社内報・営業資料など、すでに接点のある場所から始めるのが確実です。新しい媒体を増やすより、いま見てもらえている場所に「続き」を置くほうが早く効きます。
Q. 社内に登場人物のモデルは必要ですか
実在の社員の方をそのままキャラクターにする必要はありません。現場の役割や場面をもとにした架空の人物のほうが長く続けやすく、異動や退職があっても物語が止まりません。
その「続き」を、13話ぶん重ねてきた会社があります。
次回(月曜7時)は採用の話をお届けします。


