
カテゴリ:採用
昼休みの休憩室。缶コーヒーを片手に、工場長がぽつりと言う。「今月も、ゼロやったわ」。求人サイトの掲載料は毎月引き落とされていく。管理画面の閲覧数は動いているのに、応募のボタンだけが押されない。大阪の鉄工所・前田機械さまの採用は、そんな沈黙から始まりました。
沈黙の正体は、会社の魅力不足ではない
求人サイトの中で目立てる枠は限られ、上位に出るには広告費が要ります。しかも並ぶのは給与・休日・勤務地という条件の表。心理学者ハーズバーグが『The Motivation to Work』(1959年)で示したとおり、条件は「衛生要因」——足りなければ不満になるが、上積みしても意欲や応募の決め手にはなりにくい要素です。条件の一覧表の中で、中小製造業が大手より目立つことは、構造的にほとんどありません。閲覧されても応募されないのは、会社に魅力が無いからではなく、魅力を見せる場所が条件表しか無かったからです。
転機——土俵を「全国」から「通える距離」へ
前田機械さまが選んだのは、求人サイトの露出を増やすことではありませんでした。現場スタッフ2名と営業1名。採りたいのは30〜40代の転職層。それなら届けるべき相手は全国ではなく、工場に通える距離に住む人たちです。工場の日常——どんな人が働き、新人がどう教わり、どこに誇りがあるのか——を採用マンガにして、地域の郵便受けへポスティングで直接届け、あわせてハローワークにも展開しました。
「チラシで人が来るんか」
社内の空氣が全員賛成だったわけではありません。求人はサイトに出すもの、という常識の中で、チラシ配りは遠回りに見えます。それでも配布に踏み切って10日後、工場見学の申し込みという形で最初の応募が届きました。見学に来たその方は、マンガで見た日常を自分の目で確かめ、そのまま採用に至りました。
「地元」が効く3つの理由
- 競争相手が減る——郵便受けの中に、求人サイトのような条件の一覧表はありません。比較ではなく、一社の物語として読まれます。
- 働く姿を想像しやすい——知っている道、見たことのある建物。「ここでなら」の想像が、遠い会社より早く立ち上がります。
- 長く続く——通勤の負担が少ない人は生活が安定し、定着しやすい。労使どちらにとっても無理がありません。
危機は続いている
一度の採用で、人手不足が終わるわけではありません。前田機械さまはいま採用マンガ第2弾を運用中です。働き手はこれからも減り続けます。条件表の中で待つ会社から順に、沈黙の月末が積み重なっていく——その構造は、いまも動いています。
あなたの会社の休憩室の日常も、外の人にはまだ見えていません。それをマンガにして近所の郵便受けへ届けたとき、「ここでなら働けるかもしれない」という想像が、誰かの中で始まります。
その危機を、先に抜け出した会社があります。
次回(木曜7時)は「採用サイトはあるのに応募が来ない」をお届けします。


