
「新卒は縁がないので、中途で採るしかありません。転職サイトにも出しています。それでも応募が1件も来ない月があります。うちの条件が、そんなに悪いのでしょうか」
条件の話ではない可能性が高いです。中途の求人が届く相手は、いま転職先を探している方だけです。その方々の頭の中には、すでに知っている会社の名前が数社だけ並んでいます。求人を出すというのは、その並びの中から選んでもらう作業であって、並びに載せる作業ではありません。
以下、中途で動く方が何を理由に会社を辞め、何を理由に次を選んでいるのかを、公表されている国の調査で分けたうえで、弊社が伴走した現場の記録を並べます。
1. 中途の求人票を見ているのは、すでに動きはじめた方だけです
転職サイトも、ハローワークも、自社の採用ページも、共通点が1つあります。相手が自分から開かないと、何も起きません。開くのは、転職すると決めたあとです。
つまり中途採用の媒体は、次の順番のうち、最後の1つしか担当していません。
- 知っている。名前と、だいたい何をしている会社かが分かる
- 候補に入る。自分が働く場所として考えてよい対象だと思う
- 探す。求人を開いて、条件と中身を確かめる
3番目の道具をいくら磨いても、1番目と2番目が済んでいない相手には順番が届きません。そして会社側からは、この3つのどこで止まっているのかが見えません。応募が来ないという同じ1つの結果しか返ってこないからです。だから条件のほうを疑い、給与や休日の見直しへ進みます。
2. 辞めた理由と、選んだ理由は、向きが逆です
ここに、中途採用でいちばん見落とされている事実があります。人が会社を辞める理由と、次の会社を選ぶ理由は、同じ調査の中で逆を向いています。
厚生労働省の雇用動向調査(平成28年・報告書掲載表 第15表)は、転職して入職した方に、前の職場を辞めた理由と、いまの勤め先を選んだ理由の両方をたずねています。原表は千人単位の実数で公表されているため、以下は転職入職者の合計を分母にして弊社が割り戻した計算値です。公表されている比率そのものではありません。
製造業では、辞めた理由が「給料等の収入が少なかった」15.3パーセントに対して「労働時間・休日等の条件が悪かった」11.8パーセント。給料が上に来ます。ところが同じ方々が次を選んだ理由になると、「労働時間・休日等の条件がよい」11.5パーセントに対して「賃金が高い」8.8パーセントで、順番が入れ替わります。
建設業はもっと極端です。辞めた理由は給料19.9パーセントに対して労働時間10.1パーセント。選んだ理由は労働時間12.5パーセントに対して賃金2.6パーセント。5倍近い差がついて、逆を向いています。運輸業も同じ向きで、辞めた理由は給料13.1に対して労働時間11.8、選んだ理由は労働時間15.7に対して賃金8.4です。
3つの業種すべてで、同じことが起きています。辞める引き金は賃金、選ぶ決め手は賃金以外。この非対称を前提に置くと、採用の打ち手が変わります。賃金を上げる話は、いま働いている方に辞められないための守りとしては効きます。しかし、外から来る方に選んでもらうための攻めとしては、順位の低いところを押していることになります。
3. 選ぶ決め手の上位に、通勤と地元が並びます
もう1つ、中途の方だけを対象にした調査があります。厚生労働省の令和2年転職者実態調査(個人調査・有効回答5,530人・郵送法)です。転職して現在の勤め先を選んだ理由の上位は、次のとおりでした。
- 仕事の内容・職種に満足がいく 41.0パーセント
- 自分の技能・能力が活かせる 36.0パーセント
- 賃金以外の労働条件がよい 26.0パーセント
- 転勤が少ない、通勤が便利 20.8パーセント
- 賃金が高い 15.1パーセント
- 地元だから 13.9パーセント
1位と2位は、仕事の中身そのものです。給与より上に来ています。そして4位に通勤、6位に地元が入ります。とくに「地元だから」は20歳から24歳で24.7パーセントに跳ね上がり、全年代の中で突出しています。
ここで問題が起きます。「仕事の内容に満足がいく」かどうかを、応募する前に確かめる方法が、求職者の側にありません。求人票に書かれた職種名と業務内容の箇条書きから、自分がその仕事をしている姿を思い浮かべるのは、経験のある方でも難しいことです。中途の方は、前の職場という比較対象を持っています。持っているからこそ、書かれていない部分を悪いほうに想像します。
4. 知らないのではなく、知る機会がなかっただけです
通勤圏に住んでいて、いま別の会社で働いている。数年のうちに転職を考えるかもしれない。そういう方は、御社の近くに必ずおられます。その方が御社の名前を一度も聞いたことがないとしたら、理由は伝え方が下手だからではありません。
地元の方は、御社を知らないのではありません。知る機会が一度もなかっただけです。この違いは小さく見えて、打つ手がまるで変わります。知らないのだと考えると、求人票の書き方や写真を工夫する方向へ進みます。機会がなかったのだと考えると、機会そのものを作る方向へ進みます。
求人は、いま探している方にしか届きません。探していない方の日常に、先に置いておく。中途採用で効いてくるのは、応募が欲しい月ではなく、その方がまだ転職を考えていなかった時期に何をしていたかです。給料を上げても応募が来ないという現象が起きるのは、条件を上げるほど、名前を知られている大きい会社と同じ表の中に並ぶからです。
5. 応募ゼロだった会社が、配布から10日で見学の申し込みを受けた記録
弊社が伴走した前田機械株式会社さま(大阪市港区)の記録を、そのままお伝えします。大型金属の精密切削加工の会社さまで、狙っておられたのは30代から40代の転職層でした。
求人サイトに掲載しても応募がゼロという状態が続いていました。掲載内容が悪かったわけではありません。条件も写真も、同業他社と並べて見劣りするものではありませんでした。
そこで、求人票を直すのではなく、置き場所を変えました。未経験の方がつまずく場面と、そのとき現場でかけられた言葉をマンガにして、周辺地域へ配布しました。ハローワークにも同じものを展開しています。結果として、配布から10日で工場見学の申し込みが入り、そのまま採用に至りました。現在は第2弾を継続して運用中です。
正直に申し上げると、この1件だけで方法の優劣は決まりません。地域性も業種もタイミングも重なっています。それでも1つ確かなことがあります。同じ会社が、同じ条件で、届け方を変えただけで応募が発生しました。足りなかったのは条件ではなく、知られていることでした。
6. 転職を考えはじめる前の方と、どこで会うか
中途の方の日常が通る場所は、転職サイトの中ではありません。働きながら暮らしておられる、その生活の動線です。
- 家のポスト。本人が読まなくても、家族が読んで食卓の話題になります
- 待合室と受付。歯科、理容室、自動車整備工場。滞在時間があり、手持ちぶさたな場所です
- 子どもが持ち帰る紙。保護者は必ず目を通します
- 取引先の休憩室。同じ地域で働く方から、その家族へまわっていきます
- 地元の催し。市民祭、商店街の行事、消防や防災の集まり
置き場所を変えるとき、置くものも変わります。求人票は、探している方が読むために作られた書式です。探していない方の手元では、目を通される前に紙として処理されます。地元の方に会社を知ってもらうには、読まれる形のものを置く必要があります。
弊社が採用マンガという形をとっているのは、絵が上手だからではありません。用がなくても最後まで読んでしまう形が、いまのところこれだからです。読み終わったあとに残るのは条件ではなく、その会社で人が働いている場面です。上の調査で1位だった「仕事の内容・職種に満足がいく」を、応募の前に手渡せる形がこれでした。
よくあるご質問
Q1. 新卒の調査で「地元で働きたい学生が58.7パーセント」と見ました。中途にも当てはまりますか。
そのまま当てはめないほうがよいです。その数字はマイナビが2027年卒業予定の学生を対象に行った調査のもので、回答者は大学生と大学院生です。年齢も、就職活動の進め方も、家族構成も違います。中途の方について語るなら、この記事の2番と3番で引いた厚生労働省の転職者向けの調査のほうが、対象が合っています。
Q2. 賃金を上げるのは、まったく無駄ということですか。
いいえ。向きが違うだけです。賃金は、いま在籍しておられる方に辞められないための守りとして効きます。雇用動向調査で辞めた理由の1位に来ているのは事実です。一方で、外から来る方が次を選ぶ決め手としては順位が下がります。守りと攻めで別の道具が要る、という話です。
Q3. 効果が出るまで、どのくらいかかりますか。
知られている状態を作る仕事は、応募という形ですぐには返ってきません。前田機械さまの例では配布から10日で反応がありましたが、これは早いほうです。1回で止めると、届いた記憶も一緒に消えます。続けている間だけ効いている、と考えたほうが実態に合います。
Q4. 中途の方に向けて、明るく楽しそうな見せ方にしたほうがよいですか。
お勧めしません。中途の方は前の職場という比較対象を持っておられます。実際より明るく見せた分は、入社後にそのまま落差として返ってきます。地味な作業がある職場なら、地味な作業を描いたほうが、残る方が残ります。入る前に見た姿と、入ってから見た姿の差は、半年で辞める理由のいちばん大きな部分です。
Q5. まず何を1つやればよいですか。
御社でいちばん長く働いておられる方に、「この仕事のどこが面白いですか」と聞いてみてください。その答えが求人票のどこにも書かれていないなら、それが最初に外へ出すものです。調査で1位だった「仕事の内容・職種に満足がいく」は、求人票の職種名の欄には入りきりません。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
御社から車で20分の範囲に住み、いま別の会社で働いておられる方は、御社が何をしている会社かご存じでしょうか。
ご存じないとお感じでしたら、そのことをご相談のときにお聞かせください。条件を上げる話ではなく、知る機会を作る話から始めます。
探していない方の日常に、働く姿を先に置いています。採用マンガプロジェクトを見る
辞めた理由で採ろうとすると、条件の話になります。選んだ理由で採ろうとすると、仕事の中身を見せる話になります。
前田機械さまでお作りしたのは、初日に遅刻した新人の話、説明どおりに行かなかった日の話、納期に追われた日の話の3話です。第3話では、失敗を申し出た新人に先輩がこう返します。「ええ判断や。隠すより100倍マシや」。求職者の方が知りたいのは、制度があるかどうかではなく、そのとき自分がどう扱われるかです。不安はひとつではありませんので、物語をつないでお届けします。
御社の場合はどの不安から描くとよいか、ご相談に乗ります。30分ほどお時間をいただければ、その場で1話目の見当までお出しします。相談してみる
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