
カテゴリ:展示会
展示会が終わった夜、ホテルで名刺の束を数える。300枚。手応えはあったはずなのに、翌週から始めたお礼メールへの返信は、ほとんど戻ってこない。電話をかければ「どちらさまでしたか」。この瞬間の徒労感を、出展したことのある方なら知っているはずです。
営業担当の力不足ではない
まずお伝えしたいのは、これは営業担当の力不足ではないということです。来場者は一日に何十ものブースを回り、何十枚もの名刺を交換します。翌週のその方の机の上で、御社の名刺は他社の名刺と同じ束の中にいる。つまり「忘れられる」のは人の努力の問題ではなく、記憶に残る仕掛けがブースに無いという構造の問題です。
ある企業も、同じ場所に立っていた
床面サインの美華道さまも、同じ場所に立っていました。ブースには製品と説明パネル。足を止めた人は説明を聞いてくれるものの、会期が終われば連絡は続かない。次の出展を前に選んだのは、製品の説明を増やすことではなく、逆でした。
自分たちが何者で、なぜこの仕事をしているのか。それを来場者が数秒で受け取れる形にする。ブースの主役を製品スペックから「物語」に置き換え、ブース全体を設計し直したのです。社内には「展示会にマンガ?」という戸惑いもありました。それでも、通路を歩く人の目線がまず何に止まるかを基準に、掲示物も配布物も組み替えました。
結果、その回のアンケート回収は459件。前回出展の約12.8倍でした。名刺の「枚数」ではなく、相手の言葉が残る接点が増えたことで、会期後の会話は「どちらさまでしたか」から「あのブースの会社ですね」に変わりました。
「記憶に残る」を設計する3つの手順
裏づけになる調査があります。アペルザの展示会調査(n=413)では、来場者は平均17社のブースを訪問し、持ち帰られた資料の94.9%は保管されないという結果が出ています。つまり「配って終わり」の設計は、数字のうえでも消えていきます。記憶に残す設計は、次の3段で組みます。
- 帰り道の呼び名を決める——「あの、○○の会社」と呼ばれたい○○を先に決め、ブースの全要素をそこへ揃えます。
- 説明ではなく問いかけを置く——「現場でこんなことありませんか」の対話で、来場者自身の課題を言葉にしてもらいます。
- 持ち帰り物を記憶の栞にする——ロゴ入りノベルティではなく、物語やキャラクターが載った「捨てられない一枚」を渡します。
順番を間違えない
数字よりも大事なのは順番です。商談は、覚えてもらった後にしか始まりません。名刺の束はゴールではなく、思い出してもらうための入口にすぎない。そして、この構造を放置したまま次の出展日は近づいてきます。予算をかけるべきは、パネルの増量ではなく「翌週、相手の記憶に何が残るか」の設計です。
御社の日常や技術を描いた一冊のマンガをブースに置いたとき、来場者は説明を聞く前に、御社が何者かを受け取って帰ります。
御社のブースに足を止めた人は、帰り道に御社を何と呼ぶでしょうか。社名でしょうか、それとも「あの、○○の会社」でしょうか。その一言が決まっているブースは、強い。そんな見方が、次の出展を控えるどなたかのヒントになれば嬉しいです。
順番を守ったブースで、何が起きたか。
次回は金曜7時、展示会の現場の物語をお届けします。


