
「うちは製造業です。求人票の書き方も直しましたし、初任給も上げました。それでも応募が来ません。製造業の採用課題というのは、結局のところ何なのでしょうか。人口が減っているから仕方がない、で終わらせたくないのです」
課題は、待遇でも設備でもありませんでした。製造業には、他の業種にはない「外から仕事の中身が見えない」という構造があります。見えないものは、選ぶ対象にすら入りません。応募が来ないのは、比べられて負けているのではなく、比べる土俵に上がっていないからです。
以下、製造業に固有の課題を3つに分け、どこから手をつけるかまで並べます。
1. 課題の本体は「仕事の中身が外から見えない」ことです
飲食も小売も、お客として一度は中に入ったことがあります。働いている方の動きを、誰もが見たことがあります。製造業はそうではありません。工場の中は、取引先の方以外、ほとんど誰も入ったことがありません。
すると、応募を考える方の頭の中には、テレビや映画で見た工場の映像しか残りません。ベルトコンベアの前に立ち続ける映像です。実際の御社の仕事とは、まったく違うはずです。それでも、他に材料が無ければ、その映像で判断されます。
ここが製造業の採用課題の本体です。求人票の文章を直しても、この映像は書き換わりません。文字は、すでに読む気のある方にしか届かないからです。
2. 製造業だけが背負っている3つの見えなさ
見えないものを、さらに分けます。この3つは、どれも求人票では解けません。
- 仕事の中身が見えない。「機械加工」と書いてあっても、一日のうち何をどれだけやるのかが分かりません。図面を読む時間、段取りの時間、削っている時間の比率が想像できません。
- 先入観が先に立つ。きつい、汚い、危ない。この3語は、実際に見たことのない方ほど強く持っておられます。空調を入れた、自動化したと書いても、書いた側の言い分としてしか読まれません。
- 一人前までの道のりが見えない。入って3か月で何ができるようになるのか、3年後に何を任されるのか。ここが見えないと、若い方は「時間だけ取られて、つぶしが利かない」と感じます。
3つとも、共通しているのは「言葉では覆せない」という点です。相手が持っている映像より強い映像を、こちらから先に渡すしかありません。
3. 求人票を直しても届かないのは、置き場所の問題です
求人サイトもハローワークも、いま仕事を探しておられる方だけが見る場所です。製造業の求人は、その場所で、知名度のある会社と条件だけで並べられます。給与を上げても、その隣にはもっと上げられる会社が並びます。
そして、御社の近くに住んでおられて、条件が合えば働けたはずの方の大半は、そもそもその画面を見ておられません。いま探していないからです。地元の方は、会社を知らないのではなく、知る機会がなかった。製造業では、これがとりわけ強く効きます。工場は、外から中が見えないからです。
だから手をつける順番は、求人票の文章ではありません。探しておられない方の日常に、仕事の中身が見える形で先に置くこと。ここが最初です。
4. 見えるようにするために、何を渡すか
実際にお渡しするものを、具体的に挙げます。
- 一日の流れ。何時に来て、最初に何をして、昼はどうしていて、何時に帰るか。
- 新しく入られた方が、最初の1か月で任される仕事。
- 先輩の方が、その仕事をどう教えておられるか。教え方そのものが中身です。
- 失敗したとき、どうなるか。怒られて終わりなのか、直し方を教わるのか。ここを書ける会社は多くありません。
- 3年目の方が、いま何をしておられるか。将来像は、実在の先輩でしか示せません。
この5つは、パンフレットの会社概要欄には載りません。載るのは資本金と沿革と設備一覧です。設備一覧は、取引先には効きますが、応募を考える方には何も伝えません。入る前に働く姿を見ていただくことは、入っていただいた後の定着にもそのまま効きます。
5. 応募ゼロだった機械加工の会社で起きたこと
大阪市港区の前田機械株式会社さまは、大型金属の精密切削機械加工をされています。求人サイトに掲載しても応募がゼロ、という状態からのご相談でした。
最初にうかがったのは設備のことではなく、毎日の手順のほうでした。大きな部品を削るときの段取りと、若い方に最初に任せる仕事の順番。出てきたのはこの2つです。それを採用マンガにして、ポスティングチラシとして地域へ配布し、あわせてハローワークにも展開しました。
配布から10日で見学のお申し込みが入り、その後、採用に至っています。現在は第2弾を継続して運用しておられます。変えたのは待遇ではなく、仕事の中身が見える状態にしたことと、それを置いた場所でした。
弊社がお手伝いしているのは1枚の絵ではありません。配る前・配っている間・配った後までを続ける運用です。工場見学へつなぐ設計も、その中に入ります。
Q1. 設備投資をして環境を良くしました。それは書かないほうがよいですか。
書いてください。ただし、設備の名前ではなく、それで一日がどう変わったかを書いてください。「空調を入れました」より「夏の午後も、汗だくにならずに図面が読めます」のほうが伝わります。読む方が知りたいのは設備ではなく、自分の一日です。
Q2. きつい仕事であることは事実です。隠すべきでしょうか。
隠すと、入られた後に辞める理由になります。きつい部分は、いつ・どの工程で・どのくらいかを具体的に書いてください。そのうえで、そこを越えたときに何ができるようになるかを並べます。曖昧に良いことだけを書くほうが、かえって信用されません。
Q3. 若い方が来ません。年齢層を広げるべきでしょうか。
広げるかどうかの前に、いまの求人が誰の目に入っているかを見てください。若い方が来ないのは応募先として選ばれなかったからではなく、多くの場合、存在を知られていないからです。順番を間違えると、対象を広げても同じ結果になります。
Q4. うちは下請けで、自社製品がありません。それでも見せられますか。
見せられます。伝わるのは製品ではなく仕事です。どんな図面が来て、どう段取りして、どこが難しくて、どう解いたか。自社製品の有無とは関係がありません。むしろ、毎回違う図面が来ることそのものが、仕事の面白さとして伝わります。
Q5. 何から手をつければよいですか。
入社3年目の方おひとりに、入った日のことを聞いてみてください。何が分からなかったか、誰に助けられたか。その話が、そのまま最初の材料になります。会議で採用計画を作るところから始めると、たいてい止まります。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
御社の工場の中を、この1年で、取引先以外のどなたかがご覧になったことはありますか。
思い当たらないようでしたら、それが課題の在りかです。設備でも待遇でもなく、見ていただく機会のほうを先に作ります。
仕事の中身が見える形にして、地域へ届けるところまでを一緒に運用しています。採用マンガプロジェクトを見る
製造業の採用課題は、条件で負けていることではありません。工場の中が、外から一度も見えていないことです。
