
「採用ブランディングをやったほうがいいと言われました。ただ、うちは社員30名の会社で、学生さんに名前を知られているわけでもありません。ロゴを作り直すのか、理念を言葉にするのか、動画を撮るのか。中小企業は何から始めればいいのでしょうか」
ロゴでも理念でも動画でもありません。最初にやることは、御社で働いている姿を、社員の方のご家族や知り合いが人に語れる形にすることです。知名度は、その結果として後から付いてきます。順番を逆にすると、作った物が余ります。
先に、判断の助けになる数字をひとつ置きます。
マイナビの2027年卒大学生を対象とした調査(2026年3月20日〜4月5日・n=2,800)では、地元で働くことを考えている潜在層が地元企業を知ったきっかけの第1位は、「家族や知り合いの勤務先企業の話を聞いたことがある」で44.0パーセントでした。広告でも採用サイトでもありません。人から聞いた話です。なおこれは新卒の大学生・大学院生を対象とした調査で、中途採用にそのまま当てはまるものではありません。
1. 知名度を上げようとすると、予算のある会社と同じ土俵に立つことになります
採用ブランディングという言葉を調べると、多くの場合「知名度の壁を越える」という説明に行き当たります。その通りなのですが、越え方が2つあることはあまり書かれていません。
ひとつは、露出を増やして名前を覚えていただく越え方です。媒体に出し、動画を回し、イベントに出ます。効きますが、出し続けているあいだだけ効きます。そして出し続ける体力は、予算の大きい会社のほうがあります。
もうひとつは、御社をすでに知っている方の口から、御社の話が出るようにする越え方です。社員の方のご家族、取引先、近所の方、卒業された学校の先生。人数は多くありませんが、この方々の言葉は広告より信じていただけます。中小企業が先に手をつけられるのは、こちらです。
ここには前提があります。地元の方は、御社を知らないのではありません。知る機会がなかっただけです。求人は、いま探しておられる方にしか届きません。探しておられない方の日常に先に置くことが、中小企業の採用ブランディングの中身です。
2. 「うちの会社の何がいいのか、社員が説明できない」が本当の入口です
社員の方に「お宅の会社、どんな会社なの」と聞いてみてください。多くの場合、業種と、扱っている物の名前までは出てきます。その先が続きません。
続かないのは、社員の方に愛社精神がないからではありません。日々やっておられることは当たり前すぎて、外の方にとって珍しいことだと氣づいておられないだけです。自分の職場の空氣は、自分では見えません。
採用ブランディングの最初の作業は、この見えていない部分を外から拾って、言葉と絵にすることです。理念を新しく作るのではなく、すでにやっておられることに名前を付けます。
3. 拾うのは、求人票に書けないことのほうです
求人票には条件が書いてあります。給与、休日、勤務地、必要な資格。これは他社も書いています。条件だけを並べると、比べられて終わります。
拾っていただきたいのは、次のようなことです。
- 朝、出社してから最初の30分に何が起きているか。
- 新しく入った方が、誰から何を教わるか。教わる側が最初にとまどうのはどこか。
- 失敗したとき、その場で何が起きるか。誰が出てくるか。
- 昼休みに、どこで誰と食べておられるか。
- いちばん若い方が、入って半年で任されたこと。
どれも求人票には書けません。ですが、働く姿を想像していただくのに必要なのは、条件ではなくこちらです。応募されるかどうかは、給与の額よりも、自分がそこにいる場面を思い描けるかで決まります。条件で比べられたときに中小企業がどうなるかは、大手の条件には勝てない? 中小企業の採用は”働くイメージ”で決まるに書いています。
4. 集めた話は、社員の方が家族に渡せる形にします
拾った話を社内資料にすると、社内で止まります。採用サイトに載せると、探しておられる方にしか届きません。どちらも要りますが、どちらも上の44.0パーセントの経路には乗りません。
乗せるには、社員の方が持って帰れて、ご家族が読んで、知り合いに話せる形にする必要があります。紙で渡せること、読むのに5分かからないこと、途中で説明が要らないこと。この3つを満たす形であれば、何でもかまいません。当社がマンガを使っているのは、この3つを同時に満たしやすいからです。
社員の方のご家族が20人いらっしゃれば、そのご家族から話が出る先は、その何倍かになります。媒体費はかかりません。かかるのは、話を集めて形にする手間だけです。
5. 出しっぱなしにせず、届いた先で何が起きたかを聞きます
作った物を配って終わりにすると、効いたのかどうかが分かりません。分からないので、翌年も同じ議論をすることになります。
配ったあとに聞いていただきたいのは、応募の件数ではありません。渡したご家族が何と言われたか、その話が誰に伝わったか、見学にいらした方がどこで御社を知られたか。この3つです。件数は、後から付いてきます。
当社が採用マンガプロジェクトで前・中・後をひとつながりで運用しているのは、この聞き取りの部分が抜けると、翌年に積み上がるものが何も残らないためです。作ること自体は1回で終わりますが、効き方を知ることは1回では終わりません。
6. 大阪市港区の前田機械株式会社さまの場合
大型金属の精密切削機械加工をされている前田機械株式会社さま(大阪市港区)は、求人サイトに掲載しても応募がゼロという状態から始まりました。狙いは30代から40代の転職層で、現場2名と営業1名の採用が目標でした。
そこから、社員の方の働く姿を描いた採用マンガとマスコットを作り、ポスティングのチラシにして地域へ配布し、あわせてハローワークにも展開されました。配布から10日で工場見学のお申し込みが入り、採用に至っています。現在は第2弾を継続して運用しておられます。
この間に新しくできたのは、知名度ではありません。地元の方の手元に残る読み物と、それを渡せる社員の方です。採用ブランディングの中小企業版というのは、たいていこの形になります。
Q1. ロゴや会社案内を先に作り直したほうがよいのではありませんか。
作り直しても効きますが、順番としては後です。ロゴが変わっても、社員の方が語れる話が増えるわけではありません。先に話を拾っておくと、ロゴや会社案内を作るときに入れる中身がすでにある状態になります。逆にすると、器から作ることになります。
Q2. 社員が20名ほどの規模でも意味がありますか。
規模が小さいほど効きます。20名の方にそれぞれご家族と知り合いがおられます。この経路は人数に比例するのではなく、渡せる形があるかどうかで決まります。大企業のほうが、社員1人あたりの話が伝わりにくくなる面すらあります。
Q3. 採用ブランディングをすると、応募の質は上がりますか。
上がるとは申し上げにくいです。当社が測れているのは、働く姿を先に届けた場合に、見学や面接の場で話が早いということまでです。応募の質を数値で示す一次統計に、当社は到達できていません。そのため、母集団の質が向上するという言い方は使っておりません。
Q4. どのくらいの期間がかかりますか。
話を拾う部分に1か月から2か月、形にする部分にさらに1か月から2か月というのが多い形です。ただし御社の中に、すでに社内報や見学の受け入れ手順があれば、そこから始められるので短くなります。まず何がおありかを見せていただくところからになります。
Q5. 求人広告は止めてよいのでしょうか。
止めないでください。いま探しておられる方に届く経路は、そちらしかありません。ここで作るのは、まだ探しはじめておられない方に先に届く経路です。両方が要ります。片方に寄せると、どちらかの時期に穴が空きます。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
いま御社の社員の方が、ご家族に会社の話をされるとしたら、何を話されるでしょうか。
思い当たるものが出てこないようでしたら、そのことをご相談のときにお聞かせください。知名度を上げる話ではなく、社員の方が語れるものを何にするかから一緒に考えます。
働く姿を、探しはじめる前の方の日常へ先に置いています。採用マンガプロジェクトを見る
採用ブランディングは、知られる工夫ではなく、社員の方が語れるものを作る工夫です。
前田機械さまでお作りしたのは、初日に遅刻した新人の話、説明どおりに行かなかった日の話、納期に追われた日の話の3話です。第3話では、失敗を申し出た新人に先輩がこう返します。「ええ判断や。隠すより100倍マシや」。求職者の方が知りたいのは、制度があるかどうかではなく、そのとき自分がどう扱われるかです。不安はひとつではありませんので、物語をつないでお届けします。
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