
「フランスでは日本のマンガが人氣だと聞きます。うちの商品も、向こうへ持っていけば受け入れられますか」
読まれていることは事実です。フランスの15歳から19歳では44パーセントが、過去1年に1冊以上マンガを読んでいます。ただし市場そのものは2021年をピークに縮んでおり、人氣を理由に持っていけば売れる、という話にはなりません。
以下、公的な調査に出ている数字と、弊社が20年の出展で見てきたことを分けて並べます。
1. フランスで、日本のマンガはどれくらい読まれているか
読者の広がりを示す調査は、いずれも公的機関のものです。
- フランス人の19パーセントが、過去12か月にマンガを1冊以上読んでいます。15歳から19歳では44パーセント、65歳以上では3パーセントです(フランス国立図書センターとイプソスの調査。電話調査、回答者1,001人、2025年1月から2月)
- フランスにある日本語教育機関285機関のうち254機関、割合にして89.1パーセントが、学習の動機に「アニメ・マンガ・J-POP等」を挙げています。世界全体では61.3パーセントで、これは動機の第1位です(国際交流基金、2024年度、対象24,717機関)
- この89.1パーセントは、回答した機関の割合です。学習者本人の割合ではありません。「フランス人の89パーセント」と読むことはできません
- 訪日前に期待したことで「日本のポップカルチャーを楽しむ」を挙げたフランスからの旅行者は36.2パーセントでした。韓国は11.1パーセント、台湾は12.7パーセントです(観光庁、2024年確報、回答者29,847人のうちフランスは565人)
読む人がいて、日本語を学ぶ動機になっていて、旅行の期待にもなっている。ここまでは、疑う余地がありません。
2. ただし、市場そのものは縮んでいます
ここを飛ばして「フランスはマンガ市場が拡大している」と書いた資料をよく見かけますが、事実と違います。
- 2025年のフランスのマンガは、金額で前年比マイナス10.5パーセント、数量でマイナス13.7パーセントでした。バンド・デシネとコミックスを合わせた売上は4億1,900万ユーロで、こちらもマイナス5パーセントです(フランス出版協会)
- ピークは2021年の5億900万ユーロで、以降は構造的な減少局面に入っています
- ジャパンエキスポの来場者も回復していません。2023年が255,259人で過去最高、2024年が200,716人でマイナス21.4パーセント、2025年が222,016人です。2019年と比べてもマイナス12.1パーセントです(いずれも主催者発表、延べ人数、第三者の監査はありません)
- 訪日の動機を並べると、ポップカルチャーは20項目中13位、15.5パーセントです。フランスからの旅行者に限っても10位でした。上位は日本食が82.2パーセント、買い物が62.8パーセントです(観光庁)
つまり、フランスで日本文化が好まれているのは本当ですが、それは「並べておけば売れる棚」がある、という意味ではありません。人氣は入口の広さであって、売れる理由そのものではないのです。
3. それでも動く価値があるのは、日本側が動いていないからです
数字を日本側に向けると、景色が変わります。
- 直接輸出をしている中小企業は1.91パーセントです(中小企業実態基本調査。母集団は法人1,701,437社、直接輸出は32,488社)
- 海外展開を行っておらず、関心もないと答えた企業は69.0パーセントでした(中小機構、回答1,000社)。別の調査では71.3パーセントです(日本政策金融公庫、回答3,790社)
- 業種で見ると、建設業は92.3パーセント、運送業は93.9パーセントが「関心もない」と答えています(日本政策金融公庫)
- 経済産業省自身が、日本の作品の国際的なプロモーションについて「海外の見本市への出展にとどまるなど、本格的な海外プロモーションが十分には行われていない可能性がある」と書いています(エンタメ・クリエイティブ産業戦略2026)
フランスでは15歳から19歳の44パーセントがマンガを読み、日本語教育機関の89.1パーセントがアニメ・マンガを学習動機に挙げている。その一方で、日本の中小企業は7割が海外に関心もない。この2つは母集団が別ですから、割り算をして比べることはできません。ただ、並べて置くことはできます。並べたときに残るのは、市場が伸びているかどうかではなく、向こうに入口があるのに日本側が立っていない、という一点です。
4. 弊社が20年の出展で見てきたこと
ここからは調査ではなく、現場で見た話です。
- 弊社はフランスのJAPAN EXPO等のマンガ関連イベントに計11回出展してきました。2006年から2015年にかけてのことです
- 2015年のジャパンエキスポでは、弁当のブース『ま弁当』で5,000食を提供しました。試食の配布ではなく、買っていただいた数です
- 続かない理由は、いつも同じでした。山陰国際観光協議会が2012年と2013年にジャパンエキスポへ連続出展した記録が白書に残っていますが、自治体の出展は1回で諦めること、担当者が替わると情熱が失われることまで、あわせて書かれています
売れなかったから撤退するのではありません。翌年に同じ人が立っていないから、前の年に作った関係がなくなるのです。1年目に名刺を交換した相手が、2年目に別の人に会うと、その相手はもう戻ってきません。
5. これから動くとして、何から始めるか
順番があります。出展の申し込みは、いちばん最後です。
- その年に開かれる催しを1つ選び、出展せずに見に行きます。通路を歩いているのがどんな人か、どのブースの前で足が止まっているかを、自分の目で見てください
- 誰が3年続けて行くのかを、先に決めます。決まらないうちは申し込まないほうが、費用を守れます
- 言葉が通じない場で最初に伝わるのは絵です。商品の説明ではなく、その商品が誰の何を変えるのかを、絵の並びで用意します
- 会期中に売り切ろうとしません。翌年また会う相手を何人つくれたかを、その年の成果とします
- やりとりは必ず記録に残し、次の担当者へ渡せる形にしておきます。人が替わっても関係が残る形にしておくことが、いちばん効きます
よくあるご質問
Q1. 市場が縮んでいるのに、いま行く意味はありますか。
あります。縮んでいるのは売上の総額で、読者の層はまだ広いままです。むしろ総額が伸びていた時期は、置けば売れると考えた出展が多く、通路は混んでいました。いまは、続けて来る相手のほうが目立ちます。1回で結果を出す場としては勧めませんが、3年で関係をつくる場としては、以前より条件がよくなっています。
Q2. 「フランスはマンガ市場が拡大中」と書かれた資料を見ました。
2021年までの数字であれば正しく、それ以降であれば誤りです。フランス出版協会の発表では2022年から減少に転じ、2025年もマイナス10.5パーセントでした。資料に何年の数字かが書かれていない場合は、使わないでください。
Q3. マンガやアニメと関係のない商品でも、意味はありますか。
あります。弊社が5,000食を提供したのは弁当で、マンガの商品ではありません。マンガは商品そのものではなく、言葉の通じない通路で足を止めていただくための手段です。食品、機械、工芸、観光、どれでも同じように使えます。
Q4. 費用はどれくらい見ておけばよいですか。
催しによって開きが大きく、公式サイトに出展料を載せていない催しもあります。数字を先に決めるより、何年続けるかを先に決めてください。ジェトロのジャパンブースは中小企業の料金が一般の半額に設定されており、初年度の負担を下げる方法はあります。
Q5. まず何を調べればよいですか。
行く先の催しが、いまも開かれているかどうかです。数年前の一覧に載っている催しには、すでに終了しているものがあります。名称、開催時期、会場、料金は、必ず公式サイトで確認してから動いてください。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
3年続けて同じ場所に立つとしたら、御社では誰が立ちますか。
そのお名前を1つ決めてから、ご相談にお越しください。
海外での実際の取り組みをご覧いただけます。国際マンガの事例を見る
向こうに入口があることと、こちらが立っていることは、別の話です。
参考ブログ
参考実績


