
「求人票に写真を載せる欄があります。とりあえず会社の外観と、朝礼で全員が並んだ写真を入れました。撮り直したほうがよいと言われたのですが、では何を撮ればいいのでしょうか」
仕事の途中の一場面を撮ってください。社屋の外観と、整列した集合写真は、求職者が知りたいことを1つも写していません。知りたいのは建物の形でも社員の人数でもなく、自分がそこで何をして一日を過ごすのかです。
以下、写真で写せるものと写せないものを分けたうえで、公表されている調査と、弊社が実際に伴走した現場の記録を並べます。
1. 社屋と集合写真が効かないのは、答えになっていないからです
求職者が求人票を見るとき、頭の中にある問いは1つです。「ここで働く自分が想像できるか」。
この問いに対して、社屋の外観は「建物はこれです」と答えています。整列した集合写真は「人数はこれだけです」と答えています。どちらも問いに答えていません。答えていない写真は、あってもなくても判断が変わらないので、見た側の記憶に残りません。
もう1つ、集合写真には固有の副作用があります。全員がカメラを見て並んだ瞬間は、その会社の日常には存在しない時間です。撮影のためだけに作られた場面だと、見る側もすぐ分かります。整えられた場面が並ぶほど、その裏側は見えないままだという印象だけが残ります。
2. 撮るのは、この3枚です
枚数を増やすより、次の3枚が入っているかを見てください。
- 手元が写っている1枚。何を持ち、何に触れているかが分かる距離まで寄る。顔が半分切れていてもかまいません
- 2人以上が同じ物を見ている1枚。教えている場面でも、確認している場面でもよい。会話が起きていることが分かればよい
- 始業前か終業後の1枚。着替えている、片づけている、機械に布をかけている。仕事そのものではない時間にこそ、その職場の空氣が出ます
3枚に共通しているのは、どれもカメラを見ていないことです。撮られていることに氣づいていない人が写っている写真だけが、日常として読まれます。
撮り方も難しく考える必要はありません。社内の誰かがスマートフォンで撮ったもので十分です。むしろ、照明を組んで撮った写真は広告に見えます。広告に見えた瞬間、読み手の警戒が上がります。
3. いちばん知りたがられているものは、写真に写りません
ここが本題です。3枚を撮っていただいたうえで申し上げますが、求職者がもっとも知りたいことは、写真では写せません。
写せないものを具体的に挙げます。
- 遅刻しそうなとき、誰に、どうやって連絡するのか
- 有給を取りたいと言ったとき、上司はどんな顔をするのか
- 分からないことを3回聞いたら、どう扱われるのか
- 5年目の人が、いま何をしているのか
これらはすべて「時間の流れ」を含んでいます。一瞬を切り取る写真は、流れを写せません。だから求人票をどれだけ写真で埋めても、いちばん知りたいところは黒いままです。求職者が「働くイメージがわかない」と言うとき、指しているのはこの部分です。
ここを開けるには、順番のある表現が要ります。弊社が採用マンガという形をとっているのは、絵が上手だからではありません。コマとコマの間に時間が流れるからです。声をかけられて、戸惑って、聞いて、通じた、という順番をそのまま置けます。
記憶の残り方についても、古典的な実験が1つあります。バウアーとクラークが1969年に行った実験では、単語を物語の形にしてつないだ群の再生率が93パーセント、ばらばらに覚えた群が13パーセントでした。実験室の言語課題ですので、そのまま採用に当てはめることはしません。ただ、順番のあるものは残り、断片は残らないという向きは、求人票の写真とマンガの差にそのまま重なります。
4. 写真を直しても、探していない人には届きません
もう1つ、写真の限界を正直に申し上げます。
求人票の写真をどれだけ良くしても、それを見るのは求人を探している人だけです。いま探している人の数は、地域の中では限られています。多くの中小企業が応募に困っているのは、その限られた枠を取り合っているからです。
地元の人は、御社を知らないのではありません。知る機会が一度もなかっただけです。ここを取り違えると、求人票の改善だけを延々と続けることになります。
マイナビの2027年卒を対象とした調査(有効回答2,800名、2026年3月20日から4月5日)では、地元で働きたいと答えた学生が58.7パーセントで、前年より2.3ポイント増え、4年ぶりに増加しました。同じ調査で、地元企業を知ったきっかけの第1位は「家族や知り合いの勤務先企業の話を聞いたことがある」で44.0パーセントでした。
これは新卒の大学生・大学院生を対象にした調査ですので、中途採用にそのまま当てはめることはできません。それでも1位の中身は示唆的です。求人媒体でも、会社のサイトでもなく、日常の会話から知られています。つまり、探しはじめる前に名前が入っていた会社が選ばれています。
だから弊社は、求人の外側に置くことをお勧めしています。地元の人に会社を知ってもらうための置き場所は、求人票の中ではなく、家のポストや、待合室や、子どもが持ち帰る紙の中にあります。
5. 応募がゼロだった会社が、10日で見学の申し込みを受けた記録
弊社が伴走した前田機械株式会社さま(大阪市港区)の記録を、そのままお伝えします。
金属加工の会社さまです。求人サイトに掲載しても応募がゼロという状態が続いていました。掲載内容が悪かったわけではありません。条件も、写真も、同業他社と並べて見劣りするものではありませんでした。
そこで、求人票を直すのではなく、置き場所を変えました。未経験の方がつまずく場面と、そのとき現場でかけられた言葉をマンガにして、周辺地域へ配布しました。結果として、配布から10日で工場見学の申し込みが入り、そのまま採用に至っています。現在は第2弾を継続して運用中です。
正直に申し上げると、この1件だけで方法の優劣は決まりません。地域性も、業種も、タイミングも重なっています。それでも1つ確かなことがあります。同じ会社が、同じ条件で、届け方を変えただけで応募が発生しました。足りなかったのは条件ではなく、知られていることでした。
写真の話に戻ります。3枚の写真は撮ってください。求人票を見た人が最後に迷ったとき、その3枚が背中を押します。ただ、その求人票にたどり着く人を増やす仕事は、写真の外側にあります。応募があっても面接に来ないという悩みも、根は同じ場所にあります。
よくあるご質問
Q1. 社員の顔を出すことに、抵抗があります。どうすればよいですか。
顔を写さない撮り方で十分です。手元、背中、作業台を挟んで向かい合う2人の肩から下。むしろ顔が写っていないほうが、見る側は自分をそこに置いて読みます。全員から掲載の同意を取る手間も減ります。同意を取った方だけ顔を出す、という混在でもかまいません。
Q2. 現場が汚れていたり、古い機械しかない場合も出すべきですか。
出してください。きれいに見せた写真で入った方は、初日に必ず落差を感じます。半年以内に辞める理由の多くは、入る前に見た姿と、入ってから見た姿の差です。古い機械が現役で動いていること自体は、隠すべき欠点ではありません。
Q3. プロのカメラマンに頼んだほうがよいですか。
採用の写真については、必ずしも必要ありません。会社案内やサイトのトップに使う写真は別ですが、求人票で効くのは画質ではなく場面です。社内の方が撮った、少し傾いた写真のほうが日常として読まれます。予算をかける先を選ぶなら、写真より、時間の流れを見せる表現に回すことをお勧めします。
Q4. 写真を差し替えたら、応募は増えますか。
求人票を見た人の中で、応募まで進む割合は上がる見込みがあります。ただし、求人票を見る人の数は変わりません。母数が小さいままなら、増え方も小さいままです。増やしたいのが割合なのか件数なのかで、打つ手が変わります。
Q5. マンガにすると、ふざけていると思われませんか。
絵柄と中身の設計次第です。誇張した表現や、実際と違う職場像を描けば、そのとおりに受け取られます。弊社がお作りするものは、その会社で実際に起きた一日をなぞります。読んだ方が入社後に「話が違う」と感じないことを、いちばんの条件にしています。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
いま御社の求人票に載っている写真は、御社で働いていない人が見て、困っている人に誰かが声をかけている場面が写っているでしょうか。
その写真を1枚、ご相談のときにお持ちください。撮り直す前に、何が写っていないかを一緒に見ます。
探していない人の日常に、働く姿を先に置いています。採用マンガプロジェクトを見る
求人票の写真で写せるのは一瞬です。求職者が知りたいのは、うまくいかなかった日に何が起きるかのほうです。
前田機械さまでお作りしたのは、初日に遅刻した新人の話、説明どおりに行かなかった日の話、納期に追われた日の話の3話です。第3話では、失敗を申し出た新人に先輩がこう返します。「ええ判断や。隠すより100倍マシや」。求職者の方が知りたいのは、制度があるかどうかではなく、そのとき自分がどう扱われるかです。不安はひとつではありませんので、物語をつないでお届けします。
御社の場合はどの不安から描くとよいか、ご相談に乗ります。30分ほどお時間をいただければ、その場で1話目の見当までお出しします。相談してみる
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