
「内定を出しました。本人も乗り氣で、入社日の話まで進んでいました。ところが数日後に辞退の連絡が来たのです。理由を聞いたら、ご家族が反対したと言われました」
反対されたのは、御社の中身ではありません。ご家族は御社について何も知らないまま、社名と給料と勤務地だけで判断するしかなかった。判断材料が条件しかなければ、条件で判断されます。ご家族に御社を知る機会が、選考の間に一度もなかったことが原因です。
以下、反対の正体、ご家族に届いている材料、知る機会の位置、調査の数字、選考の外側に置く形、前・中・後の回し方、2年目に変わること、明日からできる3つ、の順に書きます。
1. 反対しているのは会社ではなく、分からないことです
ご家族は、御社を悪く思って反対しているのではありません。良いとも悪いとも判断できないから、安全な側に倒しているだけです。
ご家族の立場に立つと、手元にある情報はこれだけです。聞いたことのない社名。求人票に書いてある給料。片道の通勤時間。従業員数。あとは、本人が面接から帰ってきて話した数十秒の感想です。
この材料で「やめておきなさい」と言うのは、悪意ではなく親心です。知らないものを勧める人はいません。
2. ご家族が見ている御社は、3つの数字だけです
選考の場でご説明になった中身は、ほとんどご家族に届いていません。届いているのは、次のようなものだけです。
- 社名。地域で名前が通っていなければ、初めて聞く言葉として扱われます
- 給料。金額そのものより、他社と並べたときの位置だけが伝わります
- 勤務地。通勤時間に置き換えられて伝わります
一方で、御社が本当に伝えたいことは、ご家族には一度も渡っていません。新人がどう教わるのか。作業場の暑さ寒さに、どんな手を打ってきたのか。子どもの発熱で早退したいとき、上司がどんな顔をするのか。10年勤めた人が、いまどんな仕事をしているのか。
これらは、面接では話しにくく、話しても本人の記憶にしか残りません。本人がそれを家で正確に再現するのは、まず無理です。
3. 地元の人は、会社を知らないのではなく、知る機会がなかった
いちばん申し上げたいのは、ここです。
ご家族も、その隣に住む人も、御社に興味がないのではありません。知る機会が一度もなかっただけです。作業場は道路から中が見えません。看板には社名しか書いていません。取引は法人同士で完結します。地域の暮らしの中に、御社の働く姿が出てくる場面が、そもそもありません。
求人票は、いま探している人の画面にしか出ません。ご家族は探していません。だから求人票は、どれだけ丁寧に書いても、ご家族には一生届かない場所に置かれています。
辞退の理由が家族の反対だったとき、直すべきは面接でも条件でもありません。探していない人の日常に、御社の働く姿を先に置いておくことです。置き方は地元の人に会社を知ってもらうにはに書きました。
4. 地元企業を知るきっかけの1位は、身近な人の話です
マイナビが2027年卒を対象に行った調査では、地元就職を希望する学生が58.7%で、前年より2.3ポイント増え、4年ぶりに増加しました。調査は2026年3月20日から4月5日、回答は2,800人です。
同じ調査で、地元企業を知ったきっかけの1位に挙がっているのが「家族や知り合いの勤務先企業の話を聞いたことがある」で44.0%です。
ここは正確に申し上げます。これは新卒学生を対象にした調査であって、中途採用にそのまま当てはめられる数字ではありません。ただ、示していることは中途でも変わらないと考えています。会社を知る入口は、求人媒体ではなく、身近な人の口だということです。
身近な人が話せる中身を持っていなければ、その入口は開きません。ご家族が反対するのは、その入口が閉じたままだからです。
5. 家に持ち帰れるものを、選考の外側に置く
弊社のお客さまである前田機械さまは、求人サイトに掲載しても応募がゼロでした。技術も待遇も問題があったわけではなく、地域に存在が知られていなかったのです。
そこで、工場で働いている場面を採用マンガにして、地域へ配布しました。配布から10日で、見学の応募がありました。そのまま採用に至り、現在は第2弾を継続して運用しています。
この配布物には、求人票にはない性質が2つあります。1つは、探していない人の家に届くこと。もう1つは、家に置いておけることです。求人票は本人のスマホの中で閉じますが、絵で描かれた働く場面は、食卓に置けます。ご家族が、本人のいないところで読めます。
反対を説得で覆すのは、順番が逆です。反対が起きる前に、ご家族が御社を知っている状態を作っておく。応募のあとにしか会社を知る機会がない状態を、選考の外側へ広げるということです。
6. 反対が出てから説得するのではなく、前・中・後で回す
ご家族の反対は、内定のあとに表に出ます。けれども原因は、応募の前にあります。だから手を打つ場所も、内定のあとではありません。弊社は採用を、前・中・後の3つに分けて回しています。
- 採用の前。求人票が届かない、探していない方の日常に、働く場面を先に置きます。地域への配布物は、ご本人のスマホの中ではなく、食卓に残ります。ご家族は、ご本人がおられないところで読めます。
- 採用の中。手ぶらで来ていただける見学を置きます。ご本人が職場の空氣を一度吸って帰ると、家で話せる中身が変わります。「面接された」ではなく「こんな人がいた」になります。見学が効く条件は工場見学は採用に効くかに書きました。
- 採用の後。入った方が、次の語り手になります。「うちの親も最初は反対していました」と語れる社員の方が1人おられるだけで、次の年のご家族への答えになります。
この3つは、1回の配布では回りません。前田機械さまも、第1弾で終わらせず、第2弾を継続して運用しておられます。弊社はこの前・中・後を設計して回す側に立ち、お客さまとは1年以上、できれば何年も続くプロジェクトとしてご一緒しています。
7. 2年目に、ご家族が語り手に変わります
1年目に入った方のご家族は、入社から1年たつと、御社のことをいちばんよく知っているご家族になります。残業がどれくらいか、休みが取れるか、上司がどんな人か。求人票には一生書けないことを、食卓で1年分聞いておられます。
2年目の物語に、その話を1つ入れます。「最初は反対していたけれど、いまは安心している」という場面を、ご本人の了承をいただいたうえで、台詞にします。すると、次の年に内定を出す方のご家族が読むのは、会社が書いた説明ではなく、同じ立場だったご家族の言葉になります。
こうして年ごとに、ご家族が知っている場面が1つずつ増えていきます。反対の理由は「分からないから」でした。分かる材料を毎年1つずつ積むと、反対は減っていきます。去年の分を次の年に積み上げる形は中小企業の採用で毎年苦戦するのはなぜかに、応募そのものが来ない段階の話は求人に応募が来ない理由は何かに書きました。
8. 明日からできる3つ
- この1年で、ご家族の反対を理由に辞退した方を思い出し、そのご家族が御社について知っていたであろうことを3つ書き出してください。社名・給料・勤務地の3つしか出てこなければ、それが現状です。
- 社員の方お1人に「ご家族は、うちの会社のことをどう言っておられますか」とうかがってください。出てきた言葉が、次にご家族へ渡す中身の種です。
- その中身を、内定のあとではなく、応募の前にご家族の目に入る場所へ置く方法を1つ決めてください。地域への配布物でも、見学の案内でも構いません。内定後の説明会は、応募の後ですので数えません。
よくあるご質問
Q1. ご家族向けの説明会を開けば解決しますか。
内定後に開く説明会は、すでに反対が出たあとの対応です。効かないとは申しませんが、順番として遅い。ご家族が来てくださる保証もありません。反対が出る前、応募の前に知られている状態を作るほうが、確実です。
Q2. 会社案内やホームページを渡せば足りませんか。
ご本人が読む分には足ります。ただ、ご家族が最後まで読む前提では作られていません。文字が多く、写真は整った瞬間ばかりで、働いている人の1日が見えないからです。ご家族が知りたいのは実績や設備ではなく、うちの子がそこでどう扱われるか、です。
Q3. 反対する家族のいる人を、そもそも採らないほうがよいのでは。
それを言うと、応募者の母数がさらに減ります。ご家族に相談する人ほど、腰を据えて長く勤める傾向があります。相談される会社になるほうが、結果として定着します。
Q4. 中途採用でも、家族は関係しますか。
関係します。むしろ扶養や住宅の事情がある分、中途のほうが家庭内の合意の重みは大きくなります。上に挙げたマイナビの数字は新卒調査ですので、中途にそのまま当てはめてはいませんが、家庭で相談されるという構造は共通です。
Q5. どのくらいで効きますか。
前田機械さまでは、配布から10日で見学の応募がありました。ただ、これを標準の日数としてお約束することはできません。地域の世帯数、業種、時期で変わります。確かなのは、1回では足りないということです。1回配っただけでは、ご家族の記憶に「何か入っていた」以上のものは残りません。
Q6. 新卒ではなく、配偶者に反対される中途の方にも同じ手は効きますか。
効きます。配偶者の方が知りたいのは、残業がどれくらいか、休みが取れるか、家計がどうなるかです。求人票の数字より、「子どもの発熱で早退した日に上司がどう言ったか」という場面のほうが、判断の材料になります。前田機械さまの採用マンガも、新卒ではなく30〜40代の転職層に向けて作られています。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
御社に内定した方のご家族は、御社について何をご存じだとお思いですか。
ご存じであろうことを3つだけ書き出して、ご相談のときにお持ちください。3つ埋まらないことのほうが多いはずです。
社員の方と一緒に、ご家族が食卓で読める働く場面を物語にして、探していない方の日常へ先に置き、前・中・後を回して2年目へつないでいくところまで運用しています。採用マンガプロジェクトを見る
ご家族は、御社を選ばなかったのではありません。選ぶための材料を、渡されていませんでした。
前田機械さまでお作りしたのは、初日に遅刻した新人の話、説明どおりに行かなかった日の話、納期に追われた日の話の3話です。第3話では、失敗を申し出た新人に先輩がこう返します。「ええ判断や。隠すより100倍マシや」。求職者の方が知りたいのは、制度があるかどうかではなく、そのとき自分がどう扱われるかです。不安はひとつではありませんので、物語をつないでお届けします。
御社の場合はどの不安から描くとよいか、ご相談に乗ります。30分ほどお時間をいただければ、その場で1話目の見当までお出しします。相談してみる
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