
「近くに住んでいる人を採用できた。通勤も楽なはずなのに、半年ももたずに辞めてしまった」
定着しない理由は、入社後の待遇ではないことがほとんどです。入社前に思い描いていた働く姿と、実際に始まった毎日が、別物だったからです。そして通勤圏の採用は、このずれを最も小さくできる立場にあります。近いということは、入社前から会社を見てもらえるということだからです。
1. 辞める理由は「入社後」ではなく「入社前」にあります
早期に離職された方にうかがうと、返ってくる言葉はたいてい同じです。「思っていたのと違った」。
ここで見落とされやすいのは、「思っていた」の中身を作ったのは、会社が渡した情報だということです。求人票と面接で伝えた内容が、その人の頭の中に会社の姿を組み立てます。渡した情報が条件だけなら、条件以外の部分は本人の想像で埋まります。
想像で埋めた部分は、ほぼ確実に現実とずれます。ずれが大きいほど、入社直後の落差も大きくなる。定着の勝負は、入社式の前に半分ついています。
2. 条件で入った人は、条件で出ていきます
給与、休日、通勤時間。これらは衛生要因と呼ばれるものです。低ければ人は去りますが、高いから留まるという働き方はしません。
そして条件だけを理由に入社した方は、より良い条件が現れた瞬間に、留まる理由を失います。通勤15分で入った人にとって、通勤12分の求人は上位互換です。条件は、必ず誰かに上書きされます。
人が留まるのは動機づけ要因のほうです。任される範囲、覚えられる技術、認めてもらえること、一緒に働く人。これらは上書きされません。ほかの会社が同じものを用意できないからです。
3. 入社前に渡しておきたい、4つの場面
面談でうかがってきた「入ってみて初めて分かった」を並べます。この4つを先に渡せているかどうかが、定着の分かれ目でした。
- 失敗したとき、最初に何と言われるのか
- 休みを言い出すとき、どんなやり取りになるのか
- 3年後、何ができるようになっているのか
- 毎日いちばん長く一緒にいるのは、どんな人柄の人か
どれも制度の名前では答えられません。実際にあった場面でしか答えられないものばかりです。そして応募者の側から面接で質問するのは、まず無理です。「失敗したら怒られますか」とは聞けません。
聞けないまま入社し、初めての失敗の日に答えを知る。そこで想像とずれていたとき、人は静かに辞める準備を始めます。
4. 通勤圏の採用だけが持っている強み
ここが、地元で採る会社にとって最大の武器です。
遠方の応募者に働く姿を渡そうとすると、動画や資料に頼るしかありません。ですが通勤圏の相手なら、入社前に実物を見てもらえます。見学、半日の同行、朝礼への同席。近いというだけで、これらの負担がほとんどありません。
実際、応募の入口が「見学」だった方は、入社後の落差が小さくなります。すでに現場を見て、働いている人の顔を見たうえで決めているからです。通勤圏の採用で最初に用意すべきなのは、応募フォームではなく、見学の入口だと考えています。
5. 大阪市港区の前田機械さまで起きたこと
前田機械さま(大阪市港区)は、求人サイトに掲載しても応募がゼロという状態が続いていました。
そこで、働く場面を描いた採用マンガを作り、会社の近隣地域へ配布しました。求人サイトではなく、生活圏のポストへ届けたということです。結果として、配布から10日で見学の応募が入り、採用に至りました。現在は第2弾を継続して運用しています。
注目していただきたいのは、最初に来たのが「応募」ではなく「見学」だったことです。働く場面を先に見た人が、実物を確かめに来て、そのうえで決めた。この順番が、入社後のずれを小さくします。
6. 地元の人は、会社を知らないのではありません
ここがいちばん申し上げたいところです。
地元の人は、御社を知らないのではありません。知る機会がなかっただけです。求人は「いま探している人」にしか届きません。ですが定着まで含めてうまくいっている会社は、探していない人の日常のなかに、先に会社の姿を置いています。
マイナビの新卒調査(2027年卒・n=2,800・2026年3月20日から4月5日)では、地元での就職を希望する学生が58.7%で、前年より2.3ポイント増え、4年ぶりの増加でした。同じ調査で、地元企業を知ったきっかけの第1位は「家族や知り合いの勤務先企業の話を聞いたことがある」で44.0%です。これは新卒学生を対象とした調査ですので、中途採用にそのまま当てはめることはできません。ただ、会社を知る入口が求人媒体ではなく生活のなかにあったという点は、私どもが現場で見てきたことと重なります。
日常のなかで会社の姿を知った人は、入社前にすでに働く姿を持っています。だから落差が小さい。地元で採用したいのに応募がないという記事もあわせてご覧ください。入口の話と定着の話は、同じ一本の線でつながっています。
7. 明日からできる、3つの直し方
- 応募の前に見学を置く。通勤圏だからできることを、いちばん最初に使います。
- 入社前に、失敗の日の話をしておく。良いところだけを見せると、落差はそのぶん大きくなります。
- 直属の上司に、先に会わせる。会社に入るのではなく、その人の隣で働くのが実際の毎日です。
よくある質問
Q1. 定着しないのは、給与が低いからではないのですか。
給与が相場から大きく外れていれば、まずそこが原因です。ただ相場の範囲にあるのに辞められる場合、理由は条件ではないことがほとんどでした。入社前に描いた働く姿と、実際の毎日のずれをご確認ください。
Q2. 見学を受け入れる余裕がありません。
丸1日である必要はありません。朝礼に同席していただく30分でも、現場の空氣は伝わります。整えてから見せるのではなく、普段のままを見ていただくほうが、あとのずれが小さくなります。
Q3. 良くない部分まで見せたら、応募が減りませんか。
減ります。ただし減るのは、知っていれば来なかった方です。入社後に辞める方が先に減っていく、と考えています。
Q4. マンガを使うのは、どの場面ですか。
見学に来ていただく前です。会社紹介ではなく、この記事の3で挙げた4つの場面に絵で答えたものをお渡しします。文章で「風通しが良い」と書くと疑われますが、先輩が最初に何と言ったかを1コマで見せると、読んだ方が自分で判断できます。
Q5. どこから手をつければよいですか。
直近で辞められた方に、入社前にどんな毎日を想像していたかをうかがってください。そのずれが、いま渡せていないものです。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
御社に入る方は、初めて失敗する日のことを、入社前に知っているでしょうか。
知らないまま入ると、その日が退職を考える最初の日になります。直近3年で辞められた方の入社日と退職日を1枚に書き出してお持ちください。どの時期にずれが出ているかを一緒に見ます。
採用マンガの実際の取り組みをご覧いただけます。採用マンガの事例を見る
近いという強みは、入社前に会社を見てもらうために使う。
参考ブログ
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