
パリの展示会に出ることが決まった。現地の方に手に取って見ていただきたい製品見本も、ブースの見せ方も、社内で少しずつ固まってきた。そこで、ふと手が止まる。この品物は、どうやってフランスまで運び、どうやって持ち帰ればいいのだろう。向こうの税関で税金を取られるのか、書類は何が要るのか、誰に聞けばいいのかも分からない。そんな迷いに、心当たりはありませんか。
「展示会で使う品物は、フランスへどう持ち込めばいいのでしょうか」
持ち帰る品物なら、ATAカルネという通関用の書類を使う方法があります。展示品・商品見本・職業用具を、条約の加盟国へ一時的に持ち込み、期間内に持ち帰ることを条件に、輸入税を払わずに通関できる仕組みです。フランスは加盟国に入っています。ただし有効期間は発給日から1年以内で、持ち込んだ物は期間内に必ず持ち出す義務があります。持ち帰るまでが、出展の一部です。
以下、公的機関の案内で確かめられた事実だけを並べます。この記事は2026年10月12日に確認した内容です。費用や手続は改められることがありますので、申し込みの前に必ず発給元へご確認ください。
1. 海外の展示会で、品物の運び方に迷う理由
はじめて海外の展示会に出る会社の方から、よく聞く迷いがあります。
- 何に税金がかかるのか分からない。売るつもりの無い見本でも、国境を越えれば輸入の扱いになるのか。
- 手続の窓口が分からない。税関なのか、運送会社なのか、商工会議所なのか。
- いつから準備すればいいか分からない。会期の直前で間に合うのか、何か月も前から要るのか。
- 配る物と持ち帰る物の区別がついていない。冊子や試供品も、展示品と同じ扱いでよいのか。
どれも、製品やブースの中身より後回しにされがちな問いです。けれど、ここで詰まると、当日いちばん見ていただきたい物が会場に届かない、ということが起こります。
2. ATAカルネとは何か
税関の案内によると、ATAカルネは「物品の一時輸入のための通関手帳に関する通関条約(ATA条約)」に基づく国際的な通関用の書類です。商品見本や展示用物品、職業用具などを加盟国に持ち込み、仕事が終わったら持ち出して日本へ持ち帰る、あるいは別の国へ移る。そうした場合に、それぞれの国の税関でその都度通関書類を作らず、免税扱いで通関できる、と説明されています。
日本で発給しているのは、一般社団法人 日本商事仲裁協会です。同協会の案内では、カルネは「物品のパスポート」とも呼ばれますが、必ず使わなければならない書類ではありません。使わずに、その国の法令どおりの手続で一時輸入することもできます。ただしその場合は、国ごとに異なる通関書類を作り、輸入税を払うか、相応の担保を求められるのが通常だ、と書かれています。
3. 使う前に確かめておく5つの条件
税関と日本商事仲裁協会の案内から、展示会で使う方が押さえておきたい点を5つにまとめます。
- 持ち込む国が加盟国であること。フランスは加盟国です。ベルギーとスイスも加盟しています(英国政府の加盟国一覧で確認)。ただし用途ごとに国の扱いが違うことがあり、たとえばJETROは、米国は展示用品に対応していないと案内しています。行き先の詳しい扱いは、協会の「カルネ加盟国と使用状況」で確かめます。
- 有効期間は発給日から1年以内であること。JETROによると、条約上、延長はできません。
- 期間内に必ず持ち出すこと。持ち込んだ物は、有効期間内に必ず持ち出す義務があります。売ったり、譲ったり、なくしたりして持ち出せなかった場合は、後日、輸入税などの請求が来ます。
- 形が変わらない物であること。協会の案内では、日本に戻ったときに形状や性質が最初と同じである必要があるため、原則として食料品や消耗品は対象外です。
- 許可や承認が要る物は、その書類を添えること。法令で事前の許可・承認が必要な物品は、通関の際にその写しを添えます。
4. 費用と、準備にかかる日数
日本商事仲裁協会の案内では、はじめて使う場合は、オンラインでの利用登録をしてから、カルネを申請する流れです。利用登録は無料で、登録だけ先に済ませておくこともできます。
- 日数。利用登録から発給まで、営業日で最短1週間ほどかかる、とされています。
- 発給手数料。18,000円から、と案内されています。
- 担保。品物の総額に、国ごとの料率を掛けた現金を預ける方法と、品物の総額に応じた担保措置料を支払う方法の2つがあります。担保措置料は審査があり、返金はされません。協会によると、利用者の90%以上が担保措置料のほうを選んでいます。
担保が求められる理由も、協会がはっきり書いています。品物が期限内に再輸出されなかった場合、相手国の税関への支払いをまず協会が立て替え、あとで名義人から返してもらう仕組みだからです。担保は、持ち帰る約束の裏づけです。
5. 紙から画面へ。電子カルネが始まっています
協会の2026年8月27日更新のお知らせによると、2026年6月1日から、EU27か国・イギリス・スイス・ノルウェーの計30か国で、e-ATA(電子カルネ)の運用が始まりました。紙のカルネの代わりに、専用アプリを入れたスマートフォンやタブレットの画面を見せて通関申告をする仕組みです。日本を含む約80の加盟国・地域では、2027年末までに順次導入される予定と案内されています。日本から出す品物がいつ電子に切り替わるかは、申し込みの時点で協会に確かめてください。
6. 配る物は、持ち帰る物とは別に考えます
ここからは、私たちの経験からお話しします。
私たちはフランスのJAPAN EXPO等のマンガ関連イベントに、これまで計11回出展してきました。2015年のJapan Expoでは、弁当のブースで5,000食をお出ししました。会場で手渡して、その場でなくなる物です。
カルネは、持ち帰る物のための書類です。食料品や消耗品は原則として対象外と案内されているとおり、来場者の方に手渡して手元に戻らない物は、展示品と同じ扱いにはなりません。冊子・試供品・食べ物のように配る物は、展示品とは別に、どう運ぶかを早めに決めておく必要があります。扱いに迷う物は、運送会社や協会に先に確かめておくのが確実です。
そしてもう1つ。会場で手渡した物は、品物としては戻ってきませんが、受け取った方の記憶には残ります。手渡したその場で何が伝わり、会期のあとに何が残るのか。私たちが品物の手続と同じくらい大事にしているのは、そこです。
7. 品物の次に、物語を運ぶ
展示品を無事に運び、無事に持ち帰ることは、出展の土台です。けれど、言葉が通じない相手に「この会社は何をしている会社か」を伝えるのは、品物だけでは難しいことがあります。
私たちは、会社の物語をマンガにして、会期の前に現地の方に届け、会期中にブースで手渡し、会期のあとにも読み返していただく形をつくっています。作って渡して終わりではなく、前・中・後を設計し、翌年の2回目、3回目の出展へとつないでいきます。現地の来場者の方も、お客さまの社員の方も、その物語に関わる側になっていただく。だから「また会いに来た」という方が少しずつ増えていきます。
はじめての方は、次の順で動いてみてください。
- 持ち帰る物と、配る物を、2つの一覧に分ける。
- 持ち帰る物の一覧で、日本商事仲裁協会に利用登録をしておく(無料)。
- 配る物は、運び方と数を、会期の前・中・後のどこで手渡すかと合わせて決める。
よくある質問
Q1. ATAカルネを使わないと、展示会に品物を持ち込めないのですか。
いいえ。日本商事仲裁協会の案内でも、カルネは必ず使う書類ではないとされています。使わない場合は、その国の手続で一時輸入し、輸入税を払うか担保を出すのが通常です。どちらが合うかは、品物の量と金額によって変わります。
Q2. フランスの展示会のあと、ベルギーやスイスの催しに回れますか。
カルネは、加盟国から別の加盟国へ移る使い方も想定されています。ベルギーとスイスも加盟国です。ただし有効期間は発給日から1年以内で延長できませんので、回る順と日程を決めてから申し込みます。フランスと近隣国の催しの時期は、フランスと近隣国の日本文化の催しカレンダーにまとめています。
Q3. 展示品を会場で売ってしまってもいいですか。
カルネで持ち込んだ物を売った場合は、再輸出されなかった扱いになり、後日、輸入税などの請求が来ると協会は案内しています。売る予定がある物は、カルネとは別の手続を考えます。
Q4. ジャパンエキスポの出展料も知りたいのですが。
出展料は公式に公開されておらず、問い合わせで個別に示される形です。公式サイトで確かめられる事実は、ジャパンエキスポの出展料の記事にまとめています。2027年は7月8日から11日、会場はパリ・ノール・ヴィルパントと公式に案内されています。
Q5. 一度出展したら、それで十分でしょうか。
品物の手続は一度覚えれば次から楽になりますが、現地で覚えていただくには、続けることが要ります。海外の展示会が1回で終わってしまう理由もあわせてご覧ください。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
パリの会場に運ぶ品物のうち、来場者の方の手元に残していきたい物は、どれですか。そして、それを受け取った方に、会期のあと、何を思い出してほしいですか。
その答えが、持ち帰る物と、置いてくる物を分ける最初の線です。
品物を運ぶ準備と一緒に、会社の物語を現地に届ける準備を、会期の前・中・後と、その先の2回目・3回目まで一緒に運用しています。国際マンガプロジェクトを見る
持ち帰る物は、カルネで守る。置いてくる物は、物語で残す。出展は、品物が日本に戻るまで続いています。
出典(2026年10月12日確認) 税関「7302 ATAカルネの輸出入手続(本邦カルネ)」/税関「物品の一時輸入のための通関手帳(ATAカルネ)」/一般社団法人 日本商事仲裁協会「よくいただくご質問」「e-ATA(電子カルネ)運用開始のお知らせ(2026年8月27日更新)」/JETRO「ATAカルネの概要」(2026年8月更新)/GOV.UK「Countries that accept ATA Carnets」/Japan Expo公式サイト
