
「今回いただいた小間が、いちばん小さい区画でした。しかも通路の端です。大きなブースに挟まれて、埋もれてしまうのではないかと心配しています」
埋もれるかどうかは、広さでは決まりません。通路を歩く人が足を止めるのは、ブース全体を見比べたからではなく、視界の端に入った1点に反応したからです。1点なら、小さい小間でも作れます。むしろ、大きい小間ほど1点が散らばって、何の会社か分からなくなります。
1. 大きい小間が効くのは、足を止めたあとです
広い小間には、机も椅子も置けます。同時に何組も座って話せます。これは強みですが、すべて「立ち止まってもらったあと」に効く強みです。
立ち止まってもらう前の勝負では、面積はほとんど効きません。通路を歩く人は、ブースを1つずつ吟味していないからです。歩きながら、視界に入るものへ順に反応しているだけです。ですから、小間の大小ではなく、視界に入った瞬間に何が起きるかを設計します。
2. 通路を歩く人は、正面ではなく斜めから見ています
ブースの図面は、たいてい正面から描かれます。ところが、実際の来場者が正面に立つのは、足を止めると決めたあとです。それまでは、ずっと斜め前から見ています。
ここが、小さい小間にとって有利に働きます。斜めから見えるのは、正面の壁ではなく、通路側の角と、そこに置かれたものだからです。角は、どんなに小さい小間にもあります。角に何を置くかは、面積とは関係なく決められます。
3. 立ち止まる理由は、情報量ではありません
展示会では、3秒以内に印象に残らないと素通りされる、とよく言われます。数字そのものは資料によって幅がありますので、断定はいたしません。ただ、現場に立った実感としては、それに近い速さで通り過ぎられます。
そこで多くのブースが、情報を増やす方向へ進みます。パネルを増やし、文字を小さくし、実績を並べる。しかし歩いている人は、読んでいません。読ませようとするほど、読まれないものが増えます。
足を止めていただけるのは、読ませようとしていないものです。動いているもの、音が出るもの、誰かが笑っているもの、何をしているのか分からなくて氣になるもの。読む前に、目と耳が反応します。
4. 名刺の枚数を目標にすると、広さの勝負になります
ここに、もう1つの落とし穴があります。目標を名刺の枚数に置くと、たくさんの人を通せる広い小間が有利になり、小さい小間は最初から負けている前提になります。
ところが、集めたあとの実態はこうです。アペルザの調査(回答413名)では、来場者は1回の展示会で平均17社を訪問し、持ち帰った資料の94.9%は保管されていません。Sansanの調査(回答1,272名)では、受け取った名刺の57.7%が管理されないままです。一方で同じアペルザの調査では、訪問後に56.6%が検討を開始しています。
つまり、枚数はほとんど残らず、その場で何が起きたかだけが残ります。会期のあとにメールを送っても返事が来ないのは、送り方の問題ではなく、当日そこで何も起きていなかったからです。展示会は、リストを集める場ではなく、その場で盛り上がっていただく場です。この順番を入れ替えると、小間の広さは主な条件ではなくなります。
5. 小さい小間でできる、5つの手当て
面積を増やさずにできることだけを挙げます。
- 通路側の角に、1つだけ主役を置く。製品でも、動く実演でも、等身大のキャラクターでもかまいません。2つ置くと、どちらも印象に残りません
- 会社が何をしているかを、絵で1つ見せる。文字で説明しない。歩いている人は読めません
- 正面の壁を情報で埋めない。埋めるほど、斜めから見たときに何も見えなくなります
- 説明員は、ブースの中で待たない。通路に体を半分出して、人の流れと同じ向きに立つ
- その場で起きることを1つ用意する。触れる、動かす、その場で結果が出る。持ち帰る資料ではなく、その場の体験を作ります
5つとも、区画の広さに関係なく実行できます。
6. 株式会社美華道さまの場合
美華道さまは、第2回鉄道技術展・大阪2026(2026年5月27日から29日、インテックス大阪)に出展されました。床面サインの特殊施工という、言葉で説明すると分かりにくい技術です。
そこで、自社マスコット「シグナ・ミカ」を作り、ブースの主役に置きました。結果は、アンケート459件。前向きなご回答が164件で、全体の35.7%でした。会期中に見積のご依頼が19件。対話した相手の75.5%が、JRや上場企業を含む大企業層でした。
ご注目いただきたいのは、集めた枚数が多かったことではありません。前向きの割合が初日30%、2日目37%、最終日42%と、日を追って上がっていることです。ブースで何が起きているかが伝わるほど、立ち止まる人の質が変わっていきました。これは、面積を増やして起きる変化ではありません。
よくあるご質問
Q1. 端の区画は、やはり不利ではありませんか。
入口の正面にある区画より通行量が少ないのは事実です。ただ、端の通路は歩く速度が落ちます。急いで会場を横切る人が少ないためです。足を止めていただく設計とは、相性が悪くありません。
Q2. 予算がないので、大きな装飾はできません。
装飾を増やすことは、この記事ではおすすめしていません。増やすほど1点がぼやけます。優先していただきたいのは、通路側の角に置く主役を1つ決めることです。ここには費用をかける価値があります。
Q3. マスコットを作っても、社内で使いこなせるか不安です。
当日ブースに置くだけでは、確かに使いこなせません。会期の前に何をお伝えし、当日どうお声がけし、会期のあとどう思い出していただくか。この3つがそろって、初めて働きます。当社では、前と中と後をひとつのプロジェクトとして設計しています。
Q4. 名刺の枚数は、目標にしなくてよいのですか。
数えること自体は必要です。ただ、目標に置くと、当日の行動が「多くの人を通す」方向へ寄ります。目標に置いていただきたいのは、その場で具体的な話に進んだ件数です。美華道さまの例では、会期中の見積が19件ありました。この種の数字は、後から作れません。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
次の出展で、通路側の角に置くものは、もう決まっていますか。
そこに置くもの1つが、小間の広さより先に効きます。ご相談のときは、いまの小間図面を1枚そのままお持ちください。
通路から見える1点を、前と中と後でつないでいます。展示会マンガプロジェクトを見る
広さは、足を止めたあとに効きます。足を止めるかどうかは、角に置いた1点が決めます。
参考実績
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