
「フランスのマンガの催しに出展してみたいと思っています。社内の予算は来年度からなので、再来年の1月に出るつもりで動いています。日程は毎年ほぼ同じ時期のようですし、この組み方で問題ないでしょうか」
問題になることがあります。規模が大きいことと、来年も開かれることは、別のことだからです。実際に2026年、フランス最大のマンガの祭典が中止になりました。予定を組む前に確かめるのは、規模でも知名度でもなく、誰が主催していて、公式の告知がどこに出ていて、過去に中断がないかの3つです。
以下、公表されている記録と、弊社が11回の出展で見てきたことを分けて並べます。
1. アングレーム国際漫画祭は、どれくらいの催しか
フランス南西部のアングレームで毎年1月下旬に開かれてきた、バンド・デシネ(フランス語圏のマンガ)の祭典です。アングレーム市の公式サイトによれば、1974年に始まり、最も多い年で4日間に約20万人が訪れ、アジアを除けば世界最大の規模とされています。
日本のマンガとも縁が深く、弊社代表がフランスの項を執筆したデジタルコンテンツ白書には、2013年1月に鳥山明先生へ40周年記念の特別賞が贈られたことが記録されています。
この規模と歴史をご覧になれば、来年もあるものとして予定を組みたくなります。私もそう思っておりました。
2. その催しが、2026年は開かれませんでした
2025年12月、2026年1月末に予定されていた回が正式に中止となりました。フランスの公共放送を含む複数の報道が伝えています。創設された1974年以来、感染症の流行期を除けば初めてのことです。
理由は、来場者が減ったからでも、費用が足りなかったからでもありません。運営の不透明さと商業化への批判から、多くの作家がボイコットを表明し、出版社が出展を取りやめたためです。会場が使えなくなったのではなく、出る人がいなくなりました。
ここは、出展を考える側にとって大事な点だと思います。中止の予兆は、会場や日程の情報には出てきません。出る側と主催の関係が壊れるところから始まります。案内サイトの日程表を見ているだけでは、最後まで分かりません。
3. 2027年は、運営会社を替えて再開に向かっています
アングレーム市の公式サイトに、再開までの日程が公表されています。バンド・デシネ振興協会が新しい運営者を公募し、次のように進みました。
- 2026年3月12日17時 応募の締切
- 2026年3月16日から4月3日 審査
- 2026年4月6日から10日 最終候補3件との面談
- 2026年4月13日から17日 選定結果の発表
発表は2026年4月21日でした。選ばれたのは映像・イベント制作会社のモルガンヌで、1992年設立、ラ・ロシェルのフランコフォリーとブールジュの春という大型の音楽祭を運営している会社です。企画を率いるのは、出版社ダルゴーの元幹部マリー・パリゾ氏と、ランスのポップ・ウーマン・フェスティバルを創設したセリーヌ・バゴ氏の2人です。独立した審査員が4件の応募を審査した、と伝えられています。
2027年の回は、第1四半期のうちに4日から6日間で行うとされ、これまでのように1月最終週末に固定はしないと説明されています。なお、前の運営者は新たに選ばれた会社に対して法的手続きを取っており、話が完全に落ち着いたわけではありません。
本稿を書いている2026年9月3日の時点で、弊社が確認できた範囲では、2027年の確定日程は主催の公式告知としては見当たりませんでした。日程を掲げている案内サイトはありますが、出典が示されていません。渡航や出展の予定を組まれるときは、必ず主催の告知でご確認ください。
4. 「一覧に載っているから、いまもある」とは限りません
弊社が持っているフランスのイベント一覧は、デジタルコンテンツ白書の2008年・2009年・2013年の記述と、現行情報を突き合わせたものです。この一覧を使うときに、毎回つまずくところがあります。
白書には、2012年度のフランスでマンガ関連のイベントが年間58件あったと記録されています。出典はイベント情報サイトのノティルジョンです。ただしこれは2012年度の数であって、いまの数ではありません。
実際、当時の一覧に載っていた催しの中には、すでに終わっているものがあります。
- レンヌのニオン・ブレイズ・フェスティバル。2013年に始まり、2016年は休止、2017年に第4回を開いたのち、2019年1月31日に終了を発表しました。理由は費用でも来場者減でもなく、「十分にやる気があり能力のある運営の担い手がいない」というものでした
- ニームのジャパニームは2013年で終わっています。いま同じ街で続いているのはマンガニームという別の催しで、2026年に第7回を数えました
名前が似ている、街が同じ、時期が近い。この3つが揃うと、別の催しを同じものだと思い込みます。私自身、レンヌの催しは終わったと聞いていたのに、いまも別の催しが続いていることを後から知りました。
5. 出展先を決める前に、確かめる順番
調べる項目を増やすより、順番を固定するほうが早いと考えております。弊社では次の5つを、この順で見ています。
- 主催が誰か。会社か、協会か、有志の運営か。担い手が交代したときに残る形になっているか
- 公式の告知に、開催日と会場と出展の要項が載っているか。案内サイトの日程は出典として扱わない
- 過去に中断・改称・終了がないか。回数の表記(第7回など)は、途切れていないかを見る手がかりになります
- 開催日の掲示が、公式・会場・報道の3か所で一致しているか。ここが食い違う催しは、当日の運営もそのぶん揺れます
- 1回で判断しない。1回目で分かるのは、その催しに自社の話が通じるかどうかだけです
5番目については、白書に残っている記録が参考になります。山陰国際観光協議会は2012年と2013年にジャパンエキスポへ連続で出展しました。白書には同時に、自治体が1回で諦めてしまう理由、担当者が交代して熱が続かなくなる事情も書かれています。続かない理由のほうが、詳しく残っているわけです。
弊社は、フランスのジャパンエキスポなどのマンガ関連イベントに計11回出展してまいりました。11回のうち、同じやり方が通用した年は一度もありません。会場が変わり、主催が変わり、通路の流れが変わります。それでも続けてこられたのは、毎回その場で決めていたからではなく、行く前に確かめる順番を持っていたからだと思っております。
よくあるご質問
Q1. アングレームは、企業が出展できる催しですか。
作家と出版社が中心の祭典で、産業見本市とは性格が違います。企業として出るのであれば、ジャパンエキスポのような一般来場者の多い催しのほうが噛み合います。アングレームは、出展先というより、フランス語圏のマンガ市場で何が評価されているかを見に行く場としてご覧になるのが実際的です。
Q2. 中止になった催しに、次の年から出るのは危ないですか。
一律には申し上げられません。見るべきは、中止の理由が解消されたかどうかです。会場や資金の問題であれば、解消したかは外から確かめられます。今回のように出る側との関係が理由の場合は、作家や出版社が戻ったかどうかが、いちばん早い判断材料になります。
Q3. 開催日が案内サイトに出ていれば、航空券を取ってよいですか。
主催の公式告知で同じ日付を確認できるまでは、お待ちください。案内サイトは前年の日程をそのまま繰り越して表示していることがあります。弊社では、公式・会場・報道の3か所が一致してから手配しております。
Q4. フランス語が読めないと、確認はできませんか。
翻訳で足ります。ただし、翻訳する前に「どこを読むか」を決めておいてください。読むのは、主催の告知ページ、出展の要項、そして直近2年ぶんの開催記録の3か所だけです。全文を訳そうとすると、かえって判断が遅れます。
Q5. 現地の催しに詳しい代理店に任せてしまうのは、いけませんか。
手配はお任せになってよいと思います。ただ、どの催しに出るかの判断だけは、社内に残しておかれることをお勧めします。判断を外に出すと、翌年に担当者が代わったとき、なぜその催しを選んだのかが社内に残りません。続けられなくなる会社は、たいていここでつまずいています。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
いま出展をお考えの催しについて、主催者の名前を挙げられますか。
挙げられるようでしたら、その主催者の公式ページを1枚だけ印刷して、ご相談のときにお持ちください。挙げられないようでしたら、そこが最初に調べるところです。
海外での実際の取り組みをご覧いただけます。国際マンガの事例を見る
規模が大きいことは、来年もあることの保証にはなりません。確かめる順番を持っている会社だけが、続けられます。
参考ブログ
参考実績


